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78話 下山と殲滅

改めてわかる戦闘描写の難しさ

朝、目覚めると何か違和感があった。

「……?」

自分を見ても、何も変わりはない。景色だって実家だし……。

「ああ、布団か」

この違和感は布団かけて寝るのが久しぶりだったからか。

森に帰った時は、何かそれっぽい物でも用意しよう。


「あれ、起きてるなんて珍しいですね」

隣では、エルが荷造りしていた。

「……そんなに珍しい……?」

「それはもう。まだ寝惚けてるようですし、顔洗ってきてください」

エルの私に対する扱いが雑になってきてる気がする。この子も強くなってきたな。

「ラトニアは?」

「イアさんの料理を手伝ってます。私達は出来ませんしね」

深刻な女子力不足だな。母さんに習っときゃ良かったか。

「朝の内に出発するからねー」

「分かってますよ。キリルさんこそ早く準備して下さいね」

「……」

おかしい、エルの女子力が高く見える。




「もう行くのか?少しくらいゆっくりしてっても……」

「時間があるか分かんないだから、悠長にしてらんないよ。まだまだ道は長いし」


朝食を食べ終え、出発の時になった。

父さんが渋っているが、親バカも大概にした方がいいと思う。

母さんは、いつも通り微笑んでいる。

本心からの笑みなんだろうが、普段からそうだからちょっと不気味だな……。家の母さん怖ぇ。


そういえば、気になることがあったな。

「父さん、ちょっと」

小声で父さんを呼び、耳を貸してもらう。

「夜、どうだった?なんかいた?」

「ああ……いたぞ。警告代わりに何人かやったが、それで離れていった」

やっぱいたか。侮れない追跡能力だな。

この山にいる限り父さんが対処してくれるが、連中もそのくらいは理解出来たか。

「人間?それとも魔族?」

「人間だ。人界だからな、妥当だろう」

魔族は深いところまで来ていると思っていたが、目立ちたくはないんだな。

こりゃ人界にいる間は当分人間相手か。

「気を付けろよ。どんな敵だろうとな」

「分かってるよ。何だろうと排除するさ」

今さら躊躇なんかしないしな。


「あの、何の話ですか?」

「エルは危機管理が出来てないな」

ビビりの癖に鈍感なのかよ。

「……両軍から狙われているんですよね。あくまで秘密裏にですが」

ラトニアは分かっているらしい。この子結構優秀だな。

「そりゃ戦争を続けたいなんて大っぴらに出来ないしな、平和主義にはいい迷惑だ」

野蛮で業の深い連中だこと。


「じゃあ行ってきます。また来るよー」

「おう!毎日帰ってきてもいいんだぞ!」

父さんはアホなのかもしれない。

「二人とも、キリルをよろしくね。この子無茶しがちだから」

「はい!お任せください!」

「お世話になりました。このご恩はいつか」


若干名残惜しさはありつつも、私達は実家を出た。

次帰る時は……まあ旅の帰り道にでも寄るか。

「私、この旅が終わったら実家に帰るんだ」

「なんか不穏な言葉ですね」




「はー……っはー……っ」

「ラトニアー、大丈夫かー?」

下山でも大分お疲れなようなラトニア。まあ登りだろうが下りだろうが距離変わらんしな。

「また抱えようか?」

「い、いえ……もうすぐ麓ですし……ご心配無く……うっ、おぇぇ……」

「やせ我慢過ぎる……」

気ぃ遣ってんのか知らないが、まるで私がやらせてるみたいでやだな。

別に戦闘出来ない時点で足手まとい確定だし、護衛される立場なんだから遠慮無くこき使ってくれてもいいのに。


「根性ありますねー。私ならとっくにギブアップです。あ、ラトニアを抱かないなら代わりに私を……」

「お前はもう少し見習え」

ラトニアの爪の垢を飲ませてやりたいな、この駄龍。


結局ラトニアを抱えつつ、私達は山を降りた。


「さ、こっから気合い入れろよー」

「?何でです?」

疲労困憊のラトニアはともかく、エルは全く状況が読み込めていないらしい。

お前本当に魔界で何してたんだよ。家畜って言われても疑わんぞ。


「山、つまり父さん達のテリトリーを抜けたんだよ。ここからは援助無し、親離れだ」

さっきから感じていた殺意が、私達を取り囲む。

下山してる時に一つ殺意が消えたが、焦って飛び出した個体だろうか。

「山じゃあ手を出せなかったからな。奴さんいらいらしてんぞー」

山の中にいる限りは父さんの射程圏内。不意に動けば即狩られる、正にまな板の上の鯛だ。

そしてこっからは私の範囲。護衛として働きますか。


「エルはラトニアを守護。守ることだけ考えろ、殲滅は私がする」

「は、はい。ご武運を!」

エルがラトニアを抱え込み、周りを黒い球体で囲む。

確かあれに触れたら、削り取られるんだったな。どこの暗黒空間だよ。

「さあ!いつまでも燻ってないで来いよ!死ぬ時間が変わるだけだぞ!」

分かりやすく挑発すると、敵が動き始めた。

目標が闇に呑まれたし、そりゃ見てるだけで済まないよな。

(数を覚えとかないとな……一人だって逃さねえぞ)

情報を持って帰られたら面倒だ。なるべく消そう。


「っ、来たな!」

音も無く放たれた魔法を避ける。どんな仕組みか多少気になるな。

次々に撃たれる色んな魔法を避けつつ、接近してくる殺意も気にする。

(隠密……してるつもりなんだろうな。敵感知に反応無いし)

敵感知は使えないが、私は龍魔眼と殺意で十分感知できる。

「だから、不意討ちにも対処できる」

後方から突き出された刃を掴んで止める。

相手はすぐに刃を手放し、距離をとった。へえ、冷静じゃん。

「さあさあ、どんどん来い。無能集団って訳じゃあないだろう」

攻撃が防がれたからか、敵が配置を変更する。

中にはエル達の方に攻撃する者もいたが、魔法も武器も闇に触れた瞬間消えていった。

……あん中にラトニアいるんだよな。間違って消してないよな?


