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DAEMONs_EATER-デモンズ・イーター-  作者: 横須賀銀次
第一章「東京亜獣迎撃戦編」
1/1

第一狩「始まりの時」

半年かけてようやく納得のいく構成に出来上がりました。

月が2桁いったら投稿するとか、それ以前にもう年越しちゃいました笑

時間をかけて続けていきたいと思いますので、応援よろしくお願いします!

 












 何かが始まるのには、必ず「前兆」が起きるものだ。

 喧嘩だって戦争だって、突然起こるものではなく何かしらの前置きがある。例えば、喧嘩の場合はX君が仲の良かったY君のゲームを壊したとしよう。X君は事故と言い張って何とか自分を正当化しようとするが、Y君からすれば大事なゲームを壊されたんだ。事故だと割り切って許すことは難しいだろう。これが「前兆」となって喧嘩が発生し、やがて二人の間に軋轢が生まれる。

 仲の良かった二人が何の原因もなく突然喧嘩別れする事はほぼ無い。そんな二人が、「ゲームの破損」という「前兆」によって分かたれてしまうのだ。

 そんな風に、「前兆」とはそれだけで今までの道理を全て覆してしまう恐ろしいものだ。




 俺があいつと出会ってしまったのも、恐らく…いや間違いなく「前兆」の類なのだろう。





ーーー夢を見た。遥か昔の遠い記憶。まだ幼い頃の微かな記憶の断片でしかないが、これが月崎(つきざき) 蒼魔(そうま)の始まり…第二の誕生と言ってもいいだろう。

 夢の中で、蒼魔は目の前で横たわっている老人から一振りの太刀を渡される。


『これを君に託そう…。君にならこれを、正しく使えるだろう…』


 老人はそう言い残すと、蒼魔の声に耳を貸すことなく事切れた。蒼魔にとって、この老人がどの程度の人物なのかは全く覚えていない。

 だが、蒼魔はこの夢を見る度にーー





「くっ、うぅ…またあの夢か…」


 覚醒した俺は自分の目元をそっと拭って涙を拭いた。

 昔からこの夢を見ることが多かった。そしてその度に、自分が知らないうちに涙を流してしまうようだ。


「ほんっと誰だよ、あのじいさん」


 記憶が曖昧なせいか、顔に靄がかかったように見えて、老人の正体は未だに思い出せていない。

 ただ、この夢を見る時に限って、俺の顔にはいつも涙の跡が残っているのだ。

 ベッド代わりのソファから起き上がると、キッチンの方から油の弾ける音と野菜の香りが飛び込んできた。


ーーもう起きてたのか、珍しいな。


 久しぶりの同居人の早起きに感心しながらも、ハンガーにかけている高校の制服に腕を通し、登校の準備をする。

ーーよしできた、と準備を終えたところに、丁度同居人が姿を現した。


「そーまさん、そーまさん。あさごはんできましたよ」


 小さな体から生える腕をめいっぱい広げた状態でキッチンから現れた小学生くらいの女の子は、元気そうに言うが言葉に感情は込もっていない。そのあべこべな感じが彼女ーー九雛(くひな)の個性だ。ちなみに彼女は俺の妹ではない。

 何故彼女が自分の家にいるのかというのは追々話すとして、俺は匂いの元の皿に目を向ける。


「ーーおい、なんだこりゃ?」


「なにって……めだまやきです」


「なんと…」


 思わず眉間にシワを寄せてしまった。ついでに溜め息まで洩れてしまうとは…。

 すっかり年季の入った木製の食卓に置かれた皿には、寄せ集めの灰の塊のような何かが置かれていた。もちろん殆ど原型はない。めだまやきと言われてそれを鵜呑みにするやつを眼科に叩きつけたくなる程だ。


「まあ、流石にまだお前には早かったな。気持ちだけは受け取っとくから、今から俺が作り直すよ」


そう言って俺は台所に立とうとしたのだが、


「……たべないの、ですか?」


「え」


「………」


 これが無言の圧力というやつか。こいつが今までこんなに主張したのは初めてだが…よほど今日は気合を入れていたのか。だとすると、些か悪いことをしたな。


「わ、わかったわかったよ。俺も食べるから、さあ食べようぜ。いただきます」


「ぜんぶあげます」


「は?」と聞き返す前に、九雛はランドセルを背負って元気そうにーー本当に元気なのかは分からないがーーせっせと小学校に向かってしまった。

 あいつ…最初から全部食わせる気だったな…!


