34話 仲間が増えたけども
間が空きましたが、新章です
朝。私は何時ものように起き、うんと背伸びをする。
痛みはあるが怪我も直ったし、また平穏な日常が送れるだろう。
……隣で黒髪の少女が寝ていること以外は。
「あー……夢じゃないのか」
ぼりぼりと頭を掻き、昨日のことを思い出す。
勇者の来襲、魔王軍との戦い。更には新しい龍人族との出会い……。
「怒涛の一日だったなあ。勘弁してほしいよ、まったく」
こちとら静かに生きたいのに、厄介事が次から次へとやってくる。
もしや私は歩くフラグなのだろうか。
「エル、起きな。朝ご飯にするよ」
黒髪の少女、エルを揺さぶって起こす。
私も朝は弱い方なのだが、龍人族は皆そうなのかもしれない。
「うう‥.‥.死にたくない……死にたくないよお……」
不穏な寝言を言っているが、どんな夢見てんだ。
「ほら、起きろって。情けない寝顔晒してるぞ」
数回呼び掛けて、ようやく目を開いた。
「全く、朝ぐらいしゃきっとしなよ」
「んん……?ここは……」
エルは眠そうに目を擦り、目の前の私を見る。そして……
「きゃあああああ!殺さないでぇぇぇぇ!」
「五月蝿い、朝から騒ぐなよ」
どうやら昨日の夢だったらしいな。
「ご馳走さまでしたー」
「ご、ご馳走さまでした」
食後、手を合わせお決まりの言葉を言う。こればっかりは日本にいた頃の習慣だね。
「すいません、朝から叫んで……」
「いいって別に。叫んだ原因私だし」
龍化の時にぼこぼこにしたからな。
エルも傷は直ってるようだが、全快ではないだろう。
「昨日の夢だよね?」
「うっ……そうです」
エルは申し訳なさそうに答えた。
あれはエルにとって生死の境目だっただろうし、無理ないと思うけど。
「ま、気にすんなって。それより今日何するか決めないと」
昨日何も言わずにいなくなったから、ミーア達に心配かけてるかもしれない。
エルの冒険者登録は後にして、まずは環境を整えないと。
「取り敢えず、まだ森から出ちゃ駄目だよ」
「え、そこまで制限するんですか?」
いや、自由にさせてあげたいけど……
「その服、魔王軍のマークがっつり入ってるじゃん。しかも血塗れ」
「あ、そうでした……。でも、キリルさんの服を借りるとかは?」
それは私も考えた。考えたけどな。
「一部分がきついと思うよ」
「あっ……」
身長は問題ない。でも重要なのはそこじゃないんだ。
「どうしてもってんなら裸マントだね」
「大人しくしときます!」
おう、そうしとけ。
「何か久しぶりって感じだなー」
冒険者ギルド前。
エルを森に置いてやって来たが、一人で大丈夫かな、あの子。
「勇者……いないよな?」
鉢合わせは絶対回避だ。
龍魔眼にはそれらしきものは映らないから、構えなくてもいいだろうが。
出来るだけ音を出さず、ドアを開ける。中はいつもより少し騒がしい程度だった。
流石に連日勇者を見に行くわけないか。
さ、我が友人はっと……。
「あーっ!キリルちゃん!」
一発で見つかった。何?そのセンサー。
「あんた、どこ行ってたのよ!探しに行くところだっのよ!?」
二人が詰め寄ってくるが、本気で心配かけてたらしい。悪いことしたな。
「ちょっと怪我してね。途中で抜けたんだよ」
嘘ではない。一応。
「あんたが怪我?信じられないわね」
何でだよ。私だって人間らしいところはあるんだぞ。
「まあ戦闘の時、味方の暗殺者が何人か居たから、その中に混じってたんだよね?」
「そりゃね。逃げたりなんてしないよ」
これも本当。
「ほんと、無事で良かったよ。相手があれだったし、万が一もあるからね」
「まああんたなら大丈夫よね。今も平気そうだし」
「怪我は本当だよ。ほとんど治ったけど」
心配してるのかしてないのかはっきりしてほしい。ミーアは疑ってないけどさ。セレスもたまにはデレてもいいのに。
「あ、勇者って何日居るの?」
「予定では5日らしいけど、早まりそうだって」
魔王軍のせいか。よくやった。
「暫く療養?」
「そうさせて貰うよ。忙しくなりそうだし」
「「?」」
エルがなぁ。あんだけびびってたら逃げたりしないよな?
「うぃーっす。ただいまー」
何年ぶりかのただいまに応じ、ログハウスからエルが出てくる。
「お帰りなさい。早かったですね?」
なんだこの新妻感。素でやってんのか?
「用事も済んだしね。ほら、適当な服買ってきたよ」
袋から安物の服を出す。
「わぁー、ありがとうございます。デザインは……普通ですね」
「無難のにしといたよ。お金無いからあんまり選べないし」
しばらく酒禁止かな、これは。
「あれ、サイズびったりですけど、よく分かりましたね」
「んー?ああ、寝てる間に測っといたよ」
私の言葉に、エルが固まる。しまった、濁すべきだったか。
「は、測ったって、脱がせたんですか!?」
「じゃないと意味無いでしょ。安心しなって、そこまで変なことしてないし」
「ちょっとはしたんですか!?何を、何を!?」
「さーて、狩りに行くかー。晩飯無いしなー」
「ちょっとぉぉ!話を聞いてください!」
新しい仲間は、大きかった。何がとは言わんが。
身長 キリル>エル です。
エルというとZZを思い出します。何ででしょうね。




