79話 ついに遭遇
「うーん、色々出来るもんだな」
短刀に付いた血を拭きながら、改めてスキル『殺人奇術』の性能に驚く。
これは殺し方を工夫できるスキルで、敵に芸術的な死を与えることができる。
殺しのおまけみたいで無駄に思えるが、ところがどっこい意外と使えるスキルだった。
目の前の獲物を前にして、私はそれを理解した。
「これ……仕留めたモンスターの解体に便利だ……」
私の前には、殺人奇術によって綺麗に血抜きされた猪が横たわっていた。
死んだ後に血抜きしたのではなく、血抜きという殺し方を選んだらこうなった。
そして死んだ猪を腑分けしようしてみたが、スキルが発動しない。どうやら生きているものにしか使用できないらしいな。名前通りだ。
「やりましたねキリルさん、これでご飯の手間が減ります」
「見事な技術ですね……殺戮者の名は伊達ではないのですね」
「いやー、そんなに褒めるな褒めるな」
正直殺しの技術なんかで褒められても嬉しくないのだが、実用性はあるからいいか。攻撃にも転用できるし。
「どうせなら、血抜きと腑分けを同時にできてもいいのに」
楽してぇ。
「……静かだな」
「思わず寝てしまいそうですね」
違う、そうじゃない。
「静か過ぎるんだよ。森の中だっていうのに生物がいない」
感知には疎らに反応があるが、数が少ない。こりゃ異常だな。
「原因は色々思いつきますが……悪い方に考えた方がいいでしょうね」
「そうなるね。エル、ラトニア守っとけ」
言われるがままにラトニアを守れる位置に付くエル。事前に警戒しとけば対処できるだろ。
(さーて、何でこんな状況になってるのかな……?)
念のため私一人が先行して周囲を確認する。
動物やモンスターがいない理由は……恐らく凶暴なモンスターが出たからだ。
地面には沢山の足跡があるが、そのどれもが走っている。つまり、慌てて場を離れたってことだ。
森をこんな閑散とさせるとは、一体どんな奴なのか……。出会うんだろうなあ、絶対。
多分そいつは腹を空かせている。こんなに逃げられているから。
殺気は感じないが、空気が違う。完全に気配を消せていないとは、まだまだ未熟者よのぉ。
なーんて、未熟なのは私だった。
「っ!?」
何かがこめかみに当たり、そのまま私の頭を貫通して向こう側へと飛び出した。
「攻撃!どんな距離だよ!」
殺気は無かった。これは相手に殺す気がないとかかもしれないが、頭狙っといてそれは無い。
てことは、純粋に遠方からの攻撃、いや狙撃かな?まあとにかくやばいな。
「何が撃たれた……?まともな武器じゃあなさそうだけど、魔力は無かったな」
この世界についてそこまで詳しくないから、もしかしたらそんな武器があるかもしれないけど。
(エル、退避してろ。絶対防御だ)
共鳴でエルに指示を送る。この敵は結構まずい。
(キ、キリルさん大丈夫ですか!?頭パーンてなりましたよ、パーンて!)
案の定パニクっている。
黒球は発動してくれたが、無理もないか。突然前にいた人の頭が撃たれたんだからな。
(いいから離れてろ。下手に攻撃に専念したらラトニアが殺られる。そんな敵だ)
(うう、分かりました……)
黒球がゆっくりと動いて私から遠ざかっていく。よしよし、それでいい。
「さって、どうするかな」
そうしている間にも、今度は額と足に何かが命中した。地味に痛い。
幸い足に当たったのは地面にも着弾したので拾い上げる。それは……。
「……銃弾、か?」
それはこの世界では見ないはずの物。転生者にしか理解出来ない物。
これを見ただけで、今回の敵が分かる。
「転生者か、めんどくさ」
えー、まじで?そんなんある?
ここで襲ってくるってことは……いや、人間かどうかまだ分からんか。人界では一般認知されてないし、数が少ないのかもしれない。
そいつの能力が何なのか分からないが、「これ」か?銃弾か?
