83話 家畜の村
思ったより長くなったので分割。次回はなるべく早くあげたいです。
ザザンとの戦いの後も、襲撃は続いた。
それはもう、お前らどこに隠れてたって言いたくなるぐらい襲ってきた。
まあ文字通りちぎっては投げ、ちぎっては投げてやったが。
まあそんなことがありつつも、私達は遂に魔界へと辿り着いた。
「この辺から魔界?」
「ですね。瘴気が少し濃くなりましたし」
エルがさらっと言うが、瘴気って何?
「不浄な魔力のことです。魔界は人界よりも瘴気が濃いんですよ」
疑問を口に出すと、ラトニアが答えてくれた。
「このくらいなら人体に影響はありませんが、これがモンスターを生み出す原因になってしまっているんです」
「ふーん。魔界の方がモンスター多いのか」
それだけで危険だな。人界の方がいいや。
「まあどうせ人界にもありますしね。どこに行ってもモンスターからは逃げられませんよ」
「感知できない程度の量だけど……そんなもんが世界にはあるのか」
瘴気が濃すぎる地域とか、魔界にはあるんだろうな。
「強力なモンスターと戦っている分、魔族は人間よりも体が強いんです。瘴気の影響もあり、魔族は人間と体のつくりが少々違うんですよ」
「ラトニアはそうでもないよね?」
見たとこ人間と変わらない。体のどこもおかしくはないと思う。
「私は違いますが、中には寿命が長かったり、体の一部分が変質化している、という方が居られます」
「……そんな特徴があったら、人間なんて敵じゃないと思うけど。なんで戦争は拮抗してんの?」
「モンスターが強い分、生存率も人間より低いんです。逆に言うと、生き残っている人は皆さんお強いですけどね」
「あー、人間は繁殖力高いしね」
年中盛ってるし。でも雑魚が多いから死ぬ時は結構死ぬ。
「因みに私のような闇龍が魔界にしかいないのは瘴気が原因とか、そうじゃないとか」
ラトニアの説明にエルが付け足してくるが、はっきりしてないんかい。
「自分のことなのにあやふやだな」
「皆そうでしょう。キリルさんだってご自身のことちゃんと説明できます?」
「んー、無理」
謎が深いな、龍人族。
「おん?人の気配。しかも複数」
魔界に着いてからすぐ、大勢の人の気配を感じた。これは村かな?
「村?こんな境界に?」
「ちょっと不自然ですね。ここはまだ人間が来る確率が高いのに」
エルもラトニアも不信がっている。これは警戒しておくか。
「村なら安心して休憩出来ますね。人間か魔族か分からないのが不安ですが……」
「種族よりも、敵対心があるかどうかだよ。追い出される程度なら大人しく退散するけど、敵なら全滅させるしかない」
「わぁ好戦的、さっすがキリルさん」
茶化すエルをひっ叩き村?へ向かう。
果たして鬼が出るか、蛇が出るか。
「村……あるにはあったけど……」
「なんかこう、死んでますね。空気が」
よっぽどのことがないと気付かれないであろう位置で、村を観察する。
「あの、私見えないんですが」
「ああごめん、ほい」
ラトニアに双眼鏡を渡す。私とエルは裸眼で十分だ。
「魔族だよねあれ。やっぱ魔界なんだなー、ここ」
村人の肌は薄い緑色。分かりやすくて助かる。
しかし、村の雰囲気が重い。
龍魔眼で見ても、魔力が微弱だ。これはかなり良くないな。
魔力は体力と繋がっている。疲れていてはろくな魔法など撃てないし、魔力が無いと体も動かない。
つまり相当まいっているご様子だが、なんか訳ありなんだろうか。
「私は見て見ぬふりがしたいんですが、どうでしょう?」
エルは相変わらずだが、正直私もそうしたい。だって絶対厄介事だし。
でも魔界に入って初の村だ。色々情報が手に入るかもしれないから、ここは行ってみるか。
敵だとしてもどうせ皆殺しだ。対して気にする事でもないな。
「GO!」
「えぇー……」
「んー、寂れてるなぁ」
村の中は想像通りだ。廃村って言われても違和感無い。
因みに私は布で口元を隠しており、エルとラトニアもフードを被っている。