「〜〜〜っ!ええい、ままよ!!」


 最早食い物とは呼べない代物と化した卵に詫びながら、猛烈な勢いで胃に押し込む。水で流し込むが、それでも異物感がどうにも抜けない。

 なんとか押し殺しながら、俺は覚束無い足取りで家を後にした。







☆★☆★☆★☆★☆★









 俺の通う夢望(ゆめのぞみ)高校は、日本に残された二つの都市の片割れである東京に唯一存在するもので、東京中の高校生が集う超大型の高校になる。

 高校と言っても、実質は元有名私立大学の広大な敷地をいじくって建てられた一種の学園のようなもので、その敷地内には先ほどの九雛の通う小学校も存在する。


「はぁ、はぁ、ーーうっ!?」


 無論、それだけ広大な敷地となると、校舎の一つ一つはかなり遠い間隔で配置されているわけだ。朝からゲテモノと呼べてしまいそうな物を口にしてしまった俺には、少々とは明らかに程遠い位置にある程の苦行であった。

 何せ、腹を襲う何かに格闘しながら約一キロある通学路を歩き、敷地についたら、今度はその敷地内の最奥に佇む高校校舎に入り、更には全十二階層を持つビルのような校舎の六階に位置する自分の教室に向かうのだ。これを苦行と呼ばずして何とする。


「っ最悪だッ…!何でこんな思いしてまで、学校なんぞにィ…」


 緊急事態なので、車椅子用のエレベーターを使って教室に何とかたどり着いた。

 一刻も早くトイレに行きたい。そして上からでも下からでもいいからとにかくこの体の中にあるものを全部ぶちまけてやりたい。

 途中何人かの教師や生徒に奇異な視線を向けられたが知ったことではない。それ以上に、この苦痛の方が優先されるべき事態なのだから。


「おっす月ざーーお前どしたその顔!?」


「え、ああ…ちぃっとばかし腹痛でな…」


 とてもそうは見えない、と顔に書いてある程に分かりやすい表情をするクラスメイト達に強がりながら、俺は机に鞄を放ると全速力でトイレに駆け込んだ。








☆★☆★☆★☆★☆








「こちら、ツヴァイ・アシュテルリッヒ中佐。トウキョウに到着した。指示を願う、オーバー」


 東京に降り立った人影は、周囲の人間を圧倒するほどの覇気を纏っていた。皆様子は違えど、内心では同じことを考えているだろう。

ーー怖い、と。

 ツヴァイ・アシュテルリッヒと名乗る、黄金の髪を短く切った軍人は耳に手を当てて、じっと相手の返事を待つ。そして小さなノイズの後に、それは返ってきた。


『こちら統合軍本部。直ちに現地の案内人と合流し、事前に指定されたポイントに移動せよ、オーバー』


「了解。直ちに行動に移る、オーバー」


 小さく頷いて通信を切ると、ツヴァイは傍らのキャリーケースを引き摺って出口を目指す。


ーーこんな小国に、俺が赴く価値があるというのか…?祖国は何を考えている?


 ツヴァイはギリッと奥歯を噛み締めながら、合流地点にいるという協力者を探す。


ーーあれか?


 待合用のソファにどっかり上半身を預け、下半身を放り出しているいかにも態度の悪い男がそこにはいた。歳は…判断がつかない。十代後半、もしくは二十…三十代もあり得る。

 情報によると、男の容姿はグレーのパーカーに黒いサングラス。そして、もう一つ。


「おっ?もしかしてあんたが、例のツヴァイ何たら中佐か?」


「ツヴァイ・アシュテルリッヒ中佐だ。統合軍への協力、感謝する」


「俺は高天原(たかまがはら)。こちらこそ、こんな男にこれしきのことで大金くれるとは、ありがたいねぇ」


 高天原と名乗る男は軽く笑うと、ツヴァイに向けて右手を差し出した。


「無骨な手だけども、勘弁してくれよ?」


 ツヴァイがそれを握ると、その手はツヴァイに触れた瞬間、奇怪な音を立てた。

 

