3話 裏路地の仲間たち
回想終了
後タイトル回収
「よっ‥.と、こんなもんかな」
剣に付いた血を拭い、登録証を確認する。
よし、目標数達成。帰るかな。
私は現在、クエストの最中だ。
内容は、ゴブリン5体の討伐。
クエストの達成状況は、登録証で確認できる。便利だ。
返り血も適当に拭いて町へと戻る。
今日も働いたなぁ。楽しいからいいけど。
冒険者になって3ヶ月。私は着々とクエストをこなしていた。
ランクは現在C中位。まだまだ下の方だが、私的にはこれでいい。目立ちたくないし。
ランクが上がったので職業を選択できたのだが、数ある中から私は暗殺者を選んだ。
暗殺者とは、普段は身を隠し、死角から敵の急所を狙う職だ。偵察も得意らしい。
これを選んだ理由は忍者っぽくてかっこいいというのもあるが、スキルが欲しかったからだ。
スキルとは、本人が持つ特殊な能力のことで、最初から持っている先天的なものと、魔法や修行によって得られる後天的なものがある。
欲しいスキルにあった職業を選べば、スキルのための修行にもなるので取得するチャンスになる。
実際職業によっては得られないスキルもあるらしいが、どういう仕組みなのか。
とにかく職選びは慎重に行う必要があるが、私は即決した。暗殺者なら私の求めるスキルが得られるのだ。
『敵感知』や『暗視』もいいが、一番いいのは『隠密』だ。
読んで字の如く、気配を消したりできるスキルだ。
目立ちたくない私としては、最優先で取るべきスキルだろう。
暗殺者は防御系のスキルを入手しにくいが、その辺りは素の能力でなんとかなる。回避系は取得できるし。
甘い考えだが、今のところ手こずった相手はいない。
私の冒険者生活に不安は無い‥.あれ以外は。
不安を感じながら、クエストの報告のためギルドに戻る。
そこには沢山の冒険者がいたが‥.
「ようキリルちゃん!クエストの帰りかい?」
「また一人で行ってたのかキリル君?誘ってくれれば僕も行ってあげたのに」
「あ、キリルちゃんお帰り!ねえねえどこいってたの?」
‥.そんな風に冒険者に絡まれた。
何故だか知らないが、初日から妙に話しかけられるのだ。
いや、理由は分かっている。私の容姿だ。
我ながら美人だとは思う。冒険者よりも貴族の方が似合うだろう。
胸は無いが、全体のスタイルはいいし。
親も美形だったが、血筋ってすごい。
とにかく、私は目を引くのだ。
町を歩けば8割の人は振り替える。
そして5割は話し掛けてくる。なんだこれ。
でも女の子はいい。私だって友達は欲しいし、実際何人か親しい人は出来た。
でも男は駄目だ。視線がキモい。
そりゃ下心の無い人はいるが、大抵は私の顔を見て寄ってくる。それが嫌だ。
前世でもあまり男と接してこなかったので、免疫が無いのかもしれない。
「あー、うん。ただいま」
いつも通りに軽くあしらいながら、クエストの清算をする。
報酬はまぁ、控えめだ。でも貴重なお金、何に使うか。
お金の使い道を考えていると、一人の女の子が話し掛けてくる。
「どう、キリルちゃん。ランク上がりそう?」
彼女の名前はミーア。猫系の獣人で、私の友人だ。
「うん、もうすぐ上位にはなるかな。まぁ急いでないし、それよりスキルの方が欲しいよ」
登録証を確認しつつ答える。
「そう?ランクが高い方がスキルも取得しやすいと思うけど」
「のんびりでいいんだよ、のんびりで」
なにせ寿命長いし。
「キリルちゃんって呑気だよね。職業熟練度も低いのに。というか何で低いの?」
「ああ、何で低いんだろうね?」
職業熟練度とは、その職業をどれ程やりこんだか表すものだ。
基準を満たせば上級職になれるほか、スキルの効果にも影響する。
さて、私の暗殺者の熟練度は‥.‥.
「8か」
「8!?」
ミーアが登録証を覗き込んでくる。うおっ、ケモミミが‥.!
「確かもう3ヶ月だよね!?なのにたった8!?」
ケモミミ‥.もふもふ‥.尻尾‥.
