6話 猪狩りとイケメンと
ちょっと投稿遅れました。
「大人数クエスト?」
ギルド内の食堂で昼食を食べつつ、セレスの言葉を反芻する。
「ええ、近々有るみたいよ?内容はレッサーファンゴの討伐だって」
同じく昼食を取りながら、セレスが説明をしてくれる。ちなみに彼女の奢りである。
「ふーん、やってみるか」
大人数クエストは緊急クエストの一つで、指定されたランク以上の冒険者ならば自由に何人でも参加できる。
「で、何でそんなクエストが?」
「そろそろレッサーファンゴの繁殖期だからね。数が増えて、冒険者の修行にもちょうどいいからじゃない?」
修行相手ねぇ。
「まあお金も底をついたし、やらない理由は無いね。‥.すいません、追加注文いいですか?」
目の前の料理が無くなったので、新しく注文する。
「ちょっとあんた!奢りだからってガツガツ食べるんじゃないわよ!むしろ遠慮しなさいよ!」
「奢るって言ったのはセレスじゃん。何今さら心狭いこと言ってんのさ。折角の感謝の気持ちが薄れてきたよ?ほら、まだ感謝されたいならそのデザート寄越しな?」
「こぉの、優しくすれば!あんたがお金が無いお金が無いってうっとおしく絡んでくるから仕方無く奢ってあげたのよ!」
そんな心優しいセレスの怒声を聞き流しつつ、緊急クエストについて考える。
レッサーファンゴと言ったら、猪突猛進を地でいく猪型モンスターだ。
いわゆる雑魚モンスターだし、低級冒険者へのボーナスクエストと言えるだろう。
冒険者になって初めての大人数クエストだし、今から楽しみになってきたぞ。
「それじゃあセレスご馳走様。私はクエストの準備でもしてくるよー」
「どういたしまして!もう奢らないからね!」
何度目かのセリフを聞き、私はギルドを後にした。
三日後、数十名の冒険者が森の入口に集った。
緊急クエストである猪狩りを受注したC,Bランク冒険者達だ。
その前にギルド職員が立ち、拡声器である魔道具を使い全員に声を掛ける。
「皆様、本日はお集まり頂きありがとうございます!今回のクエストはここ、ガダの森で大量発生したレッサーファンゴの討伐です!繁殖期のためかなりの数が確認されていますが、出来るだけ多くの討伐をお願いします!」
説明が終わり、冒険者達が森に入っていく。
結構な数がいるが、私の取り分が少なくなるんじゃないか?
「キリルちゃんどうするの?今回も一人でやるって言ってたけど」
同じく参加していたミーアが、少し心配したように言う。
「大丈夫だって。相手は手頃な下級モンスターでしょ?それに暗殺者はソロの方が動きやすいし」
「そうでもないと思うけど‥.まあキリルちゃんなら大丈夫か。この森で暮らしてるんだもんね」
「そそ、ホームグラウンドだよ」
実際この辺りは知らないが。
「じゃあ私は行ってくるよ。どっちが多く狩るか競争ね!」
そう言い残し、ミーアは森へと入っていった。
ちなみにセレスは、即席のパーティーを組んだようだ。
「さーて、ほどほどに狩るとするかな」
レッサーファンゴなら食料として何度か狩っている。目立たない程度に頑張るとしよう。
「ほいさっさー」
レッサーファンゴを横から突く。今日の武器はいつもと違い短槍だ。当然刃には私の牙を使っており、性能は申し分ない。
こいつらの倒し方は簡単だ。敵を見つけたら突っ込んでくるので、それを避けて柔らかい胴体を狙う。
攻略法さえ分かっていれば後は作業だ。流石、今回ボーナス扱いされているモンスター、低級冒険者の相手にぴったりだ。
今もまた、新しい猪がこちらに突っ込んでくる。
それをぎりぎりまで引き付け‥.‥.
「フラッシュセイバー!」
突如横から放たれた光が、その猪を貫いた。
ああ、私の獲物が!