「っと」

突っ込んできた敵の一人の首を掴めた。

味方が捉えられたにも関わらず、他の敵は微塵も動きを変えない。

「薄情な奴らだな」

首をへし折り、腰から短刀を抜く。まずは一人。

殺した奴を盾にして魔法を防ぎつつ、もうめんどくさくなってきたので私から突っ込む。

「あーもう、てめえらちまちまし過ぎだろ!うっとおしい!」

殺すんならとっととしやがれ!


盾が削れてしまったのでその辺に投げ捨てる。まあまた確保出来るし、どうせ魔法なんざ致命傷にならん。

「『ガイアスマッシャー』!」

周辺の大地をめくりあげ、隠れていた連中を引きずり出す。

これで上に固まった、とにかく一片に多く片付けないとな!

土を操作して足場を造りながら跳躍し、巻き上がった敵の首を跳ねていく。

龍魔眼では敵は全員人間に見えている。だったら首を狙えばいちころだ。

尚も隠れようとする奴はグラヴィティで叩き落とす。やっぱ重力魔法チートだわ。


(ふーむ、意外と歯応え無いな)

顔を殴ったら簡単に爆散するし、軽量化の為か鎧も無いから短刀でも切り裂ける。

魔法もセレス程じゃあないし、グラヴィティで圧殺できる辺り魔法耐性も低い。

(人間なら納得の脆さだが、もはや紙だな。それとも私が強いのか?)

それは無いかなー。龍人族の中じゃ弱い方だし。レンファにすら完敗する自信あるぞ。

(まあ簡単に殺せるのは有難いな)

顔面を鷲掴みにして握り潰し、残りの敵の様子を伺う。

辺りにグラヴィティでフィールドを張ったから逃げられはしないだろうが、油断せずに残さず消さないとな。


「っこの化け物め!」

悪態を吐いてきた奴を真っ二つにし、同時に仕掛けてきた奴の首を掴む。……もうちょい粘れよ。

「さて、残りは僅かか」

ラトニアを守っている闇の球体は依然健在だ。エルもやれば出来るな。

「っ、ひいっ!」

掴んでいる奴が怯えながら腕を刺してきた。いってえなおい。

まあすぐには殺さん。ちょっと試してみよう。


「残ってる奴等!早くしないとこいつが死んじゃうぞー!仲間を助けなくていいのかー?」

こいつを生き餌にしてみる。人間なら情で動いてくれかもしれない。

「……」

少し待つが、動きは無く捕まえている奴がもがくだけだ。

うざいので窒息させ……もういいや。意味無いっぽい。

「ほぐっ!?」

白目を向いて昇天するモブ敵。憐れな……。

「はあー、まあ暗殺部隊なら当然かー」

そんな簡単には動揺してくれないわなー。よく訓練されとる。


「でも、それは良くないよなぁ」

隙と思ったのか、襲ってきた奴が私の腹に刃を突き刺す。

「非情なのもどうかと思うぞ、こら」

多少痛いだけなので気にせず首を跳ねる。

「仲間が苦しんでるのをほっとくなよ。そういうのを人間味っつーんだぞ」

重力魔法で残りを引き寄せる。もがいてはいるが、みっともないな。

「私はそんな奴が大嫌いなんだよ。仲間には優しく、な?」

言い聞かせるが、話を聞いている様子ではない。

まあ今から死ぬからどうでもいいけど。ちょっとムカついちゃったからって無駄なことするんじゃなかったな。


「お前らは痛くして殺してやるが……これは見捨てられた仲間の分だと思えよ」

グラヴィティで地面に張り付けにして、短刀を構える。

ちょうど使ってみたかったスキルがあるんだ。いざって時の為に試しとかないと。

「名前から想像しにくいんだよな……『殺人奇術』」

スキル名を言った途端、体が勝手に動いて短刀で敵を切り裂き始めた。

そしてあっという間に、一人を三枚おろしにしてしまった。


「……なるほど、こりゃ殺戮者だな」

切った断面からは血が殆ど漏れていない。丁寧な仕事だ。

「殺しの技術、か。便利だな」

一見お遊びスキルのようだが、色々使い道がありそうだ。

「他にはどんなバリエーションがあるか、やってみるか」

何だか残りの敵の顔色が悪くなっているが、今から死ぬんだから当然だな。気にすることでもない。

「これで戦闘終了。暫く静かだといいんだが……」

愚痴を垂れつつ、私はさっさと残りを解体した。




「おーい、終わったよー」

球体には触れないので声だけかける。

「……zzz……」

「おい寝息立ててんのどっちだ」

暫く声をかけていると、ようやく球体が萎んで消えた。

「……おはようございます」

「よりによって術者が寝てんなよ」

後なんでそれで魔法維持できてんだよ。地味に凄いなお前。


「終わったんですね。正直襲ってきた時の記憶が無いのですが……」

「あんたグロッキーだったしね」

多分球体の中でラトニアが寝て、釣られてエルも寝たんだな。危なっかしいなおい。

「……なんか奇妙なオブジェがありますよ?」

「敗者の末路」

んなもん気にしてないで、行こうではないか。

また敵が来ない内にね。


キリル「雑魚相手はもはや作業ゲー」

※傷は完治してます

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