66話 お貴族様
貴族のテンプレって、こんなんでしょうか
「貴族?ああ、来てるんだってね」
ミーアにも聞いてみたが、本当のようだ。
因みにエルはまだ裏路地で子どもと戯れている。
「ギルドには来ないだろうから気にしてないけど、あんまりいい噂は聞かないよね」
「ほうほう」
こりゃ商業区の人にでも聞けば裏がとれるかな?
このギルドや、住宅区には足を運んでいないらしい。
まぁ裏路地を露骨に嫌う奴なら、こういうところには来ないか。
「その人、ロディオって言うらしいんだけど、かなりの貴族思考なんだって。なんでカイトまで来たんだろうね」
「さあ?自分家が出資してる会社がどんな仕事してるのか知りたいんじゃない?」
迷惑な社会勉強だが、姿勢は正しいな。問題は場所だ。
「そういやセレスは?」
「後衛募集してるとこに参加してったよ」
別パーティーか。冒険者は基本フリーだから、そんなことも可能なんだよな。
クエストを一緒に行くメンバーをパーティーと言うだけで、登録とかは必要ない。
でもなんか寂しいのは、気のせいだろうか。
「そんな顔しなくても、すぐ帰ってくるって」
「え、顔出てた?」
やだ恥ずかしい。
「あはは、キリルちゃんってすぐ顔に出るよね。ほんと素直なんだから」
「ぐぬぬ」
笑われると悔しいな。感情的だとは思うけどさ。
「貴族のこと気にしてるのも、裏路地のことがらみでしょ?」
「そうだけど……あれ、何で裏路地のこと……」
私があそこに行ってることは、エル以外に話してないのに。
「見れば分かるよ。キリルちゃんああいうとこ好きそうだし」
み、見抜かれてる……。もしかして、ミーアは読心能力でもあるのか?
「ま、エルちゃんに聞いただけなんだけどね」
「何だそりゃ」
あんの駄龍め。後で仕置きをしてやろう。
「隠さなくてもいいのに。ここの人達優しいよ?」
「分かってるけどぉ……」
他にも裏路地と関わってる冒険者はいるけど、そいつらも公表してはいない。暗黙の了解ってやつだ。
てかミーアが知ってるなら、セレスも当然知っているだろう。多分結構前から。
何も言ってこないし、理解はされてるようだが、見透かされてると思うとむず痒い。
「……取り敢えず、これからも内緒にしといて」
「はいはい」
手玉にとられた……。
「ふぅん。これがカイトの冒険者ギルドか」
突然、入り口の方からふんぞり返るような声が聞こえた。
「何だ?」
聞き慣れない声だったが、まさか……。
入り口には、若い男とお付きのような奴が数人いた。
「あ、あれが噂の貴族だよ」
「うっへぇ」
今一番会いたくねぇのが来た。
「話に聞いた通り、野蛮で汚い所だな」
「ですが、ギルドは重要な場所です。知っておいて損は無いかと」
貴族の男は、早速失礼なことを口走っていた。
絵に描いたようなクソ貴族だな。来んじゃねえよ。
「全く、何が社会勉強だ。親父の考えは古臭いよな」
やっぱそういう事情か。
「あれが噂のアーラ家の……」
「何でギルドに?」
「口振りからして、見学だろうな。お気楽なことだ」
周りも冒険者もざわついている。そして案の定印象は良くない。
アーラ家っていうのか。全然聞いたこと無いな。
貴族野郎は不機嫌そうにギルドを見渡している。年は二十未満ってとこか、若くて生意気そうなクソガキに見える。
そこに、ギルド職員が焦った顔で話し掛けた。
「あの、連絡等は受けていないのですが……」
「していないからな。ギルドへの出入りは自由と聞いたぞ?」
それは普通の場合だな。貴族としての自覚が足りないぞ。
「キリルちゃん、殺気漏れてるよ」
「これが抑えられるか。予想通り過ぎてなお腹立ってきた」
勉強が嫌なら家に閉じ籠ってろよ、もう。
「ふん、別に用事など無い。ギルドに寄ったという事実があればいいからな。こんな所すぐにでも出ていくさ」
ああん?今こいつなんつった?
「おいおい坊っちゃん、そいつはひでえ言い草だなあ!」
「権力だけの貴族がでかい口叩くじゃねえか!」
これには冒険者達も騒ぎ立てた。
……うん、短気な方だとは思う。
「やかましいぞ、貧乏人。これだから野蛮な奴らは……」
ため息は吐くポーズが実にむかつく。
「どいつもこいつも汚……おや、上物もいるじゃないか」
と、こちらを見て目を止める貴族。
上物?まさかミーアか?だったらこの場で殺してやるぞ。
「キリルちゃん、見られてるよ……」
「へ?」
何でわた……あ、そういや私美少女だった。全然そんな扱いされないから忘れてた。
「そこの娘、名はなんだ?」
あー、完全に私ご指名だ。どうすっか。
とりあえず睨みながら立ち上がる。
「名乗る気は無いけど、話ならしてやるよ」
「むっ……」
「キ、キリルちゃん!」
貴族は不機嫌そうになる。誰がお前に従うかっての。
「ふん、俺が誰だか知らないようだな。俺はロディオ・アーラ。アーラ家の次男だ」
「お前の名前なんか興味無い。それよりちょっと面貸せよ」
質問したいことがあるんだよ。
「貴様、不敬だぞ!折角俺が呼んでやったというのに、何だその態度は!」
うっわー、殴りてえ。なんて傲り高ぶった奴だ、貴族ってこんなんなのか?
