表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/121

54話 白の世界

いつもなら2話に分けるところを1話にしたら、予想より長くなりました。

このくらいの長さの方がいいでしょうか?

あれからモンスターとの戦闘も少なくなり、余裕が出来てきた頃。

私達は現地調達した肉を食べながらこの先の道について議論していた。

何で今になってそんなことをしているかと言うと、下の階層へと続く道の先を見てしまったからだ。

もう一度覗きこんでみるが……


「おかしいよなぁ」

目の前には、氷に包まれた景色が広がっていた。

今まで岩で出来た洞窟だったというのに、境界線で綺麗に環境が分けられている。

いやいや、なにこれ。急に温度も変わってるし、明らかに普通じゃない。

ダンジョンだから?それにしたって不自然だろう。まるで結界があるかのように冷気までこちらには入ってこない。


「どうします、これ?」

「どうするったって、進むしかないでしょ。他に道も無いし」

寒さ対策なんざしてないが、こっちにはレンファがいる。

炎龍は体温も高いはずだし、ここはレンファ任せになるか。

「ドラゴンって寒いの苦手だっけ?」

「そうでもないですよ。ましてや私達は龍人族ですし」

爬虫類のイメージがあるから、寒さに適応できるか不安だ。変温動物ではないといいのだが……。

「あたしが暖めればいいんだろ?そんなの朝飯前だぜ」

「ほんとかよ……」

レンファの平均体温は50℃を越えている。

高けりゃいいってものでもないと思うんだが、寒さには強いだろう。

「むしろ氷を溶かしちまえばいいんじゃねーか?」

「却下」

どこまで氷なのか見当もつかないのに、そんなリスキーなことは出来ない。大人しく道なりに進もう。


「おおう、寒っ……!」

氷の中は想像以上の寒さだった。冷凍庫ってこんな感じなのかなぁ。

「駄目だ、レンファ頼む!」

「おうよ。『フレイムサークル』」

円状の炎が発生し、なんとかましな温度になった。

それでも寒いが、これ以上火力を上げれば氷を溶かし過ぎてしまう。

「どこまでこんな感じなんでしょう。すぐに終わってくれればいいんですが」

「この状態で戦闘は不利になるよねぇ……」

山暮らしの時にも冬は雪に包まれたが、あれは凍え死ぬかと思った。無駄に高いとこに住んでたし。

……父さんと母さん、元気かな。今度エルを連れて帰省するか。


「キリルさん、聞いてます?」

「え?なんか言った?」

聞き逃してたか。思い出って怖いな。

「あの、何か食べた方がいいですよ。温まりますから」

「ああ、そうか。肉肉っと」

今考えることじゃなかったな。こんな目立つ移動をしていたらモンスターにもばれるだろうし、気は抜けないか。


「静かだなー。やっぱこんな環境だとモンスターすらいねぇのか?」

レンファがぼやくが、その方が好都合だ。

……いや、何かあるだろうけどさ。そんな拍子抜けするようなことは無いだろう。

「ん?道が……あ、こっちか。鏡みてーで分かりづらいなおい」

「自分に囲まれてるみたいで気持ち悪いな。さっさと出たいよ、もう」

氷には私達が反射して映っている。それがたくさんあるもんだから、万華鏡みたいだ。

一面が氷の為、どれだけ進もうと私達は映り続ける。

私達が歩けば映った私達も歩き、肉を食えば同じように肉を食う。なんか楽しいな。

「上にも下にも私がいるよー。鏡の世界みたい」

「私は落ち着きませんけどねぇ。虚像と分かっていても視線というのは……」

エルが不安そうな顔で氷と向き合うが、虚像のエルは何とも無さそうな顔をしている。

それどころか顔付きがどんどん変わり、エルが動いていないのに一歩踏み出した。


「……あれ?」

周りを見ると、エルだけでなく私とレンファも勝手に動きだし、そのどれもが現実の私達を捉えている。

やがて沢山の私達は、氷の世界から出てこちらに踏み込んできた。

「嫌な予感はしてたんだよなぁ……」

「な、ななな何ですかこれ!?」

これはホラーだわ。

「何びびってんだよ。自分じゃねーか」

「自分が目の前に、しかも沢山いるからだよ。普通はこんな風に自分を見ないの!」

こういう時は馬鹿が羨ましい。思考放棄出来ていいなそっちは。


「自分との戦いか……」

どこまでコピーされているんだ?見た目はそのままだが、スキルとかまで一緒なら勝ち目は無い。

「おらおら!道を開けろぉ!」

「ああ、迂闊に行かない方が……!」

レンファの拳に炎を纏わせ突っ込むと、それに反応した偽物達が一斉に動き出す。

しかし、氷で出来ているのか、炎に触れたところが少し溶けてしまっている。

(これは、見かけだけか?)

