84話 これはキレてもいい
予定通りの更新。このペースを維持できればいいなぁ。
人間軍の基地は、村が見下ろせる丘の上にあった。
小規模と言っていた通り、人はあまり多くない。感知できる限り、50人前後くらいか。
基地では装備も着けずに人間達が談笑したり、寝ていたり。暇なのか?
催眠した兵士が、その中の一人に話しかける。強面のおっさんだ。
「村の巡回終わりましたよ、隊長」
「おうお疲れ。交代する奴にも言っとけよ……ん、誰だそいつらは?」
隊長と呼ばれたおっさんは、当然私達を不審な目で見てくる。
おい兵士、お前の出番だぞ。上手く誤魔化せ。
「人間の冒険者だそうです。登録証を確認しましたが、確かです」
「冒険者、か。珍しいな」
まだ怪しまれているが、無理に詮索はされなさそうだ。
「そこの兵士も珍しいって言ってたけど、初めてじゃないの?」
「こんな辺境だが、来る時は来るんだよ。物好きがな」
「物好きで悪かったな」
そうか、初じゃないのか。だから冒険者って言い訳が通じたのかな?
「ところで、何でわざわざ魔族の村を占拠したの?」
反乱の危険性もあるだろうに。
「陣を築くにしたって、食い物が無くては兵士は生きられない。流石にでかい町なんかは落とせてねえし、こういう小さい村を資源に出来たら、楽になるだろ?」
「魔族にはいい迷惑だな」
「俺達は潤ってる、それで十分だ」
慈悲の無い奴だ。魔族は資源としてしか思ってないのか。
「何だ、非難するのか?」
「しないよ。私は弱肉強食主義でね……私、は」
横目で煽るようにラトニアを見る。
ラトニアは一瞬戸惑ったが、隊長の方を見て口を開いた。
「その、何も思わないんですか?人をまるで家畜のように扱うことに」
「人じゃねえよ、あれは敵。それだけ分かっていれば他はいらねぇ」
隊長は鼻で笑って答えた。
「人間は長いこと魔族と戦ってきた。もう相手のことなんざ見えてねぇんだよ」
「じゃあ、戦いが終われば変わりますか?」
「……変わらねえよ、少なくとも俺達の世代はな。つーか戦争が終わること自体が夢物語だ」
こいつはもう、何か悟ってるレベルだな。戦争が好きな訳でもなさそうだし。
「定期的に勇者と魔王が現れるだろ?これはもはや、世界が戦争を促してる様なもんじゃねえか」
「確かになぁ。数千年は続いてるらしいよねぇ」
文献ではそのくらいの時期から争っていたと書いてあった。そりゃ疲弊するわなー。
「戦争が憎いなら、世界から変えるこったな。まぁお前みたいなガキには無理だろうがな」
「っ……」
ラトニアが感じているのは無力故の悔しさか、目の前で魔族が卑下されていることへの怒りか。
ここの光景は、ラトニアには毒だったか。
「この基地の連中は何だかガラが悪いな」
「ろくな武勲も持たねぇ不良共だからな」
「村では手酷い傷を受けていた魔族もいたが、お前らの仕業か?」
「そうだよ。嫌なことがあったら当たり散らしてんのさ」
やってること屑だな。
(キリルさーん、いつまでここにいるんですか?もう関わりたくないですよー)
エルが泣き言を言ってくる。お前はほんと周りの空気気にしないな。
(情報も無さそうだし、一先ずここから離れようか。ラトニアも無理してるし)
これ以上ここにいても何も無い。さっさと離れるか。
「私らは村の方に行くよ。精々人間のために頑張ってくれよ?」
「軍人としてはある程度やるよ。おいお前、一応監視として着いていけ」
と言って催眠した兵士を私達によこしてきた。
「……ここはそっちに従っておいてやるよ」
「そうしろ。まだ信用してねえからな。野盗の可能性も捨ててねえぞ?」