『ーーピピピッ、登録完了。識別信号グリーン。味方と認識しました』


「ーーーッ!?」


 右手を反射的に払いのけると、男は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに先ほどの表情に戻っていった。

 そして、薄手の手袋で覆っていた右手をゆっくりと露わにした。


「…黒の、義手か」


 それが協力者の大きな特徴。機械的な光を薄らと浮かべる男の右手は、ツヴァイの目にはひどく異質に感じられた。


「事故で胴体の右側を持ってかれちまってな!まあでも今じゃあ、こっちの方が使い勝手がいいから気に入ってるぜ!」


 自慢気に義手の機能を言い並べる男の話を耳障りに思いながらも、ツヴァイは男を連れて空港を出る。

 鉛色の空がこれからの事を暗示しているかのように思え、ツヴァイはそれを鼻で笑った。


「何が起きようとも、統合軍の名においてーー切り伏せるのみだ」









☆★☆★☆★☆★☆★










 新暦2017年。平穏だった地球は、突如宇宙より飛来した謎の地球外生命体「亜獣」ーーデモンズによって瞬く間に崩壊した。

 文明の大部分は停滞し、残った僅かが数少ない土地で息を潜めているこの地球に、昔のような人口は存在しない。

 以前まで存在した人口の内の6割は亜獣によって殺されたり、または奴らに寄生され仲間となって、生き残った人間に立ちはだかった。日本はその頃、甚大な被害を受け、東京及び京都以外の都市がほぼ陥落して敵の手に落ちたという。


 そんな絶望的状況の中で一縷の希望となったのが、研究者「風島(かぜしま) (さとる)」博士である。

 世界中の超名門大学などで講義も行っていた生物学の権威だ。

 博士はその頭脳と行動力で亜獣を連日研究を重ね、その結果亜獣の弱点、及び生態系を解き明かした。それらの研究成果は各国政府に通達され、武器製造など様々な技術に活かされることとなる。


 亜獣が苦手とするものは、亜獣の身体を覆うように構成されている「アルトロイド」と呼ばれる超硬物質で、皮肉にも自らを守る鎧の役割を果たすそれが自分を殺す刃となるのだ。

 博士の推論によると、亜獣の住んでいた星に存在するアルトロイドから身を守る為に、奴らはそれを纏えるような皮膚を生み出した。やがて奴らは寿命を延ばし、それに伴う個体数の増加に星が追いつかずにキャパオーバー。新たな居住地を探していたところに地球を発見したという事らしい。


 風島博士の研究によって、人類の反撃は始まった。各国は総力を結集して、亜獣を捕獲し、そこからアルトロイドを収集した。首脳陣は技術者にアルトロイドを用いた武器製造を言い渡した。その結果、地球規模で行われた大規模な武器製造ラッシュで、各国にアルトロイドが使われた武装が流通し出した。

 それと同時に進行していた計画。それは「ヴァルキリー計画」と呼ばれ、各国主要都市をアルトロイドの壁で囲うことで外からの亜獣の攻撃を防ぐというものだ。その壁を人々は「アイギス」と呼んでいる。

 亜獣達は地球にやって来て爆発的に数を増やしていた分、アルトロイドが底をつくことはなかったので、この計画はすんなり成功。東京と京都などの世界的な都市は、(アイギス)によって黒い要塞と化した。


 時代は少し進み、減少の兆しが見られた亜獣達に追い打ちをかける様に、風島博士は亜獣殱滅の切り札として、ある新兵器を開発した。

 その名はーー「獣喰武装(デモンズ・イーター)