おいおい、ファンタジー世界に現代兵器はご法度だろ。一気に興ざめだわ。
「兵器が相手なら、慢心できないか」
私の体ってこの世界基準での強さだし、別世界の物じゃどのくらい違うのか推測出来ない。
そういう意味ではファンタジーキラーだよな、兵器。初見殺しってこえー。
「一旦攻撃が止んだか……ダメージが無いとみて引いたか?」
いくら急所に鉛弾をぶちこまれようが、あんな小さい傷はすぐ回復できる。無いも同然だ。
まあ完全に引いた訳ないだろうし、次はもっと強い兵器が出てくると見て間違いない。
その間に、私は射角から奴の居場所を突き止めないとな。三発も撃たれたらそこそこの目星は付けられるはず。
そうして見渡すと、木の陰に何かがあった。
「敵?いや、生物ですらないな」
何も感じないし、目で見ないといけない。
なんか罠っぽいけど、果たして……。
「ん?死体?」
そこには体に無数の穴が空いた人間の死体があった。
穴からは若干焦げた匂いがするが、出来立てか?
「死体なんかで私が動揺するとでも思ってるのか……?」
さっきから?マークばかり頭に浮かぶ。やっぱ転生者は頭おかしいのか。
「人間の死体みたいだが、一体なんで……」
カチッ
「あ?」
足元から変な音が……。
下を見ると何かの円盤があり、それを私が踏んでいた。
これは……流れからして、あれだな。地雷だな。
「あほぉぉぉー!!!」
思い切り足を振り、地雷?を空高くまで蹴飛ばす。
直後、激しい爆裂音と共に地雷?が爆発した。
「うっはー、猛烈ぅ」
あれは下半身持ってかれるな。
てか地雷の威力じゃなくね?用途違くね?
『ガガッ、ガピー』
「ん?」
今のはノイズ音?久しぶりに聞くな。
その音は、地面に置かれていたある機械から出ていた。
「また現代品か。何だっけこれ、トランシーバー?」
たしか通信機器だったか。なんか光ってるな。
ひょいと手に取り、罠かどうか確かめる。また爆弾だったら洒落にならない。
「うーん、全くわからん。電子機器なんて何年ぶりだろうなー」
ちょっとしたカルチャーショックを受けつつトランシーバーをいじっていると、ノイズが止んで人の声が流れた。
『ガガッ……お前、転生者だな?』
「違います」
間違い電話か。よくあるよなー。
『違わないだろ。ごまかそうとしても無駄だぞ』
ちっ。
『今までの動きで丸わかりだ。地雷やこの無線機への反応がこの世界のものじゃない』
「よく見てるなー、どこいんの?」
『言うわけないだろ』
あーはいはい、ですよねー。
「誰だお前?魔王軍か?」
『違う。雇われはしたがな』
傭兵か。厄介だな。
金さえ払えば何でも請け負う、究極の金の亡者。
さりとてこちらはほぼ無一文。財力じゃ勝ち目がない。
『まず確かめさせてもらうが、日本人か?』
「さあ、どうかな?」
私の答えにイラついた様子も無く、相手は言葉をつなげる。
『日本の首都は?』
「京都」
『日本の国旗は?』
「梅干し」
『日本食といったら?』
「カップラーメン」
『お前わざとだろう!あとなんでカップ麺!?』
「カップ麺舐めんなよ、あれも日本のだろ」
他にもインスタント食品とか、缶詰とか。前世の主食馬鹿にすんな。
「ああいう技術こそが日本の真骨頂。加工品は至高。異論は認めん」
『……とにかく、お前が同郷なのは分かった』
「えー?まだわかんないよー?」
『だったら今から日本語でお前を罵倒してやる!聞き流せるものなら聞き流してみろ!』
幼稚か。
「私日本語忘れたけど」
『なにぃ!?貴様大和魂は無いのか!?』
いちいちうるせえなこいつ。日本の事とかどうでもいいだろ。
『俺の名はザザン。貴様は?』
「田中」
『あきらかに偽名!まぁそんなことはいい、久しぶりに骨のある奴と戦えてわくわくするぜ!全力でかかってこいよ!』
大声で意味の分からんことを叫び、無線が切れた。
「……えー」
これからこいつと戦うのかぁ。開始早々投げ出したくなってきた。
(いいねぇ、同郷との対決!これぞ王道だよ!)
ほーら、触発されていらんのが飛び出してきた。
「黙っとけよ、お前は」
(いーや!一言だけ言わせてもらう!カップラーメンより、カップ焼きそばだ!私が好きだったのは!)
「死ね」
(もう死んでますー、残念でしたー)
ほんと黙っててくれねえかなこのスピーカー。
(さあバトルだ!日本人同士という悲しい対決だけど、ここは非情になろうね、キリル!)
「最初からそのつもりだ。」
転生者だろうが知ったことか。敵なら排除する、それだけだ。
因みにキリルは日本語の読み書きはできませんが、言語の場合この世界での発音なら可能です。つまり言葉なら伝わります。