がっかりしながらも、魔法が飛んできた方を見る。そこには、白い鎧に包まれたイケメンの剣士がいた。見たことあるような‥.
「やあお嬢さん、危ないところだったね。俺がいなかったら、今頃突き飛ばされてよ。いやあ、間に合って良かった」
そんな戯れ言をほざきながら、その剣士が近づいてくる。思い出した、確か聖騎士の‥.誰だったか。
「あれ?よく見ればキリルちゃんじゃないか。君も参加してたのか。でも駄目だよ、自分の実力にあったクエストを受けないと。さっきみたいに危ない目にあうんだから」
別に危なかった訳ではないのだが。
反論したかったが、この手のタイプは話を聞かないやつだ。
「まあこの俺、カリアンが居れば心配無いけどね。というわけでどうだい?一緒に狩りでも」
「お断りします」
丁重に断り、その場を離れる。
クエスト中にナンパなんて、節操無さすぎだろう。
「待ちなよ、君はまだC級だろう?A級の俺と一緒なら討伐なんて楽勝だよ」
いや、C級向けだからなこのクエスト。
むしろ何でA級が参加してるんだ。
「心配しなくても、大丈夫ですよ。既に何匹か狩ってますし、あなたの力を借りるまでもありません」
「へえ、ランクの割りに実力はあるんだね。でも俺がいれば‥.(『サンドブラスト』)痛っ!な、なん‥.痛たっ!ふ、服がジャリジャリする!」
無詠唱で魔法を使い、無駄イケメンの服の中に砂を入れる。
その間に、とっとと立ち去ることにする。
全く、折角のクエストなのに嫌なものを見た。
「皆様、お疲れ様でした!報酬については集計ができ次第お渡しする予定です!」
夕方、粗方討伐も終わり冒険者達は町へと帰っていく。
あの後は特に問題も無く、私は順調に狩りを進めていた。
「私は11匹倒したよ!キリルちゃんは?」
ミーアが自信満々に言ってくる。そういえば、競争なんて言ってたな。
「私は10匹。‥.11匹のはずだったんだけどなぁ。」
あのとんちき野郎のせいで。
「な、何かあったんだね‥.。でもC級で10匹はすごいよ、多分一番なんじゃない?」
「そうかなぁ‥.あ、セレスは何匹?」
隣にいたセレスに尋ねる。
「パーティーで22匹よ。私個人ならもっと少ないわね」
謙虚だな。
「結局、今回何匹倒したんだろうね。三十人は居たはずだけど」
「さあ?取り敢えず今年の繁殖期は大丈夫みたいよ」
三人で語りながら、町に戻る。
大人数クエスト、結構楽しかったな。
ギルドに戻ると、奥の方に小さな人だかりが出来ていた。
「それで、今回もカリアンさんが一番の討伐数だったんですね!」
「流石はA級冒険者ね!」
「いやあ、これくらいは当然だよ」
‥.無駄イケメンが、ハーレムを作っていた。
「まーたあの男ね、ちょっとは静かにしてほしいものね」
「あの人、A級なのにこの町から出ないよね。いつ他の町に行くんだろう?」
ミーアとセレスが、口々に言う。
あのカリアンとかいう男、前から一部の冒険者に毛嫌いされているのだ。
自分に酔っているというべきか、一々行動が目に余る。
その見た目から頭の軽い女達には愛されているようだが、そこがまた男達に嫌われているのだろう。
げっ、こっち見た。
「やあキリルちゃん、昼間は危なかったね。あれから大丈夫だったかい?」
「はぁ、まあ‥.」
取り巻きの女達からの視線が鋭い。
やめろよー、こっちにそんな気ないのにさー。
「まあ俺の力が必要だったらいつでも言ってくれよ、何せ俺には女神様から授かった力があるんだから!」
はいはい‥.‥.今なんて?
ちなみにミーアのランクはB中位、
セレスはB上位です。
キリルがどんどん畜生に‥.。