だったら楽なものだ。人形と変わらない。

「どおりゃあああ!」

拳が振るわれると同時に熱波が放たれ、偽物を跡形もなく消していく。

こっちでも短刀で切りつけてみるが、感触は正に氷といったところか。

「キリルさん、案外弱いですよ。魔法を使ってくる様子もありませんし」

「ああ、こけおどしだね。多少炎に耐性はあるみたいだけど、微々たるもんだ」

姿が気に入らないけどな。このダンジョンは実に趣味が悪い。


「なあ、どんだけ倒しても氷の中から出てくるぞ!」

 「ずっと映ってるからね!もう相手にするな!」

 ここで無駄に消耗したくはない。何か止める方法があれば……。

 「とにかく動こう。どこかに出口があるだろうし」

 「うう、寒いし敵は多いし、早くここから出たいですー!」

 ぐずっていても始まらない。

 こいつらからは魔力を感じるし、ダンジョンの仕掛けじゃなければこの現象を起こしている奴がいるはず。

 「……大きい魔力!あっちだ!」

 龍魔眼に原因らしきものが見えた。野郎、ぶっ殺してやる!


 「これ、か?」

 魔力を追ってきたが、そこには魔力の塊を閉じ込めた氷があった。術者ではなかったが、これを潰せば偽物は消えるだろう。

 「あたしなら氷ごと消せるぜ」

 「それが早いか。後ろから偽物が来てるからさっさとやって」

 ここも一面氷だし、うかうかしてたらまた囲まれる。


 「ファイアー……うん?」

 が、レンファが魔力を込めようとした途端、周囲の氷が魔力の塊を中心に動き始めた。

 それは手となり足となり、あっという間に氷のゴーレムが完成した。

 「ここの番人ってわけか。だが氷で出来てるならあたしの敵じゃねえ!」

 「的がでかくなっただけに見えるけど……」

 ゴーレムの心臓部には爛々と輝く魔力がある。

 あれが弱点なのだろうが、変形したところで逃げ足が速くなるわけでもあるまいに。

 「『フレイムバースト』オオ!」

 案の定、ゴーレムはあっさりと燃やされた。

 氷が溶けていき、核の魔力にも火が……

 「こいつ、再生しやがるぞ!」

 全体が溶けきる前に周囲の氷が集まっていき、再びゴーレムの姿に戻る。


 レンファが何度燃やそうとそれを繰り返し、ゴーレムは悠然と立っている。

 「畜生、もう一度……!」

 「やめとけ。氷は無尽蔵にあるんだ、あんたが先にくたばる」

 あんなに補充したのに、氷が減った様子は無い。これじゃじり貧だ。

 偽物は今エルに処理させている。

 遅れはとらないと思うが、万が一もある。信頼と他人任せは違うものだ。

 「私がやるよ。倒し方は思い付いたから」

 「おお、流石キリルだな!普段はああなのに」

 普段から私は知的だよ。

 

 「止めはそっちね。そんじゃ、『クレイクラフト』!」

 土でゴーレムを包み、団子状に固める。無から土を造るのは魔力消費が多いが、もう温存なんて言ってられない。

 「閉じ込めたけど、どうすんだ?」

 「このまま炙って。これなら氷の補充は出来ないと思うから」

 早い話、氷と切り離してしまえばいいのだ。

 これぞ物質生成出来る私の特権!


 「おお、偽物の動きが急に鈍くなったぞ」

 「これが核で正解だったか。終わりがあって良かったよ」

 核である魔力は未だに消えていないが、弱々しくはなっている。しぶとい。

 「結構疲れましたよ。何で私一人で……」

 「お疲れー。まあ経験だと思いな」

 「温存するって話はどこに……」

 あれはその場の気分だ、気にするな。


 「お、あれ出口じゃね?」

 レンファの指す先には下層への道があったが、その先は土の洞窟が広がっていた。

 「助かったー。トカゲに寒気はつらいよー」

 「トカゲじゃないですし、人の身なら関係無いですよ」

 ビバ恒温動物。

キリル「美少女に囲まれると変に威圧感あるな」

エル「自画自賛ですか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