6話
「おはよー輝」
「うん。おはよー」声のトーンはいつも明るい。だけど、やっぱり表情は暗かった。
「中庭行こうか?」
僕たちの間では、朝一番に中庭に行く約束になっている。
「うん。待って」そう言って輝は、細い腕で体を支えて、車イスに座った。
座ったときには、もう輝はヘトヘトで、汗をびっしょりかいていた。
「頑張ったな…よし行こう」そう言って僕は輝の車イスを押して、中庭に行った。
「兄貴、もう疲れたよ…」輝はそうつぶやいた。
「えっ?」
「ううん。病室戻ろう?」
「もういいの?」いつもはまだ「あっち行く~」とか言っている時間だ。
「兄貴も仕事あるでしょ?」そう言って笑った顔は、下を向いてしまった。
「朝ご飯食べよっか」そう言って僕は輝の目の前に朝ご飯を置いた。
「えーやだ。おいしくないんだもん」輝はいつもそう言って、自分から食べようとしない。
やっぱり病院食はおいしくないらしい…
「食べないと駄目だろ?」点滴は出来れば避けたい。
「はーい」そう言いながら輝は渋々フォークを握った…はずだった。
フォークは床に音をたてて落ちた。
ちゃんと持てなかったみたいだ。
「えっ…」輝は動揺しているようで、そのまま固まっていた。
僕はフォークを洗って、朝ご飯のトレーに置いた。
輝はフォークを握ったけど、やっぱり床に落ちてしまった。
「ひか…?」
輝はフォークをしっかりと握って、食べ始めた。
それでも上手く食べられない…
僕は必死に頑張っている輝を見て、手伝わないことを決めた。
車イスのときだってそう。自分でまだ動けるうちは、輝だってまだ動きたいんだ。
でも、涙目の輝に
「兄貴…」って見つめられて、僕はどうするべきか迷ってしまった。
そして、僕は輝の手をそっと支えた。




