63話 闇龍、町を行く
新章早々、主人公不在
どうも、エルです。二日酔いで頭が痛いです。
昨日カイトに戻ってきて、ミーアさんやセレスさんに報告した後、私とキリルさんは裏路地で飲み明かした。
私は程々に飲んでいたが、キリルさんは倒れるまで飲んでいたのでまだ寝ている。
私はそこまでお酒に強いわけじゃないので、程々でも十分酔ってしまう。その結果がこの頭痛である。
「キリルさーん、朝ですよー」
「……」
寝息すら立てずに熟睡してるようだ。これはもう今日は起きないんじゃないだろうか。
起こすのを諦め、自分の分の肉を焼いて食べる。干し肉は保存が効いて便利だ。
「町にでも行こうかなぁ」
ガルムルクのクエストで稼ぎ、馬車代も必要無かったので今はちょっとだけだがお金がある。昨日の酒で大分無くなったけど。
それでも手元にお金があり、キリルさんにも自由に使っていいとお許しが出ている。
折角なので、町で遊んでみようかな。何気に一人で行ったことはないし。
手早く用意を済ませ、キリルさんを起こさないようにそっと小屋を出る。
「行ってきまーす……」
起こしても良かったのだが、キリルさんは寝起きがひどいので下手すれば私が眠ることになる。
「よっと」
木から降り、もう一度荷物を確認して小屋を離れる。
ちょっとした冒険気分だけど、一人で大丈夫かな?
のんびり森を歩き、カイトを目指す。
自然の中というのは気持ちがいい。雑踏も無いから静かだし、食べ物で溢れている。
どうして人間は自然から離れるのだろう。進化すると天然物が苦手になるのだろうか。
だったら無駄な進化だと思う。原始人の方が豊かだ。
「いい天気だなぁ。これはキリルさんじゃなくても寝たくなるよ」
雲一つ無い青空だが、人界の空は綺麗だ。
魔界はちょっと淀んでいるというか。魔族は過ごしやすいらしいけど。
当然私も魔界の環境には適応できているが、見る分にはこの空がいい。
「まずはどこ行こうか……。Bランクになったし、クエストでも見てみるか」
ほんとは今日にでもクエストに行きたかったが、キリルさんが寝てるんじゃしょうがない。
初の共同クエストは、何がいいかな?
ギルド内はいつも通りに賑やかだった。基本騒がしいけど、冒険者って暇が多いのだろうか。
「あれ、エルじゃない。キリルはどうしたの?」
「ああ、セレスさん。おはようございます」
セレスさんは座席でお茶を飲んでいた。クエストを見ているわけではないので、普通に寛いでいるようだ。
「キリルさんは寝てます。昨日飲んでたので」
「あの子は帰ってきて早々……」
キリルさん、お酒好きだよなぁ。
本人はまだアル中じゃない、って言ってたけどアル中ってなんだろう。
「一緒にいるんだから、エルも止めなさいよ。このままじゃあの子本当に駄目になるわよ?」
「酔ってるキリルさんをどうにかできる訳ないでしょう。素直に酔い潰れてくれた分まだましですよ」
最悪、龍化して暴れる可能性もある。そうなったら、私も本気で止めないといけない。
「まぁいいわ。それよりあなたもBランクになったのでしょう?パーティーでも組む?」
「そうですね。常時それという訳ではないですが、出来ればご一緒したいですね」
セレスさんは勿論、ミーアさんも心強い人だ。私とキリルさんじゃあどうも危機感が無くなって、雑になってしまう。
やっぱり種族柄、大雑把なのは仕方ない……のか?
