55話 闇の先に
遅れて申し訳ありません
氷の迷宮を抜けて洞窟をどんどん進んでいくが、奥に行くほど闇が深くなっていく。
この先に何かあるのは確定だな。
「なーにが出るかなー♪」
「楽しそうですね、キリルさん」
「多分ダンジョンボスだよ?わくわくするに決まってんじゃん」
どんな奴が出てくるんだろう。出来ればでっかくて迫力があるのがいいなぁ。
ここまで来てしょぼいのは来ないでほしい。このダンジョンは期待に答えてくれるかな?
「手強いのがいるといいよなぁ。モンスターはまだ弱かったしな」
「一応強くなってはいたけどね。所詮雑魚のままだったし」
「私は弱い方がいいですよ。早く終わりたいんです」
弱気だねえエルは。折角だからやりごたえあった方が面白いじゃん。
雑談しながら歩く間も、闇は広がっていく。
やがて、周りは何も見えなくなるほどになってしまった。
「レンファ、明かりは?」
「点けてるはずなんだがな。どうやら普通の暗闇じゃあないぜ」
だろうなぁ。魔力感じるし。
音の反響からして、広めの空間にいるとは思うんだけど。
「何者だ、貴様ら」
「っ!」
唐突に暗闇に声が響く。
それは低く、おぞましく、常人だったら恐怖を覚えるような声だった。
「恐らく、ダンジョンを攻略しに来た冒険者か。ここまで来るとは少々意外だな」
「それは誉めてるのか?だったらありがとさん」
意外、ね。確かに難易度は高いのだろう。
私達が規格外なだけだ。
「取り敢えず姿ぐらい見せてよ。まず話をするのも悪くないと思うけど」
「ふむ、いいだろう」
パチン、と指を鳴らす音がした途端、周りの闇が晴れ洞窟が視界に広がる。
天井は低いが、そこそこ広いな。
「全員女か。しかし強い」
声の主は、私達の正面に堂々と立っていた。
黒い小綺麗なスーツを纏い、銀の髪を持つ美丈夫だ。
……イケメンかよ、声とのギャップすごいな。
「よっし!って、何だよキリル」
早速攻撃しようとしたレンファを制し、話し掛ける。
「あんたがここの主?」
「いかにも。俺は魔王軍幹部、ダルム。わけあってここにダンジョンを生成した」
「ま、魔王軍!?」
エルが露骨にびびるが、逃亡兵だもんな。無理も無い。
しっかし、幹部か。多分大物だよな、こいつ。
「……?どうした」
「いや、驚いてただけ」
どうすっかなぁ、これ。馬鹿正直に突っ込んだら返り討ちに遭いそう。
「随分肝の座った女だな。俺を前に平静を保つとは 」
「まあね。そんなに柔じゃないつもりだよ」
何て返すが、龍魔眼で確認する限りこいつは非常に強い魔力を持っている。私よりも強大だ。
(戦闘能力は分からないけど、下手に動いたら警戒されるか)
今のあいつからは特に敵意等は感じられない。
冒険者の私達は敵のはずなんだが、強者の余裕というやつか。
(……ん?)
よく見ると、腹部に魔力の乱れが見える。これは損傷によるものか。つまり、
「あんた、手負いか」
「!よく分かったな」
あっさり認めたよ。
「これがダンジョンを造った理由でな。ガルムルクの侵攻に来たはいいが、突然何者かの攻撃を受け、少なくないダメージを受けたのだ」
「じゃあこのダンジョンは回復の為の隠れ家ってわけか」
聞いてもいないのにペラペラ喋ってくれて助かるが、理由がはっきりしたな。ガルムルクは狙われていたのか。
(キリルさん、この人どうします?怪我してますけど)
(んー、そうなんだよなぁ)
エルと小声で会話をするが、奴は気づいていないようだ。
とにかく、目の前に怪我している人物がいたらすることは一つだな。
「私回復できるけど、見せてみな」
「……?何故だ」
「何故って、理由は要らないでしょ」
遠慮なくダルムに近づくが、奴は戸惑っているのか構えもしない。
「あんたを見逃しはしないけど、こっちにも気分ってものがあるんだよ」
手負いの獣は恐ろしいと言うが、ならば今のこいつら警戒すべき相手なのだろう。
だがあちらの警戒を解くならば、まずこちらが警戒を捨てなければな。
「本当に何者だ、貴様ら?」
「ただの冒険者だよ。ちょっと特殊だけどね」
ダルムの腹を見てみるが、決して浅くはない傷が出来ている。一体どんな攻撃を受けたんだ。
「ふむふむ」
触ってみるが、何か不思議な感触だ。まるで生身ではないような……。
「あんた、どんな種族?」
「ほう、何だと思う?」
むかつく台詞だ。
「んー……取り敢えず……」
と、ここで拳を握りしめ。
「土手っ腹に、ドラゴンパーンチ!!!」
「ぐっほあああ!?」
ガードも何もしなかったダルムは私の龍化した拳をもろに受け、面白い程飛んでいった。
「ちょ、キリルさん!?」
「ひゅー!やるじゃねえか!」
後ろから二人の声が聞こえるが、エルは突然の出来事に驚いているようだ。
「はっはー!まさかこんなに上手くいくとはな!」
出来るだけ友好を装ったつもりだったが、引っ掛かるとは思わなかった。
「き、貴様……!」
苦し気な表情でダルムがこちらを睨むが、間抜けなのはてめーの方だ。
「さあ、今のはゴングの代わりだ!行くぞ二人とも!」
「おうよ!腕が鳴るぜ!」
「何だか卑怯なような……」
細かいことはいいんだよ、敵さえ倒してしまえばな。
~もしキリルがもっと外道だったら~
キリル「その股座にロケットパーンチ!!!」
ダルム「ぐああああ!?」




