表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/121

89話 前準備

遅い上に短いです。次回は早目かと。

「と、言う訳でエルはそっちよろしくね」


キリルさんはそう言って、私を送り出した。

しかし、

「ああ……逃げたい……」

人間軍の砦を前にして、私は早くも心が折れそうになっていた。


「確かに距離があるから同時攻略は無理だけど……一人はつらい……」

何で人間の方にも行くかというと、魔王軍だけだと不公平になるからだとか。

あそこが落とされると、人間軍は一気に魔界へと侵攻してくる。

魔王軍が負けては和平以前の問題になるので、少なくとも人間に勝たせてはいけない。


「だからって全滅は駄目でしょぉー!敵の数4桁はあるのにー!」

魔王軍の方もキリルさんのことだから全員殺すよぉ……。目撃者を生かして返す訳ないよぉ……。

一人残らず人間軍滅ぼせって、どうすれば……。

「取り敢えず、偵察する、かぁ」

もう腹を括るしかないと諦め、敵情視察を行うことにする。


「『魂魄憑依』」

これは魂を分離させ、誰かの魂に取り付く魔法だ。

数キロ先、砦に入っていく人間から適当に選んで憑依する。

この魔法の利点は、他人を隠れ蓑に出来るので見破られにくいところだ。自意識も邪魔しないから本人にも気付かれにくい。

「とと、本体を疎かにしたら駄目だよね」

魂を複製し、私の体に憑かせる。これで守りは心配無い。


(さて、砦の内装を調べるか)

なにかこう、罠でも仕掛けられたらいいんだけど。

(ん、あれは物資かな?)

今運び込まれたと思われる箱が沢山あったが、中身は食糧のようだ。

食糧……。そうだ!

(あれに毒を盛ろう!うまくいけば全員イチコロできるかも!)

ものを食べない人間はいない。食事はとらなきゃいけないから、毒は広範囲に広がるはず。


そうと決まれば話は早い。私は毒魔法を生み出すことにした。

(『死毒虫』……でいいかな)

離れているとはいえ、魂は肉体と繋がっているので魔法は使える。

私の手の中に、黒くて小さい虫が出現する。

この死毒虫は、病原体を宿した毒虫だ。病気の内容は私が決められる。

既存の病は勿論、オリジナルの病もつくれる。自由で利便性のある魔法だ。

調整次第では薬もつくれるけど、私自身が「治す」というイメージが出来ないので難しいだろう。

とにかくそんな虫を数十匹程生み出し、食糧庫に送り出す。

(致死性の病気にしたし、半数はいけるかな)

即効性と感染力を強化し、対処されないよう思考能力を奪うようにも調整。そして特効薬も無し。発病前の兆候も無し。検査にも引っかからない特別仕様。

これで死なない人がいたら凄く怖いけど、それは祈るしかない。

(ああ神様、どうか上手くいきますように……!)

心の中で強く祈りながら、私は魂を本体に戻した。


本体は無事だったけど、心配事は他にもある。


「キリルさんとラトニア、大丈夫かなぁ」

あの二人、多分無茶なことするんだろうな。



「さあラトニア、準備はいいか?」

「はい、いつでもいけます」

随分肝の座った嬢ちゃんだこと。


人間軍の方はエルに任せ、私とラトニアは魔王軍の砦を攻略する。

目的はドルトゥークとやらに会うこと。まあ戦闘は避けられないけど。

対話できるかは知らんが、砦の兵を8割ぐらい減らせば話を聞く気にはなってくれるだろう。

それでも無理なら全滅だ。つまりいつも通りだ。

「言っとくけど、障害となる敵は殺すからね。そう簡単にドルトゥークに会える訳ないし」

「無血で済むとは思っていません。そこまで我が儘は言いませんよ」

分かってるならいいんだが、ほんとに大丈夫か?

今回戦場に連れ出されるというのに緊張の一つも無いのだろうか。


(無血、ねぇ。誰も傷つかずに和平なんか無理だよな、そりゃ)

てか逆らう奴を殺していくだけで平和になりそうだが。数も減るから管理しやすくなるし。

武力が無いと対等にもなれないし、理想だけで和平は不可能だよなぁ。

「ラトニアは凄いよな」

「突然褒められましても」

人の好意は素直に受け取っときな。


ラトニアを背中に括りつけ、準備は完了だ。

落ちないように私に突き刺せばいい、とナイフを手渡したが断られた。ロープだけでは不安なんだが……。


「さて、砦に攻める前に言っておくことがある」

「はい」

「あんたの目の前で人が死ぬ訳だが、動揺しないように。返り血浴びた時もな」

「わ、分かりました」

ここは言っとかないとな。ラトニアはまだ慣れてなさそうだし。

では、砦に行こうか。

(エルに認識阻害魔法をかけてもらったけど、どこまで効くかな)

