11話
「ひーか、どうした?」
朝ご飯を作って輝に食べてもらおうとしても、輝は口を開けてくれない。
「ん?体調悪いの?」
「んー違…う」そう言いながら輝は右手を動かし始めた。
「輝?」輝はテーブルの上まで右手を持ってくると、スプーンに手を伸ばした。
それでもスプーンは握れなくて、とても悔しそうだった。
僕は手伝わないつもりだったけど、輝の手にスプーンを握らせてあげた。
そしてゼリーを輝の目の前まで持ってきた。
輝はしっかりとスプーンを握って、ゼリーをすくった。
右手を動かし始めて約20分後、やっと一口食べ終わった。
「輝、頑張ったな」そう言って僕は輝の頭をなでてあげた。
輝は、一口だけだったけど、満足そうに笑った。
あれから2ヶ月たち、輝はほとんど喋れなくなった。
たった一言話すだけでも何分もかかり、体力をかなり消耗する。
このままだとな…そう思って、輝の病気に詳しい友達に相談してみた。
「空~輝のことだけどさ…」空には、結構相談に乗ってもらってる。
輝も空と打ち解けてるみたいだ。
「灯?どした?」
「輝がさ、最近…」って、最近の輝の様子を伝えた。
「んー文字盤使ってみるか」
「文字盤?」
「瞬きで、コミュニケーションがとれるように…」
文字盤の使い方は、僕が文字盤をあ、か、さ、た、な…ってなぞっていき、輝が瞬きをしたら、な、に、ぬ、ね、の…となぞる。
多少練習は必要だけど、これで喋らずに輝とコミュニケーションがとれる。
「空、サンキュー」
「また輝くんのとこ行くな、灯ちゃん!」
「『灯ちゃん』は止めろって…」僕は『ちゃん』呼びに少しトラウマがある…
「はいはい。じゃあな、灯」
「輝のとこには来いよ」
「了~解」空と別れたあと、文字盤を持って、輝の所に行った。
「ひか~、これ使ってみようか」
「んー?」輝は『なにこれ』って感じで文字盤を見つめていた。
「これはな…」そう言って僕は文字盤の使い方を教えた。
輝は少し悲しそうな顔をしたあと、力無く笑った。
「輝…」輝は使いたくないのだろう。
使えば、もう話せないって言われてるみたいだから…
輝が文字盤の使い方を覚えて、最初に伝えた言葉は
「ご・め・ん・ね」だった。
「ごめんね?」
「僕は兄貴を困らせてばかりだから…」輝はそんなこと思ってたのか…
「そんなことない。輝は僕の幸せそのものだから」僕がそう言うと、輝は目から涙を流して、輝の声で
「大好き」って言った。
僕は嬉しくて、嬉しくて、輝に抱きついた。
輝も笑っていた。
輝の笑顔はまだあどけなくて、僕の癒やしだった。




