4話 鎮まれ私の力!
残酷な描写の注意を入れました。
龍の加護を受けた種族、龍人族。
単に龍といっても、様々な種類がある。
戦闘能力に優れた、炎龍。
高い飛行能力を持つ、風龍。
陸海で活動できる、水龍。
他にもあるが、どれも並みの人では狩れないような代物だ。
私もそんな能力を持っているが、わざわざ使うことはない。
今の冒険者生活では、必要無いからだ……多分。
「さーて、どのクエストにするかな」
ある日、ギルドの掲示板を見つつそう呟いた。
いくら森暮らしとはいえ、働かなくてもいいわけではない。それに職業熟練度も上げたいし。
あれからは戦い方にも気を付けている。おかげで熟練度も15になり、新しいスキル『観察』も手に入れた。
これは相手の動きを見ることで、そいつの状態を知れるスキルだ。地味に嬉しい。
熟練度50で上位職だが、段々近づいてきた。
今日も糧になりそうな手頃なのを探す。
「ゴブリンは弱すぎるか…コカトリス…はめんどい…お?ヘルウルフ?」
集団で行動する犬型モンスターか。状態異常系も無いしちょうどいいかな。
「よし、これにしよう。Cランクでもいけるよね」
迷ってたら取られるし、ちゃっちゃと決める。よーし、待ってろ犬ども、狩りつくしてやる。
クエストを受けた私は現在、森を入ってすぐのところにいる。
達成条件は10匹の討伐だが、大体それぐらいの数で行動しているらしい。
ちなみに出発の際にあるパーティーに誘われたが、断った。
できるだけソロで進めたいと思うのは、自分なりのこだわりだ。
いつかはミーア達と組んでみたいけど、あっちはB級、こっちはC級だ。低ランクと組んでも、あちらに得はないだろう。
考え事をしながら、ヘルウルフの群れを探す。
連中は群れでの狩りのほか、死体漁りなどをして生きているらしい。
が、群れどころか足跡も見つからない。
この森で暮らしているといえ、この辺りの地形は知らないしなぁ…。だって馬鹿みたいに広いんだもん、この森。前にちょっと奥まで探索したら、帰ってくるのに1日かかったし。
愚痴りながら捜索していると、突如犬っぽい鳴き声が聞こえた。
ヘルウルフのものだと思い、声がした方へと向かう。
しばらく進むと、黒い体に赤の目を持つ大柄な犬が数匹、茂みから飛び出してきた。
おお、こいつらが…
「って、おっと!」
いきなり噛みついてきた。そりゃそうか!
「まあそっちから来てくれる方がありがたいけどね!」
腰の短刀を引き抜き、犬に向けて構える。
4匹か……残りは隠れてるのか?
「バウ!」「バウウウア!」
吠えながら、2匹が飛びかかってくる。だが、遅い!
1匹目をひらりと躱し、2匹目は軌道上に置くように短刀を突き出して真っ二つにする。
返り血を浴びるが、もうそんなものには慣れた。
仲間がやられたことに反応し、残りの3匹が一瞬震えるが、続けざまにまた2匹が向かってくる。
さっきのように1匹ずつしとめようと思ったが、控えている残り1匹が気になった。
手助けするのか、仲間を呼ぶのか。どちらにせよ、行動のわからない相手に油断は出来ないか!
片腕を突き出し、わざとそこに噛みつかせて1ぴきの動きを封じる。手甲のおかげで、痛みは無い。
後に襲ってきた方は、短刀で頭を裂き即死させる。さて、もう1匹は…。
見ると、今にもこちらに飛びかかろうと身構えていた。読み通り!
私は死体となった方の犬を投げ、構えていた1ぴきにぶつけてひるませる。
噛みついていた奴も状況がわかり、腕から牙を放そうとするが、もう遅い。
そいつの首を切りつつ、残りの1匹を捉える。
自分だけになったことに怯えたようだが、なにかされる前に片を付ける。
「『ロックホーン』」
そう唱えると、地面が鋭く隆起し敵を貫いた。
うん、魔法は便利だ。使いすぎると熟練度が上がらないから控えているけど。
とりあえずこの場は片付けたが、群れの残りがいるはずだ。
不意を突かれないよう、『敵感知』を使い…って、ん?
