12話
文字盤を使うようになってから、輝が僕によく甘えてくれるようになった。
「兄貴、外行こう」
「ん?どこ行く?中庭でいいの?」
「ううん、公園。母さんたちとよくお花見した所」
「はいはい。じゃあ行こーか」
「うん!」僕は輝を車イスに乗せて、公園に向かった。
今はちょうど桜の花が満開で、お花見シーズンだった。
「桜凄く綺麗だね」
「そうだな…そういえばずっとお花見なんてしてなかったね」
「うん。兄貴楽しい?」
「楽しいよ。ありがとう」そう言いながら僕は輝の頭をなでた。
輝はニコニコしながら、
「この桜の下で座ろうよ」って言った。
「うん、了解!ひか、車イスから降りる?」
「うん!いいの?」
「僕にうっかかっておけばいいからね」そう言って僕は輝を車イスから下ろした。
僕は輝を抱きしめる形で輝が倒れないように支えた。
ここって母さんたちとよく来たな…
そういや輝が母さんのお腹の中にいたとき、ここで僕が輝の名前決めたんだよね…
母さん、父さん、
あんなお兄ちゃんお兄ちゃんって泣き虫だった輝がこんなに大きくなったんだよ。
そんなことをふと思った。
輝に構って無かったなと思って輝を見ると、輝は目から涙を流していた。
「ひか?」輝を抱きしめながら呼びかけても、何も反応してくれない。
ただただ涙を流していた。
だから僕も無言で輝を抱きしめた。
「んーあ…に…き…」輝は涙を流しながら、僕を呼んだ。自分の声で…
「ひか?どうしたの?」そう言いながら僕は文字盤を輝の前に置いた。
「何で、何で僕なの?」
「ひか?」僕が輝の涙を拭っても拭っても輝の涙は止まらなくて、瞬きで話せなくなった。
「ひ~か、泣かないで、まだ僕何にも分からない…」
輝が少し落ち着いて、話せるようになった。
「兄貴…何で病気は僕を選んだの?何で僕なの?」
「輝…」僕は何も言えなかった。
「さっきね、桜の木を見てると母さんたちがいた頃のことを思い出したんだ」
「僕が走り回って、兄貴が『輝~』って追いかけて…」
「母さんたちが僕らを見て笑って…」
「僕は楽しかったんだ。幸せだったんだ…」
輝が最後に伝えた言葉が僕の心をえぐった。
『だった』っていう言葉が…
「輝…」
「兄貴…僕はどうすればいいの?このまま死んでいくの?」
「嫌だ。僕は輝に生きていて欲しい。輝は僕の幸せだ。僕は輝の幸せになれないの?」
「兄貴…」
「僕は輝の幸せになりたい…何があっても守るから…」
「兄貴は僕に生きて欲しいの?何にも出来ない僕に…」
「当たり前だろ?僕は輝が大好きなんだ。今じゃなくていい。僕は輝に『僕は幸せだ』って言って欲しいんだ」
「兄貴…ありがとう。僕は幸せだね」
「えっ?」
「兄貴にこんなに思ってもらって…」そう言って輝は一筋だけ涙を流して笑った。
輝はあんなに苦しんでたんだね。
僕は輝の苦しみを取り除きたい。
そして…
僕は輝の幸せになりたい。




