40話 エルさん強いっすね
もう40話だというのに、話がまったく進んでない……
「ありました!これだけ見つけたら大丈夫ですね!」
何本目かの茸を採り、喜色満面のエル。
20本くらいあるけど、そんなにいらないだろ。いくつか違う茸混ざってるし。
「エルのクエストはこれで良しっと。あー、トレント見つかんねー」
擬態が得意なモンスターだが、感知のある私なら苦でもない。
単純に生息地がずれてるのか?
「おっ反応が……いや、小さいな。別のモンスターかぁ」
「何かいたんですか?」
採取を終え、エルが寄ってくる。
そうだ。目標の奴じゃないから、エルの腕試しに使おう。
「適当なのがいるから、やっちゃって。なるべく色んな方法でね」
「分かりました、ついに私の実力を見せる時が……!」
それは最初から知ってるんだがな。
少し移動した先に、小さい蟻型のモンスターの群れがいた。
「あれは……タイグンアリか」
「うええ、気持ち悪い……あれとやるんですかぁ?」
弱音吐くな、女だろ。
「あいつらは常に100匹以上で行動していて、数の暴力で獲物を仕留めるの。行進の妨げになるような物はたとえ生物だろうが建築物だろうが食い潰すから、一部じゃあ悪夢とか呼ばれて天災扱いされてるとか」
「滅茶苦茶やばいじゃないですか!見て見ぬふりしましょうよ!」
まぁ、気持ちは分かるが。小さいとはいえ、子どもなら乗れるぐらいの大きさはあるしな。
「危なくなったらサポートはするからさ。危険っつっても被害の話だし、戦闘ならまず負けないって」
所詮雑魚の群れだ。範囲魔法なら一撃で済む。
ま、目の前のをやったところで巣には数倍いるんだがな。
「うう……じゃあ行ってきまーす……」
乗り気じゃないようだが、虫嫌いなのか。
まだ武器は無いし、魔法かなー?
エルが群れに近づくと、蟻達は一斉に警戒し始める。
流石は龍人族、虫相手には即ばれか。
エルは意外にも落ち着いた様子で、魔力を練る。さて、お手並み拝見……。
「『ブラックゾーン』」
エルの目の前に、黒い球体が出現する。
んー?なんだろ、攻撃なのか、あれ?
続けて、エルは新たな魔法を唱えた。
「『ナイトメア・テンプテーション』」
黒い煙が、蟻の群れを覆っていく。あれ、状態異常系だな。間違いない。
確実に蟻を覆っている辺り、煙は操作できるのだろう。
「合わせ技みたいだけど、一体どんな効果が……?」
闇属性魔法なんて滅多に見ないし、何だか楽しみだ。さぞド派手な魔法が……
「……あれ?何も起きない」
蟻達は攻撃を受けているような素振りを見せず、エルの方に行進を始める。
ちょいちょい、何呑気にしてんだエル。このままじゃ見せられない光景になっちまうぞ?
と、行く末を見守っていると、蟻はエルには向かわず、黒い球体の方にどんどん入っていく。
あ、あれー?
「あ、キリルさん。もう終わりますよ」
何食わぬ顔で言うが、こっちは何も分かっちゃいないんだが。
「ねぇ、何あれ?黒いのに誘われてるように見えるけど」
「誘ってるんですよ。さっきの煙、催眠効果の魔法なんです」
催眠って、えげつねえな。絶対食らいたくないぞ。
「で、あの球体は中に入ったものを消すんです。蟻さんには球体に向かうように催眠をかけましたので、後は全滅するまで待てば終わりです」
「……」
さらっと言ってるが、かなりやばいぞ、これ。
いや、催眠も凄いけど、消すってなんだよ、消すって。
抵抗は出来るんだろうが、最大魔法でもなさそうだし、本気なら一瞬で蟻の群れを消せたんじゃないか?
これ、エルと戦ったらまじで負けるかもな。初戦でエルがこちらを殺す気だったら、私死んでたよね。
「で、どうです?私も結構やるでしょう?」
胸を張ってくるが、うん。予想以上です。
「やっぱり凄いんだなあ……」
「?」
これからは下手に怒らせられないな。
闇属性って、何でもありですよね