とにかく、相手の機嫌は無視して質問する。
「裏路地を無くそうとしてるって聞いたけど、ほんとか?」
「はあ?確かにそうだが、それがどうした?」
よし、確認出来た。噂は本当のようだな。
「何でそんなことするんだ?ここは王都でもないし、関係無いだろ」
「決まってるだろ、不快だからだ。平民共も疎ましく思っている裏路地を消して何が悪い?」
こいつ……。
「そこに居場所がある人達もいるんだよ。それにカイトのを無くしたって、ここに住んでないあんたにどんな利益があんのさ?どうせ裏路地は色んな町にあるんだ、そんなこと言ってたらきりがないぞ」
「はっ、それもそうだな。だが、それは俺だけがやろうとしている場合の話だ」
あん?どういう意味だ。
「裏路地を毛嫌いしている権力者は多いぞ。実際に動けば、本当に根絶出来る程にな」
「ちっ、やっぱ権力かよ」
高貴(笑)な奴等は潔癖症だな。見下し過ぎだろ。
「国の港であるカイトの裏路地を消せば、さぞ見栄えが良くなるだろうよ。そしてこれを足掛かりに、各地の裏路地を駆逐する。世の貴族は大喜びだな!」
本気で言ってんか、これ。じゃあこいつの計画を潰さないと、カイトだけじゃない。あらゆるホームレス達の住み処が無くなるのか?
それは、断固阻止しないとな。
「そんなの上手くいくわけないって。貴族だからって何でも許されると思うなよ?」
「誰が許さないというんだ?それを決めるのも権力者、貴族だぞ。これは正しい行いなのだ」
「くそったれだな、貴族の正義は」
「見た目だけで、結局お前も貧乏人か。しかしお前に何ができる?」
そんなもん、決まってる。ぶっ壊してやるまでだ。
「次男坊が、偉そうにしてるな。家は長男に奪われるってのに」
「な、貴様!俺があいつに劣るとでも言うのか!」
ん?地雷踏んだか?
「お前が優秀そうには見えないからな。さっさと跡継ぎ争いに負けて、惨めな人生を送るんだな」
「貴様、貴様!ふざけたことをぬかすな、今この場で叩っ斬ってやる!」
激怒しながら、腰からレイピアを抜く次男坊。
はっはっは、面白いように怒ってるな。単純な奴。
「死ねえ!」
「ほいっと」
「ぶへぁっ!?」
レイピアを振りかぶってきたので、顔面を強打してぶっ飛ばす。
多少の戦闘訓練は受けたんだろうが、素人同然の動きだったな。
「ああ、ロディオ様!」
「すぐに手当をしろ!あの女は逃がすなよ!」
お付きの人達が気絶したクソガキを介抱する。そしてヘイトが私に向いたようだ。
「そっちからやってきたんだぞー。私悪くないぞー」
「いや、今のはキリルちゃんが原因だよ!?」
ミーアに突っ込まれるが、先に手を出した方が負けだろう。
「ひゅー!やってくれるぜ!」
「いいぞー、キリルちゃん!すっきりしたよ!」
「ほら、皆喜んでる」
「ええ……分からなくはないけど……」
少なくとも、ギルド内ではこいつが悪だ。何をしたって問題無い。
「おい、女!ロディオ様に手を上げたんだ、覚悟は出来てるだろうな!」
「そんなに怒んないでよ、腰巾着さん達。今のは仕方ないって」
「貴族に反抗した時点で、貴様は罪人だ!おい、取り囲め!」
そうリーダーっぽい人に命令され、他のお付きが私を囲もうとする。
「おっと、そうはさせるか!」
しかし、冒険者達が私を囲み、お付きの動きを阻んだ。
「こうなったら俺達も罪人になってやるぜ!」
「キリルちゃんだけに任せられねぇからな!」
み、皆……。何て熱い展開だ。
「と、とにかくキリルちゃんは逃げて!ここは私達が何とかするから!」
「あ、うん。ありがとねー!」
前のお付きを蹴り倒し、入り口から外に逃げる。
「待てぇ!おい貴様ら、邪魔をするな!全員しょっぴくぞ!」
「元よりそのつもりよぉ!」
後ろでは冒険者とお付きの怒声が飛び交っている。いやあ、思ったより大事になったな。
「……これ、私が鎮めないと駄目だよな」
不可抗力とはいえ、自分が撒いた種だ。手前のけつは手前で拭かないといけない。
「っし、何とかするか!」
皆を犯罪者にはできない。一肌脱ぐか!
簡易ステータス その③
●ミーア
・筋力…並
・知力…馬鹿にできない
・敏捷…得意分野
・体力…心許無い
・魔法…苦手
・運…中吉
・理性…食べ物が絡まなければ
・正気度…まとも
・高潔さ…常識的な範囲
・胸…小さめ




