35話 エル語り
説明回も兼ねてます
「それで、私はいつ外出許可を貰えるんですか?」
その日の夜、食事中にエルが尋ねる。
因みにメニューは焼いた肉だ。何でも焼けば食える程度にはなるからな。
「別に明日でもいいかな。急ぐこともないけど、エルの好きにしていいよ」
「では、明日で!」
顔を近づけて、元気よく答えてくる。そんなに楽しみなのか?
「今まで戦いの日々でしたからね。やっと手に入れた平和なんです。楽しみですよ!」
切実だなぁ。
「でもここにいるのは私の我が儘のせいだよ?それでいいの?」
「はい!むしろ強い人が一緒で心強いです!」
素直で宜しい。
「あ、そうだ。これは言っとかないと」
「?」
転生のこと、エルには知られてもいいかな。
「実はねー……」
「へー、キリルさん転生者だったんですか」
「反応軽いなー。てか知ってんだねそういうこと」
転生のことを話したが、エルのリアクションが思いの外薄かった。
口ぶりから、前知識はあるようだ。
「魔王軍にもいますからね。対勇者用の戦力だって、魔王様が率先して育ててるんです。皆変な能力持ってるんですよねー」
「ゆ、勇者用……?」
勇者を倒せるのは魔王だけのはずだが、転生者は例外なのか?
「待って、魔王じゃないと勇者の相手にならないよね?」
「んー、ちょっと語弊がありますね。殺すだけなら普通に出来るらしいですよ。色々あって生き返るってだけで」
運命力すげえ。魔王じゃなきゃ実質不死身かよ。
「転生者って人界にもいたんですねえ。女神の祝福だって言われてましたから、てっきり魔界限定なのかと」
「女神って……サリア様のことか。そういや両世界で信仰されてたな」
「え、そうなんですか?とんだビッチ女神ですねそれ」
「処女神だよ、サリア様。それ以上侮辱するなら本気で怒るよ」
「ひえっ……すみません、何でもするので許してください」
ちょっと睨んだら土下座を始めたが、この子メンタル大丈夫なんだろうか。自分の体大事にしろよ。
まあ今のはエルが悪い。あの天使……じゃない、女神様をビッチ呼ばわりとは、命が惜しくないと見える。
「何でもの件はいつか要求するとして、魔王軍ってどんな感じ?やっぱり厳しい?」
ここで情報を得とくか。関わる気は無いけど。
「厳しいってものじゃないですよ。ずっと勇者に負け越してるので、どんどんエスカレートしてるそうです」
負け越しって、スポーツ気分なのかよ。いや、本気で殺しにきてるのは知ってるけど。
「だから抜けられて幸せですよ。私に勝ってくれてありがとうございます、ほんと」
「ちったあプライド持ちなよ。悔しがれよ」
半殺しにしたのに感謝されるなんて初めてだ。
「じゃあ、もう寝ましょうか!平和な明日が待ってますよ!」
「はいはい。明日は冒険者登録だからね」
滅茶苦茶な奴だが、明るいのはいいことだ。
せめてこれからの日々を楽しめるようにはしてやらないとね。
自分の都合で留めているので、キリルはちょっと罪悪感あります。エルはまったく気にしてませんが。