「‥.あれ、聞いてる?」
おっといかん、自制せねば。
「聞いてるよ。尻尾は駄目なんだよね」
「全然聞いてないよ‥.。それで、何でこんなに熟練度低いの?」
聞かれて答えを考える。なんだろう。
あ、そういえば前にこんなこと言われたな。
「暗殺者の動きじゃないから?」
「疑問系なんだ」
だって自覚無いし、人に言われたことだしね。
「そんなに変な戦い方してるの?」
「一応、隠密使いながらなんだけど」
あれでいいんじゃないのか?
「馬鹿ね、自覚もしてなかったの?」
二人して悩んでいると、エルフの女性が失礼なことを言ってくる。まぁ友人だけど。
「何?セレス、原因知ってるの?出来れば教えて欲しいんだけど」
そう言うと、セレスは深いため息を吐く。そんなにか。そんなに呆れるか。
「だって隠密使うのは敵を見つけるまでで、その後は突撃してるじゃない。あんなの狂戦士よ」
私はずっとソロなのに、いつ見てたんだ。
「だってその方が手っ取り早いし」
「その考え方が駄目なのよ!」
怒られた。
「まあまあ、キリルちゃんにはその方が合ってるのかもしれないし」
「じゃあ何で暗殺者なのよ!」
フォローを一蹴されたミーアが、困ったような顔をする。すまんな、私が不甲斐ないばかりに。
ていうか理由はあるぞ。
「スキル目当てだけど」
「そうは思えないのよ‥.」
セレスが頭を抱える。
あ、これはまずい。
「おっともうこんな時間か、そろそろ帰らないと。というわけで、二人ともまた明日!」
「あ、ちょっと!」
説教される前にそそくさと場を離れる。セレスの説教は長いからね。
明日、機嫌が直っていることを祈ろう。
ギルドを出た私は、途中で酒を購入し町の奥へと向かう。
この先にあるのは、浮浪者が住む裏路地だ。
どこの町にも有るらしく、ここも例外ではない。
一部の冒険者はここに住んでいるらしいが、治安も良くないので好んで来る人は余程の変わり者だ。
薄暗い路地を通り、裏路地に着く。
そして酒の入った袋を掲げ、声をあげる。
「おーい!お酒持ってきたよー!」
「「「おおーーー!」」」
私の声に応じて、沢山のホームレス達が顔を出す。
餌付けという言葉が浮かぶが、断じてそうではない。
広場では、皆が炊き込みをやっていた。ちょうどいい、混ぜてもらおう。
集団に近づくと、おっさん達が笑いかけてくる。
「何だキリルちゃん、また来たのか?」
「ええまあ。お酒持ってきたんで許してくださいよ」
「そりゃあ構わねえけど、お金はいいのかい?キリルちゃんだって裕福じゃあねえのに」
「別にいいですよ、一人で飲むよりはこっちの方がいいです」
「森で暮らしていたり、変な子だねぇ」
このホームレスたちと知り合ったのは、この町にきてすぐだ。
住みかを探して森の近くをうろうろしていたら数名のおっさんに会い、同じくホームレスだと言ったら変に深読みされたのか、やたら優しくされたのだ。
その後挨拶がてら裏路地に行き、何故か意気投合して一緒に酒を飲んだら、仲間認定されてしまった。
まあ同じホームレスなのは事実だし、いい人が多いのでそのまま交流を続けている。
一応この事は誰にも教えていない。貴族、平民問わず裏路地の評判は悪く、ここの人達も認めている。
人間中身だと思うのだが‥.いや、中身が駄目だからここにいるのか。
まあほんとにダメ人間だし、気にすることもないか。
「お~いキリルちゃん、君も飲もうよ~」
「今日は遠慮しときまーす」
明日はクエストに行く予定だ。二日酔いは避けたい。
しばらくすると、
「おう何だ、随分賑やかだな」
「あ、ジグさん」
声がした方を見ると、ここのリーダーであるジグさんがいた。
物乞いでもしてきたのか、手には幾つかの戦利品があった。
「なんだてめぇら、俺抜きで酒盛りか?」
ジグさんが冗談めかして笑う。
「大丈夫ですって、ジグさんのも残してますから!キリルちゃんが持ってきてくれたんですよ!」
「そうか‥.いつも悪いなキリル」
「いえ、私の勝手ですし。まあ飲んでくださいよ、私のおごりですから」
そう言って酒を渡す。こういう場では、遠慮なんか要らないのだ。
「ったく、変わったやつだよお前は」
「そのお陰で酒が飲めるんですから、いいじゃないですか」
結局私も飲んでしまい、朝には頭痛に悩まされることになった。
あと、セレスの機嫌は直ってなかった。ちくしょう。
主人公がポンコツ‥.
次回で説明回終了です(多分)