64話 メンタル相談所
何気に久しぶりの登場です
うだるような夏の暑さの中、私は住宅区を歩いていた。
地球なら残暑といった季節だが、カイトはまだまだ暑い。潮風は気持ちいいんだが。
で、何でここに来ているかというと、理由は一つだ。
噴水のある広場に、目的の白い建物が見えてきた。
白い建物……教会は今日も綺麗だ。掃除が行き届いてるな。
龍魔眼で中を見るが、人はいない。熱心な信者がいないカイトではこうも閑散としている。嘆かわしい。
あ、カリアンはそれなりに来てるか。会いたくないけど。
ま、誰もいないんなら……
バン!とドアを開け放ち、
「おーい、女神様。野球しようぜー!」
「この世界、野球無いです」
冷静な突っ込み、ありがとうございます。
「で、今何してるんです?」
何か掃除機みたいなの持ってるけど。
「見ての通り掃除です。人がいない時にこうしてやってるんですよ」
だからって掃除機て。世界観崩壊するんですが。
「あ、これですか?神力掃除機っていう神の道具なんです。少々古いですが便利ですよ」
「神様何作ってんですか」
よく見たら天井にル○バっぽいのもあるし。何ここ地球?
「ビンゴ大会で当たりまして。使わなければ勿体無いでしょう?」
「ビ、ビンゴ?どこで?」
おおよそ神が口にする単語ではないぞ。
「神界でのパーティーでですね。他にも色んな催しがありますよ」
「庶民臭っ!」
威厳も神々しさもねぇ!
えー、神様ってそんなに俗っぽいの?なんかイメージ離れすぎだわ。
「創造神の趣向なんですよ。まあ皆さん楽しんでるのでいいんですけど」
「意外と寛容なんですね、神って」
一度見てみたいものだ。
「私はトランプを使ったゲームが得意ですよ。巷では大富豪の鬼神とも呼ばれていますから」
「そこ、素直に誇れることじゃないです」
無い胸を張られても。
それからお茶を挟み、一服した後。
「それで、今回はただ遊びに来たんじゃないんですよ」
「……前世のことですか」
そう、それだ。
一応私の中では完結した話だが、女神様からの言葉も聞きたい。
転生する前のあの会話で、私に真実を話さなかった理由とかな。
女神様は言葉を選んでいるのか、少し黙った後。
「記憶に関しては……すいませんでした。辛いものだったので、忘れているならその方がいいと判断したんです」
正確には、忘れたふりなんだけどね。
ま、私としても都合が良かったし、怒ってはいない。
「転生者の殆どは、自分が死んだ時の記憶に耐えられず、どこか正常ではなくなるんです」
頭があれなのか……悪魔の言ってたことは本当なんだな。
「ですが、あなたは記憶を封印していた。なら無理に思い出す必要はありません」
そっすね。
「キリルさんは、欲しかったですか?記憶」
「要りませんね。どうせなら今ここで消してほしいくらいです」
あ、消したらどうなんだ?彼方も消えそうだし、押し付けてるものが全部私に来んのか?
だったら、このままがいいかなー。これ以上おかしくなりたくねーぞ。
転生した先がキ○○イとか、それこそ死にたくなる。
「……前世の方は、まだ頭の中に?」
「はい。まあ妄想ですから、私がいる限り消えませんよ」
心底うっとおしいが、私の平穏な人世には必要だ。
要らなくなる時は、私が本当の意味でキリル・ドラガリアになった時だろう。
「まだ一度しか話してませんけど、出来れば出て来てほしくないですね。何かむかつく性格ですし」
「妄想なら、好きに改変すればよいのでは……」
彼方だから意味があるんであって、原型から離しすぎると別人になってしまう。
果たして彼方が本当にあんな性格かは不明だが、私が納得しているならそれが彼方だ。
「あーくっそ、あの小娘め!面倒くせぇ!」
「自分ですよ……」
もう眠っててくれよ、黒歴史。
「じゃ、用は済んだのでもう行きますね」
「え?も、もうですか?」
ん?何かあるのか?
「いえ、もうちょっと私に聞いてくるのかと……」
「あー」
記憶のこと黙ってたの、気にしてるのか。
私はどうも思ってないんだけどなぁ。
「別に深く考えることないですよ。ほら、私呑気ですし」
「淡白ですねぇ」
そういうところが普通じゃないんだろうけどね。
「また来ますよ。人がいない時に」
「やっぱり、時間を見計らって来てるんですね。そりゃあんまり人来ませんけど」
「信者、そんなにいないんですか?」
サリア様ってこの世界の唯一神なのに。
「いや、信仰はあるのでいいんですけど……あれ、キリルさんは信者でしたっけ?」
んー、まあ近いものではあるけど。
「どっちかというと、ファンとかですね!」
「私はアイドルでは……いや、偶像ではありますね」
「転生者以外にも姿を見せたら、もっと信者が増えると思いますよ」
そのキューティーフェイスなら、老若男女問わず人気を集めれると思う。
「それこそ信者ではなくファンの方なのでは?」
「一種の信仰にはなりますよ」
ろくでもない信仰だろうが。
と、女神様はどこか含みのある顔をした。
「……いつまでも、私の姿がこれとは限りませんよ」
「え?」
今何て?
「さあ、そろそろ教会の方が来る時間ですよ。お開きにしましょう」
「あ、はぁ……」
気になるが、教えてはくれなさそうだ。ここは引き下がろう。
「寄り道せずに帰るんですよ?」
「お母さんですか、全く」
これがロリおかんか。いいものだ。
「色々ありがとうございました。それじゃあまた」
「はい、あなたに幸あらんことを」
「もう日が暮れたか」
まだ暑いけど、秋が近づいてきてるんだろう。
カイトに来てそろそろ半年近いけど、季節の移り変わりを見ると特に実感が湧くな。
「記憶のことは、女神様のせいじゃないのに……」
あれは私の精神が異常だったからだ。それに忘れていたから今の平穏がある。
彼方についても、当分は放っておけばいいだろう。私のイメージ通りなら、かなりの面倒くさがりのはず……
(呼んだ?)
「帰れ負け犬」
死に損ないにも程があるぞ、ラスボスめ。
簡易ステータス その①
●キリル
・ 筋力……力こそパワー
・知力……いつから馬鹿だと錯覚していた?
・敏捷……速さが足りない!
・体力……タフネス
・魔法……土から植物から重力まで
・運……末吉
・理性……蒸発済み
・正気度……不定の狂気発症中
・高潔さ……クズの極み
・胸……望みは無い