感知には、ヘルウルフらしき物の他に、少し大型の生物が引っ掛かった。
何だろ、状況的にヘルウルフはそいつから逃げているのか?
警戒しつつ、その場に向かう。
というか最初から感知使えばよかった。こういう所が駄目なんだよなぁ…。
追っていく内に、生物の動きが止まった。
同時にヘルウルフの反応が消えたので、狩られたのだろう。
怖いなぁ。一体どんな生物、いやモンスターなんだ。
そこは、森の中の開けた場所だった。
ヘルウルフの死体が散乱する中、1匹の熊に似たモンスターが食事をしていた。
青みがかった体毛に、額に一本の角。見るからに獰猛そうなそのモンスターは、私を見ると食事を止め敵意をむけてくる。
え、何こいつ。どうみてもCランク冒険者が相手するやつじゃないんだけど。
しかし状況的に無視も出来そうにない。ほら、既に襲いかかって来てるし‥.おおっと!
咄嗟に短刀を投げ捨て、降り下ろしてきた熊の両腕を掴む。くそ、やるしかないか!
攻撃を止められたことに苛ついたのか、熊は唸り声を上げ腕を押し込んでくる。
こんなやつ相手では自重する必要も無い。私は押さえていた手を放し、横に転がって奴と距離をとる。熊はバランスを崩しながらも、すぐに立て直しこちらに向く。
牙を剥いて走ってくるが、むしろ狙い時だ。
「『クレイクラフト』」
「っ!?」
熊の足元の地面を操作し、足を取って転ばせる。
熊は勢いのまま無防備にこちらに突っ込んでくる。
「がら空きだ!」
迎え撃つために右腕を振りかぶる。
そして腕に力を込めていくと、私の右腕が茶色い甲皮に包まれていく。爪も鋭くなり、人の骨格でもなくなっていく。
そんな異形となった腕を、熊の顎にぶち当てる。
「そら!」
ゴキャッ!!という骨の砕ける音を感じながら、熊をアッパーカットでふっ飛ばす。
熊は仰向けに倒れ、まともに呼吸が出来ないのか、ヒュー、ヒューと唸っている。
モンスターといえど苦しむ姿を見るのは好きじゃないので、すぐに楽にしてやる。
「『ストーンプレス』」
岩石を熊に落とし、絶命させる。嫌な音がしたが、これで問題は無いだろう。
腕を元に戻しつつ、捨てた短刀を回収する。
これは私自身の牙を加工した物なので、あまり無くしたくはない。
それより、
「うん、部分的な変化はもう制御出来てるね。」
私は今の戦闘結果に満足していた。
力の制御も、様になってきたものだ。
地龍。
それが私の一族が持つ龍の力だ。
機動力、飛行能力は低いが防御力は高く、地上での戦いならどんな龍にも負けないと言われている。
足は太く、手は二足歩行が前提の5本指。図体がでかいから飛行能力のわりに大きい翼を持つ地龍は、地属性の魔法の扱いに長けている。
実際私も、地属性に関しては使えない魔法はないレベルだ。他はさっぱりだけど。
龍人族は他にも、さっきのように体を龍のものに出来る。
最初は苦労したが、今では手足のように扱える。
まぁ、こんな姿を見られたら正体即バレなので極力使わないが。
私がソロでやっている理由の一つでもある。
疑われたら、蜥蜴の獣人とでも言っておこう。
「さーて、帰るかなー」
呑気に構えながら帰路を目指そうとするが、
「あ、目標数倒してないじゃん」
熊のインパクトが強くて当初の目的を忘れていた。
まあいい、ヘルウルフぐらい楽勝楽勝‥.いや待て、
「さっきの群れ、全滅したよね‥.。え?また探さなきゃいけないの?」
この広い森で、また?
「‥.‥.‥.」
クエストを終える頃には、もう辺りは真っ暗だった。
翌日、珍しくギルドの掲示板に緊急クエストが貼ってあった。
「ああ、それ?何でも森にテラーベアが出たんだって」
ミーアが教えてくれたが、テラーベア?
「うん。青くて、角が生えてる熊。A級でも難しい危険モンスターだよ。森に出るなんて、怖いよね」
「そ、そうだね‥.」
このクエストは、今すぐ剥がしても問題無いぞ。
戦闘描写難しい‥.。
一旦説明回終了です。