ちっ、めんどくさい奴だ。
どうせ兵士は操り人形だからいいけど、腹の立つ態度とりやがって。
「へーへー。大人しくしときますよーだ」
とりあえず次の動きを決めるため、私達は村へと下りた。
「で、ラトニアはどうしたい?」
村な中の適当な空き家の入り、適当にくつろぎながら聞いてみる。
「その前にこれ、不法侵入では?」
「家畜小屋に入って誰が怒るんだよ。兵士に許可取ればいいのか?じゃあ兵士、ここ使わせて」
「分かった、許可しよう」
「はい合法~」
自分でやっといてなんだけど、なにこの茶番。
「あの、私が何かすればいいんですか?」
「だって不満そうだし。言いたいことはぶっちゃけた方がいいよ」
和平を望んでいるとはいえラトニアは魔族側。この村の現状を無視したくはないだろう。
「何とかしたいのは山々ですが……私の我が儘にお二人を付き合わせる訳には……いえ、村の人達が大事じゃないとかそういうのではなく……」
遠慮しているのかごにょごにょしてはっきりしない。
でも意思は分かった。どうにかしてほしいんだな。
「よし、私行ってくるよ。エルは村人を集めといて」
「あ、はい。人間のところに行くんですよね?皆殺しですか?」
何でこんな時は察しがいいんだよ。
「それは相手次第かな。まあ見せしめに何人かは殺るけど。あー、その兵士は殺しといて」
「あの、話が進み過ぎじゃないですか!?別にあの人達が憎いって訳じゃないんですけど!?」
「いきなり殺したりはしないって。ちゃんと確認するさ」
「何を!?多分何言ったって殺しますよね!?」
おー、分かってるぅ。そこだけはエルもラトニアもすぐ理解するな。
「じゃあ後よろしくー」
「行ってらっしゃいですー」
「ちょ、即決にも程がありますよぉぉ!」
ラトニアも叫びも空しく、私は人間軍の基地へと向かった。
※
人間軍の基地。そこでは今日も兵士達が呑気に過ごしていた。
前線とはいえ、ここは辺境。魔界での戦況を人界に中継するのが主な役割だ。
命の危険が少なく、融通の効く奴隷もいる。兵士達は自分は恵まれていると思っていた。
しかし、その日々は今日終わることとなる。
「隊長!表を見てください!」
「ああ?何だ慌てて」
もうすぐ日が暮れようもする中、一人の兵士が隊長室に駆け込んできた。
隊長のおっさんはめんどくさそうに肩を鳴らして部屋の外に出た。
そして、そこには。
「おいおい、何だありゃあ?」
ついさっき基地に訪れた冒険者と、横たわる兵士がいた。
「何だ、忘れ物かぁ?」
「いやいや、そんな下らない用じゃないさ」
その時、キリルは手に持っていた何かを基地の方に投げた。
投げられた物は、結構な速度で壁にぶち当たった。
その物を見て、周りの兵士は短い悲鳴を上げた。
「っ隊長!これは……」
「!……何の冗談だ、これは……?」
それは、兵士の頭だった。恐らく、目の前で横たわっている兵士のだ。
「とりあえず隊長さんには死んでもらう。他の兵士はその後だ」
明確な殺意を向けてくるキリルに、兵士は勿論隊長も困惑した。
「てめぇ、何が目的だ!物盗りか!?」
「あんたらがいると、仲間の顔が曇るんだよ。あんたらのせいでね。そんなのムカつくじゃん?」
キリルの言うことが理解出来ず、更に困惑する人間達。
ただ一つ分かるのは、この女は絶対に自分達を殺そうとしていることだけだ。
「私をイラつかせた罪、償ってもらうよ。命でな!」
正義の刃が、悪へと向けられた!
キリル「正義の味方、キルキルキリルちゃん参上!」
エル「KILLKILL……?」




