49話 思いつき
三人称視点にしようかと思ったら、そうなりませんでした。技術不足ですね。
この街、心休まる時が無ぇ。
気づくのが遅いと思うが、私は本来呑気なのだ。危機感薄いのだ。
(ちくしょー、あの堅物め。私は問題児かっつの)
実際は自覚あるのだが、これでも最近は大人しい方だと思うのに。
エルだって、何か事を起こすような度胸無いし……あ、原因この子か。龍人族なんか見つけてきたらそりゃ警戒するわな。
「キリルさん、次はどこ行きます?」
無邪気にはしゃぐエルに毒気が抜かれる。ま、よっぽどのことをしなきゃいいんだ。そのくらいの自制心はあるだろ?キリル。
「今日は遅いし、帰ろうか。試験の準備は数日かかるかもしれないし、時間はあるでしょ」
「時間よりもお金が欲しいですけどね」
それを言うな。
「ご飯どうする?ギルドの酒場でも行く?」
「それはエルの合格祝いでいいだろ。無駄遣いしてらんねーし」
「妙にプレッシャーかかること言わないでください」
※
「ふーむ……」
ギルドの事務室で、カロロは一人考え事をしていた。
「今のところ、問題を起こすつもりは無いようだな。こちらとしては助かるが」
カロロの耳には、今もキリル達の会話が聞こえていた。
周囲の風を読めばそのくらいのことはできる、と彼女は言うが卓越した技術が無ければ到底そんなことは出来ない。エルフでも再現できるか分からないだろう。
「さて、試験はどうするかな……過去の例を参考にしようにも、資料が少ないからな。どうしたものか」
昇格試験を受ける冒険者は少ない。
あれだけランクを上げるのが難しいというのに、急ごうと思わないのは高ランクで受けられる恩恵がさほど変わらないからだ。
Sランクになれば流石に優遇されるが、Aランク以下は特に変化は無い。精々冒険者歴の長さを表す程度だ。
ランクも信頼を生むのだが、冒険者は実績が重視される。試験で早々にランクを上げるより、長く、多くクエストをこなして名を広める方が依頼者からの印象はいい。
「自由人が多いのも考えものだな」
面倒ごとを前に思わずため息を吐く。
ここの職員になって三十年ぐらい経ち、こういった決めごとも任される立場になった。
たまに受付はやっているが、最近はほとんど裏方だ。
沢山の冒険者と顔を合わせるのが好きだったのだが、そういったことは新人に回される。何事も経験が一番だとは分かっているのだが……。
自分はもう年老いてしまった。
体も重くなったし、直接動かずに風を操作して大概のことをこなしている。年のせいであり、決して横着ではない。
「……こいつら、呑気だな」
若い龍人族が馬鹿やっているのが耳に入ってくる。
こんな奴等も、将来は寿命で悩むのだろうか。想像できないが、自分のように無気力にはならないでほしい。
辛いことも多いが、生きるのは楽しいことなのだから。
「って、今は仕事だな。試験は早目に行っておきたいからな……」
現在来ている依頼書全てに目を通していくが、どうもピンとこない。
いっそランダムに決めようか。そう思った時、ちょうどよく新しい書類が入ってきた。
「ん?これは何だ」
内容を見つつ近くの部下に尋ねる。
「炭鉱夫からの報告です。最優先事項だとか」
「最優先?あまり深刻な事態には見えないが……」
詳しく見てみるが、やはりそこまでの大事ではない。
後で編集して掲示板に張り出しておこうと思い、書類の束にそれを……
「ん、これでいいんじゃないか?」
この事態、あいつらに解決してもらうか。
そういえば反骨竜の鳴き声とカロロの名前が同じですが、まったく意味はありません。ただ作者が忘れてただけです。反省します。