「エルちゃーん。おはよー!」
「おわっと、おはようございます」
突然背中に覆い被さってきたので誰かと思ったが、ミーアさんだった。相変わらずスキンシップが激しい。
「んえ?キリルちゃんは?」
「寝てるそうよ。お酒でね」
セレスさんは呆れ顔だが、無理もない。常習犯だし。
「そっかぁ、残念。やっと帰ってきたのにー」
「やっとって、そんなに日にち経ってました?」
七日ぐらいなような。
「寂しいものは寂しいんだよ。長さが問題じゃないの」
「そういうものですか……」
ミーアさんが少し変わってるだけなのでは。
その後、お二人と一緒に昼御飯を食べてから私はギルドを離れた。
キリルさん抜きでのこの三人は初めてだったけど、あんまり緊張はしなかった。
私は人見知りする方だけど、あの二人には十分慣れた。
折角人界で出来た人間関係だ。大事にしたい。
「知らない所は……まだ怖いかな」
住宅区や港には殆ど行ったことが無い。ここより人も多いだろうし、不安だ。
「じゃ、裏路地かな。手土産でも買ってこう」
あそこなら何回も酒盛りに行っている。もう住み処みたいなものだ。
「お酒と……いいや、これだけで」
あそこのおじさん達にはこれでいい。単純だけど効果的だ。
……私は飲むつもりはないが。二日酔いはこりごりだ。
「おうエルちゃん。昨日は大丈夫だったかい?」
裏路地のおじさんの一人が朗らかに話しかけてくる。
昨日……キリルさんのことか。
「大丈夫でしたよ。もうキリルさんったらべろんべろんになってて」
「いやキリルちゃんもだが、エルちゃんも酷かったじゃないか。無理して飲んじゃいけないよ?」
「えっ……そうでしたっけ……?」
そういえば、私吐いてたような、なかったような。
「つ、次からは気を付けます!」
「いやいや、そう畏まることもないだろう。酔ってこその酒だからね」
とんだ醜態を……。
「そうか、キリルはまだ寝てるか」
「まぁ、あれだけ飲んだら当然ですよね」
ジグさんもちょっと呆れてるようだ。
「お前もあいつに乗せられるなよ。間違っても見習うな」
「分かってますよ。そんなに強く言わなくてもいいと思いますけど」
キリルさんにだっていいところはある。具体的には言えないけど。
「変わってるからな、あいつもお前も。龍人族ってのは皆そうなのか?」
「違います……多分」
少なくともガルムルクの龍人族は、まともな人もいた。私達は変わってる方になるのかもしれない。
「しかし、お前もここに慣れたな」
「あれだけ一緒に宴会したら嫌でも慣れますよ」
私の答えに、ジグさんは違いねぇ、と笑った。
「こんなとこに馴染んでもしょうがねぇと思うけどな」
「いいじゃないですか、楽しければ。場所は関係ありません」
どこだろうと、自分が好きならそれでいいんだ。安らぎは大事。
「今日は飲んでかねえんだろ?」
「まだちょっと頭痛いですし、遠慮しときます」
また吐いたら敵わない。
すると、くいと袖を引っ張られた。
「……ん?」
見ると二人の子どもがいた。どちらも裏路地の住人だ。
「どうしたの?……ああ、キリルさんなら今日はいないんだ、ごめんね」
確かキリルさんに懐いてたはずだ。あの人子ども好きだから、よく遊んでた。
「そっかぁ」「キリルお姉ちゃんも忙しいんだね」
寝てるんだけどね。
しかし、この二人……確かそれぞれ男の子と女の子だったはずだけど、見分けがつかない。
人間の、しかも子どもとなったらよく分からなくなる。
「あ、じゃあエル姉ちゃん遊んでよ!」
「え、私?いいけど……」
子どもの扱いはしたことが無い。どうしたらいいのか……。
不安な気持ちでジグさんを見るが、ジグさんは笑うだけだった。
「え、えーっと何するの?」
「分かんない!ほら、行こー!」
手を引かれ、奥へと連れていかれる。こういう強引なところが子どもの苦手なところだ。
結局、その日は夕方まで子ども達と遊んだが、正直クエストよりも疲れることになった。子どもの体力って一体……。
「はあ~、つ、疲れた……」
日も落ちてきたところで、森に帰ってきた。
一人は不安だったが、楽しかったと思う。これで私も人界の空気に慣れただろうか?
「また、こうして一人で行こうかなぁ。でもやっぱりキリルさんと一緒が……」
何てしていると、小屋に着いた。いや、小屋があった場所だ。
「あ、あれ?」
そこには、地面に落ち大破した小屋と横たわるキリルさんがいた。
「キ、キリルさーん!一体何が!?」
駆け寄ってみるが、怪我はなく、むしろ寝ていた。
揺すってみると、キリルさんは薄目を開けた。
「あ……エル?お帰り」
「ただいま戻りました、ってそれより何ですかこれ!?」
まさか、襲撃?それともモンスターの仕業だろうか。
「ああ、これ?いやー、寝てたらさ、虫が飛んできて……うっとおしいから潰そうとしたんだけど……」
「だ、だけど?」
キリルさんは一度目を擦り、
「重力魔法使ったら小屋が落ちちゃった」
「もっと方法考えてください!」
やっぱり、寝起きのキリルさんは手に負えない……。
その後、小屋を建て直す気力も無かったので、地面に草を引いて寝ることになった。
「明日、明日直そう」
「はいはい……」
このだらけ癖は、何とかしないといけないのかもしれない。
なお、虫は逃がした模様