立場上、知らない奴相手でも顔は覚えられたくない。殆どお尋ね者だからね。
「遠巻きに見られてるというか、怯えられてる?」
「そうでしょうね。目が合ったら逸らされますし」
挙動不審な村人を眺めながら奥へと進む。ここまで話し掛けられないのは妙だな。
「おい、何だお前達は」
「お?兵士?」
暫くすると鎧を着た男に出くわした。こいつは人間か。
「顔を隠しているとは怪しいな。素性を明かせ」
「……私達は人間の冒険者だ。討伐対象のモンスターを追ってここまで来た」
正直に話せる訳ないので適当なことを言って誤魔化す。
「冒険者?珍しいな。確かに魔界といえど、この辺りまで来る人間はいるが……登録証を見せろ」
疑り深いなぁこいつ。もっと馬鹿であってくれよ。
「ほいよ。これで満足か?」
登録証を、一部分だけ見えるように提示する。
「指をどけろ。クエストを受注しているか確認出来ん」
言われるがまま、指を少しずらす。
「まだ見にくい」
「おやおや、目でも悪いのか?」
「っ……もういい貸せ。自分で確認する」
苛つきを隠さず、兵士は私に手を伸ばしてくる。
「ほーらよ」
「何々……名前は……」
と、私の登録証に目が行ったところで。
「すいません」
「?おぐっ!?」
すかさずエルが催眠をかける。
「悪いね。都合のいいようになってもらうよ」
これが一番手っ取り早い。見たとこただの兵士だし、多少洗脳しても大事にはならないだろう。
「鮮やかですね」
「私とエルはテレパス出来るからね。龍人族じゃないと割り込めない素敵仕様」
できればエルには自発的に動いてほしいんだけどなー。
「あ……あぉっ……」
催眠直後で兵士はふらふらになっている。怖いしきもい。
「起きろ。登録証は確認したろ?」
登録証を取り返して軽く小突く。それで兵士は意識がはっきりしたようだ。
「そ、そうだな。確かに、冒険者だ」
「そんでさ。今度はこっちが聞きたいんだけど、ここ何?魔族の村なのにあんたみたいな人間がいるなんて」
「ここは魔族の村だが、今は我々人間軍が占領している。謂わばこいつらは奴隷だ」
「……奴隷だと?」
「ここは人間軍が魔界に侵攻するための駐屯地の一つだ。規模は小さいが、立派な前線基地だよ」
「へぇ。入り口とはいえ魔界にまで陣地があるとは、押してるの?」
「そうだな。今は人間が優勢だ」
ラトニアを見るが、表情は渋い。魔界が不利なのは確かなようだ。
「ここは小規模なんだよね?」
「一個中隊程度だからな。あの村も食糧の生産をやらせているが、利用価値はあまり高くない。俺達の恵みにはなっているからいいんだがな」
ふむふむ。あの村は運悪く支配されてしまった、哀れな奴等か。
「よし分かった。あんたらの基地まで案内して」
「ああ、こっちだ。事情は俺が説明しよう」
催眠の効果は抜群で、兵士は何の違和感も持たずに私達を案内してくれた。
「人間軍なんて見てどうするんですか」
「興味半分」
エルの不安は尤もだが、ちょっと無視できないかもしんないんだよなー。
「ラトニア、平気?」
「えっ、何でですか?」
平静を装っているが明らかに顔色が悪い。自分んとこの人民がああなってたら無理はないか。
「……戦争が終わったら、あの方達は解放されるでしょうか……」
「無理でしょ。良くて絶滅、最悪野垂れ死に」
「同じじゃないですか、ニュアンスの違いだけで」
エルはわかってないなぁ。緩やかに死ぬか、苦しんで死ぬかは大分違うぞ。
「あの人達は救えないんですか……?あんなの、生きてるなんて言えませんよ……」
「家畜同然だよね。目が死んでるってレベルじゃなかったし」
まあ人間軍に負けたから奴隷にされている訳で、自業自得ではあるんだが。弱者の末路としては妥当なとこだろう。
「とりあえず人間を見てみようよ。魔族をこきつかっている人間様をさ」
村に救いが訪れるかは、天のみぞ知るってね。
忘れがちですが、キリルは正義側です。悪人のイメージで動かしてますけど。




