58話 死に際に
前回のあらすじ
不意討ちに始まり不意討ちに終わる
「ひっひっふー」
「何ですか、それ」
「痛みに耐える呼吸」
心臓をやられたので、流石に痛い。まじで死ぬかと思った。
右腕も千切れかけだが、ほっときゃ治るか。
ダルムとか言ったか、意外に粘りやがったな。
邂逅した時から満身創痍だったのに、あんな強力な攻撃までしてくるとは。お蔭で想定外のダメージを負ってしまった。
レンファはまだ目治ってないし。
当のダルムは、上半身だけなのにまだ消滅しないでいる。
だめ押しいるか、これ?
「心配せずとも、直に消えるさ」
「だったら早く消えてほしいんだけど。妙にスプラッタだから」
私に猟奇的な趣味は無い。弱いものいじめは好きだがね。
「しかし、貴様は頭がおかしいな」
「それよく言われるんだけど、納得いかないなぁ。人間ってこんなもんじゃない?」
皆自分勝手だろ。
「もしや、転生者か?だったら分かるのだが」
「いや、「え、何でキリルが転生者って分かったんだ?」
おい、馬鹿。迂闊にばらすな。
「ふははは!そうかそうか、貴様転生者か!」
「何が可笑しい。聞けば魔王軍にも沢山転生者があるらしいじゃん」
だったら珍しくもないだろ。
「いや、奴等も一様に狂っていてな。一度死を経験しているのだから、当然だがな」
「そんなのと一緒にするなよ。むしろ私は生き返れてやったー、な感じだし」
そう答えると、ダルムは怪訝な顔をした。
「ん?そんなはずはないだろ。転生者は自ら死を望んだ者なのだから」
「はぁ?」
何言ってんだこいつ。
「転生者は生に満足していないのに死んだ者達だ。貴様、女神から何も聞いていないのか?」
「聞いてるよ。今度は最後まで生きてくれ、って」
何度も話してるからな。
「……ふん、どうやら女神は言葉を濁しているようだな。大方それっぽい説明で納得させられたのだろう?」
それっぽい……言われてみればそう思えなくもないが、女神様が嘘を付くのか?
「嘘ではない。あの無駄にお節介な女神のことだ、貴様らにショックを与えない為に配慮したのだろう」
「あ、女神様のこと知ってんの?」
「俺は悪魔として三百年生きてきた。そのぐらいは知っているさ」
てことは、女神様もそんな前からいるのか。
「むっ、もう時間か」
「ええ、もうちょっと聞きたいことがあんだけど」
中途半端に気になること言って、ここで逃げるのかよ。
「後は自分で考えろ。短絡的な貴様では無理かもしれんがな」
「最後まで生意気な奴だな。もういいよ、とっとと死ねよ」
「言われなくとも」
最後にそう言い、ダルムはあっさり消えていった。
「キリルさん、今のどういうことなんでしょう」
「さあね。でも出任せじゃあなさそう」
奴は真実を言っていたと思う。つまり、私は生きるのを諦めるような前世を歩んでいたのだろうか。
しかし、生き返って狂うようなレベルではないと思うんだけどなぁ。記憶は朧気だけど。
「えーっと、トラックに轢かれて死んだんだよね」
夜の交差点で、恐らく居眠り運転だったのだろう。赤信号に突っ込んできたトラックが……。
「ん?何で私はそんな時間に一人で……」
しかも、制服だったような。部活もしてなかったはずだし、何で?
(前世の記憶……学校は楽しかったはずなんだけど)
学友の顔も、親しかった何人かは覚えている。
彼女達にもう会えないのは少し悲しいが、それは既に割り切っている。
(じゃあ、家庭は?)
えーと、両親……あれ、健在してたっけ?顔が出てこない。
でも死んだって記憶も無いし、もしかして親との関係が希薄な子だったのだろうか。
その時、ノイズ混じりの光景が頭を過った。
(……?何この光景)
よく見えないが、二人の男女が映っている。
男は何かをわめき散らし、女は床に横たわっていた。
男は暫く叫んだ後、こちらに向いて近寄ってくる。その目は焦点が合っておらず、明らかに正気ではない。
そして、手が伸びてきたところで記憶が途切れた。
(ん、んー?)
断片的だったが、それが私の琴線に触れたようで、段々記憶が戻ってくる。
その中に、さっきの男女の姿が……
「あ」
そうか、あの二人は。
「前世の両親じゃん」
すっかり忘れてた。
キリル「これ……母さんです……」
次回はちょっぴりシリアスです。