 選ばれた者にのみ扱える999の武器。それぞれが個性を持ち、あらゆる亜獣との戦闘を想定して開発された特効薬。

 だがそれは同時に人間同士での対立の原因としても、扱われるようになったという。




「ーーー以上が亜獣飛来から今までの地球の大まかな流れだ。お前らも既に知ってると思うが、今度のテストでこれが分からなかった奴はどんな高得点でも補習だからな!!」


 授業担当の歴史教諭の脅しを聞き流し、そうしている間に授業の終わりを知らせるベルが校内に鳴り渡る。

 それを合図に先生は教室を去り、それを確認した教室内の生徒達は周囲の人間との束の間の休息を満喫する。

 かく言う俺ーー月崎蒼魔もその一人。

 窓の外の更に奥にそびえる巨大な黒壁(アイギス)を眺めながら、眠気を帯びた身体を机に預けた。


「あれ…月崎君、何かお疲れ?いつもの元気はどこ行ったの?」


「ああ、日暮さん。いやちょっと朝ゴタゴタしてたから」


 なるほどね、と合点のいった表情でうんうんと一人頷く女子生徒ーー日暮(ひぐらし) (あかね)さんを、机に上半身を置いた状態で見上げる。

 同い年とは思えない発育の良さに、思わず凝視してしまう。

 落ち着け俺、これはあれだ。…パッドだ!そうだパッドなんだ!きっと人よりまな板なことを気にした彼女は詰めたんだ、そうに違いない。

 頭の中ではこんなにも理性が勝っているのに、俺の目はいつまで経っても、よそ見をする日暮さんの組んだ腕から持ち上げられている双丘に釘付けになっていた。


「……ん?どうしたの?」


「ーーえっ!?あっ、いやぁ何でも…あははは」


 怪訝そうな顔をされたが恐らく大丈夫。誤魔化せたはず。日暮さんはあれでひどく鈍い所があるから、きっと大丈夫。

 そう信じるしかない俺は内心では祈りを捧げながら、視線を他所へ移す。のだが、


「あっそうだ!じゃあ今日放課後にデートしない?」


「はぁい!?ーーっておわっ!」


 驚いた拍子に俺はバランスを崩してしまい、椅子に座ったままゆっくり後方へ倒れていった。


「だ、大丈夫…?」


 心配してくれているのか、日暮さんは俺の元に駆け寄り顔をのぞき込む。

 だからその姿勢だと、色々やばい!本当にまずい!

 屈んだことで太ももの間から僅かに見える絶対領域の向こう側。折り曲げた膝に当たってその形を大きく歪める大きな…あれ。

 その格好の全てが、俺の心をひどく掻き乱す。


「いやぁ大丈夫だって!ちょっと頭打っただけだから!すぐ保健室行ってくるから!」


 日暮さんの制止を聞かず、俺は逃げたい一心で教室を後にした。

 実際には頭部には傷一つ無い。日頃の仕事に比べれば、あの程度の打撃など蚊よりも取るに足らない程だ。

 少し教室から離れ、一息ついた所で俺はポケットに突っ込んでいた端末を開いた。


『亜獣出現情報』

 ・新着情報無し


「今日は平和か…まあいいや、それに越した事はないしな」


 再び端末をポケットに押し込んだ俺は、どういった心境でかは知らないが、いつの間にやら校舎の屋上から街を眺めていた。

 高層ビルの様な校舎は街を見下ろすのに適していて、何か異常があったときに場所を特定しやすいのだ。

ーーこの所、亜獣に関する情報があまり無いな。平和だから良いと言われればそれまでだが、どうにも腑に落ちない。急に活動頻度が少なくなったのは確か一年ほど前からか。特に何かあった覚えはないが…。


「何か、やな予感がするな…」


「ーーあの」


 背後から呼ばれた声に振り向いた俺の前には、見るからに普通の少女が立っていた。

 高所ゆえの冷たい風が少女の髪やセーラー服のスカーフを大きく揺らす。

 少女は俺が振り向いたのを見ると、大きく頭を下げた。必死さがひしひしと伝わる、心からのお辞儀だった。


「お願いします!私の依頼、受けてください!」


「あぁ…まあとりあえずーー」


 俺は近くのベンチに腰を下ろし、顔を上げた少女に自分の隣に座るよう促す。


「とりあえず、話だけでも聞かせてよ。この獣猟者(ハンター)、月崎蒼魔に出来ることで良ければ協力させてもらうから」





ーーーこれが、全ての始まり。

ーーーこれが、全ての前兆。

ーーーこれが、全ての静寂が滅ぶ時。














次回投稿は基本不定期で…


日程決めちゃうと怖いというか、焦ってろくな文にならないかもというかなので、すみませんがお待ち下さい!

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