8話
輝は最近、ご飯を食べるときに、よくむせるようになった。
飲み込みにくくなってしまったのだろう…
そのせいで食欲は落ち、僕の料理でも、完食してくれなくなった。
「ひ~か、姿勢正そうな」そう言って僕は輝のベッドを起こして、輝の姿勢を正した。
こうすることで、少しはむせにくくなるらしい。
僕は少しずつ口に含ませて、輝が飲み込むのを待ってから、次の一口を入れた。
「兄貴、もう要らない」輝は、半分くらい残してそう言った。
「もう少し頑張れる?」
「ううん。嫌…ごめんね」強制させるわけにはいかないから、ベッドを倒してから、お皿を下げた。
「おはよー輝」次の日になって、僕は輝を起こしに来た。
「おは…」そこまで言って、輝は驚いていた。
「ん?どうした?」
「兄貴…声…出ない」
「えっ…」話しにくくなったの?
「兄貴…」そう言ったあと、輝は天井を見つめて、呆然としていた。
話しにくくなることは分かっていた。
でも早すぎる…
それから数日、輝はほとんど喋らなくなった。
話すことが好きで、輝がいればうるさくなったのに…
「ひか…中庭行こうか」僕がそう言うと、輝は無言で頷いた。
「ひか、このお花綺麗だね」
「……」
「ねぇひか~」
「……」
僕は病室に戻って、輝をベッドに寝かせた。
そして、どうしたら輝の声が聴けるか考えた。
考えて考えた結果、絞りだした言葉は、
「ねぇひか…お話ししよう?」だった。
「……」
「ひか、輝が伝えようとすれば、絶対伝わるんだよ?」
「僕は輝の伝えたい相手じゃないの?」僕がそう言ったとき、輝の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
その涙は止まることを知らずに、輝の頬を濡らし続けた。
それは、輝が僕にやっと見せた弱さだったのかもしれない。
「輝、辛いときは泣いていいんだよ?今まで我慢してきたんだよね。ごめんな」そう言って僕は輝の涙を拭った。
「兄貴…ごめん…ね」
「ひか、大好きだよ」
「僕…も、大好き…」輝の言葉はゆっくりだったけど、確かに伝わった。
「ひか、これ…」そう言って僕はさっき摘んできた綺麗なお花を、輝の頭につけた。
輝は、
「兄貴…これは彼女にするものだよ」って恥ずかしそうに笑った。
心からの笑顔だった。
僕はこの笑顔を一生守っていくよ…




