10話~輝side~
僕は病気を甘く見ていた。
僕が思っていた何倍も早く、病気は進んでいった。
お箸が持てなくなって、仕事はクビになって…それに、歩けなくなった。
最近、1人で車イスにも乗れなくなった。
僕はもう兄貴無しでは生きていけない…
その事実が辛くて、苦しくて…
でも、兄貴には明るく振る舞っていた。
兄貴を悲しませたくなかったから…
僕はベッドに寝たままでも、話すことで兄貴を楽しませていた。
なのに、なのに…
声が出しにくくなった。
病気は僕のすべてを奪っていく…
僕は話せないのが辛くて、喋らなくなった。
数日間、人形のように生活していた。
「ひか…中庭行こうか」兄貴がそう言ったから、僕は無言で頷いた。
「ひか、このお花綺麗だね」
「……」
「ねぇひか~」
「……」
僕は病室に戻って、ベッドに寝た。
しばらくして、
「ねぇひか…お話ししよう?」って言われた。
「……」
「ひか、輝が伝えようとすれば、絶対伝わるんだよ?」
「僕は輝の伝えたい相手じゃないの?」
伝えたい相手だよ。
話したくて、話したくて、話したくて…
その時、僕の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
伝えたいことはいっぱいあるよ?
兄貴、その花綺麗だね…
兄貴、いつもありがとう…
兄貴、ごめんね…
兄貴…兄貴…
『なんで病気は僕を選んだの?』
僕の涙は止まることを知らずに、僕の頬を濡らし続けた。
「輝、辛いときは泣いていいんだよ?今まで我慢してきたんだよね。ごめんな」そう言って兄貴は僕の涙を拭った。
「兄貴…ごめん…ね」
「ひか、大好きだよ」
「僕…も、大好き…」僕の言葉はゆっくりだったけど、確かに伝わった。
「ひか、これ…」そう言って兄貴はさっき摘んできた綺麗なお花を、僕の頭につけた。
僕は少し照れくさくて、
「兄貴…これは彼女にするもの…だよ」って言って笑った。