私の隠密と合わせても最後までもたないだろう。

まあその辺は自力でカバーしないとな。エルに笑われちゃうぜ。


「それで、どこから突撃するんですか?正面なのか、裏からなのか」

「いやいや、いくら私でもあの数相手に突撃はしないよ。まずは撹乱だね」

固まられたら突破は面倒くさくなる。手駒を増やして隙をつくろう。

「『アースゴーレム』」

周囲の土が集まっていき、人の形となっていく。

ゴーレムの製作はほとんどやったことがなかったが、案外上手くいくもんだな。

「ゴーレムですか。戦力の増強ですね?」

「ああ。そんでちょっと工夫すれば……」

ゴーレムの形を人間軍の兵士っぽくしていく。

見た目から土とは分からないし、魔王軍からは人間軍が攻めてきたように見えるはずだ。

ばれるのは時間の問題だろうが、ゴーレムは結構強い。壁にはなる。

「百体ぐらい作っとくか。複雑な命令じゃなきゃ大量に動かせるし」

「材料の土も沢山ありますものね。こんな便利なものを何故今まで使わなかったのですか?」

それはもっともな疑問だが、私にもこだわりがあるのだ。

「こういう間接的な攻撃はあんましたくないの。自分手でやるのが誠実さだよ」

「ちょっとよく分かりません」

子どもにはまだ早い。


そんなこんなで、ゴーレム百体を作り終えた。

こいつらは人間軍の砦がある方角から攻めこませるとして、私らは横から行くか。


「さあお嬢様。目ぇかっぽじってよく見てろよ?初めての戦場を」

「凄惨な場面なら既に経験済みです。遠慮はいりませんし、怪我も気にしませんから思い切りどうぞ」

いい返事だけど、貴族としてそれはどうなんだ。


ラトニアを背に、砦へと走る。

ゴーレムの配置がばれないよう離れていたから、少し距離がある。

あの人間風ゴーレムは既に動いているが、存分に囮になってくれ。


「あの、私重くないですか?」

「今気にすることかよ……。全然軽いよ」

こんなとこで女子力見せんでよろしい。

「……重くても、女性には軽いって言っとくべきなんだっけ」

「何か言いました?」

「ただの戯言だよ」


雑談しながら走り、ようやく砦が見えてきた。

魔王軍は狙い通りゴーレムと戦っている。くくく、愚か者共め。

「まずは居場所探らないとなー。じっくり殺ろうか」

「どっちが目的なんですか、もう」

そりゃあ両方だ。ドルトゥークを探しつつ兵を殺す。

自分の兵がいなくなれば、話し合いに乗らざるをえない。争い事は嫌だしな。


武器を持ち、気配を消して戦場に降り立つ。

エルは上手くやってるかな?大丈夫だろうけど。

私は私で、頑張らないとな。


「取り敢えず全滅の方針で」

「和平ってなんでしょう」

争ってなきゃいいんだから、全滅だって平和だよ。


ちゃんとやってなかったので、殺人奇術の解説をば。


●スキル『殺人奇術』


生物を「殺す」攻撃スキル。効果は殺意が強い程高くなる。

綺麗に腕を落とすなど部位ごとに殺すことも出来る。その技術は正に芸術(悪趣味)。

自分の体で出来る範囲で、思い描いた通りの殺し方が可能。身体能力や魔力への補正は無いので、無理なものは無理。自力があってこそ真価を発揮する。

キリルはいつも手持ちの刃物を対象に発動しているが各魔法を使っての殺人奇術も可能で、純粋な腕力や即席の道具を使っても問題無い。

但し相手に通用するのが前提条件。刃物が通らない敵には刃物での殺人奇術は発動すらしない。

逆にいうと、殺人奇術が発動するということは攻撃が通るということ。

適当にぶっぱするだけでも相手の弱点部位を知ることが出来る。意外と便利。

尚、生き物にしか発動しない。アンデッド系モンスターや死体には無意味。死体確認にも使える。

使用するにあたってコストは無し。デメリットも無い。

強いて言えば常人には(精神的な意味で)使いこなせない。狂人か変人向け。果たしてキリルはどっちなのか。


……纏めて見ると、中々のチートスキルなような。場面を派手にする為の演出用スキルのはずだったのに。

やっぱり思い付きでキャラを強化するのは良くないですね。気に入ったので乱用してますけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