2話 ホームレス冒険者
しばらく説明回です。
冒険者。
異世界で定番のその職業は、当然この世界にもある。
よく言えば自由人、悪く言えばフリーター。
危険も多く、収入も安定しない職ではあるが、冒険者を目指す人は多い。
身分の証明、ギルドからの援助などの理由もあるが、何より心引かれるのはその冒険譚だろう。
高名な冒険者は英雄視され、他の冒険者にとって
の憧れになる。そんな存在は一握りだが、それでも人を惹き付ける。
かくいう私も、16で親元を離れ、冒険者をやっている。別に英雄になりたいわけではない。
私が冒険者になろうと思ったのは、5歳のことだ。
自分の寿命が長すぎることを知った私は、この世界での生き方について悩んだ。
当初は普通に人間らしく生きようとおもっていたが、種族的に表に出れない(龍人族は既に昔のこと扱い)し、周りは森しかないし。
途中で死んだら、また記憶そのままで転生することになるだろう。女神様は、後悔があるから問題なんだと言っていた。つまり、楽しんで人生を過ごせばいいはずだ。
ならば何をするか。まず勇者と魔王の事が浮かんだが、そんな危険に身を投じる気はない。
そこで、話に聞いた冒険者になることを思い付いたのだ。
前世では人並みに漫画やラノベを読んだ身、そういった事に憧れはある。何より楽しそうだし。
早速親に相談したら、母は許可してくれたが、父は難しいと答えた。
曰く、龍人族が派手に活動すると、人間社会に大きな影響を与えると。
当然だとは思う。私でさえ自分がどれほど強いのか把握できてないし。
だが、ここで引き下がるわけにはいかない。
このままじゃ一生ご隠居だ。
私はよく考えて行動する、迷惑はかけないと必死に説得し、力を制御出来たら許可するとの言質をとった。
それからは母に常識を、父に力の使い方と戦いかたを教えて貰いながらの日々を過ごし、晴れて16歳で外に出る許しがでた。
長く苦しい修行だった‥.。父さんやけに力んでたし。
とにかくこれで外へ行ける。住んでいた山を出た私は、取り敢えず近場で一番活気のある町を目指した。それがここ、港町カイト。
町には人が沢山いた。ずっと山暮らしだった私は、それを見て少なからず感動を覚えた。
だって明らかに日本、いや地球じゃないもの!
角がある人、耳が長い人、そしてケモミミ!
異世界って素晴らしい、日常が感動だ。
後、食べ物もおいしかった。文句なしだ。
しかし本題はこれじゃない、ギルドだよギルド。
私は近くの人に場所を聞き、ギルドを目指した。
ギルドの内装は‥.うん、予想通り。冒険者らしき人がちらほらいる。何だか視線を感じるが、そんなことより登録だ。
受付のお姉さんに尋ねると、
「冒険者登録ですね。それではこちらの書類に必要事項を記入の後、血印をお願いします」
言われた通り、渡された紙に素性を書く。
といっても、偽名でもよく、後は年齢と性別くらいだ。種族も必要無い。
差別や偏見を防ぐためらしいが、異世界でもそんな認識があるとは。
当然種族は伏せ、名前もキリル、とだけ書き、血印を押す。ちょっと痛い。
そんな信憑性皆無の紙をお姉さんに渡す。
「はい、承りました。それでは登録証を作成いたしますので少々お待ちください」
そう言って奥へと引っ込んでいった。あれでいいのか。
待つこと数分、完成したようでお姉さんが出てきた。
「お待たせしました。こちらがあなたの冒険者登録証になります」
おお…これで私も冒険者かぁ…。
受け取ったカードを眺める。
キリル、16歳、女、職業は冒険者…あ、そういえば。
「あの、職業ってどうやって変えるんですか?」
冒険者はあくまでデフォルトで、変更できるはずなのだが。
「すいません、職業の変更はCランクからなんです」
「ランク?」
聞けば、冒険者にはDからSまでのランクがあるらしい。
しかも同じランクでも下位、中位、上位と分けられているとか。
何それ聞いてない、聞いてないよお母さん。
「あ、安心してください。Cランクへはすぐに上がれますから」
呆然とする私にお姉さんがフォローしてくれるが、私が気にしているのはそんな事じゃない。
ランクがあるということは、それがその人の実力だということ。つまり
(私が強いってこと、ばれちゃうじゃん!)
私の能力ならば、Sランクまで上がるのは簡単だろう。でもそうじゃない、私はヒーローになりに来たわけではない。人生を楽しむためにここにきたのだ。
普段は悠々自適に暮らし、暇になったらギルドに行ってクエストを受ける、そんな生活をしに。
それが強くなってみろ、あっちこっちに引っ張りだこにされ、自分の時間なんか無くなる奴隷生活だ。
それ何てブラック?
「あの、キリルさん、どうかされました?」
お姉さんの言葉で現実に戻る。
「いえ何でも。これから頑張ります」
そう告げ、ギルドをあとにした。
町を歩きつつ、考える。
「うーん、目立つのは避けないとなぁ……」
父さんとの約束。
目立たない、暴れない、馬鹿なことしない。
ちょっと心配しすぎだと思うが、概ね同意見だ。
私の穏やかな人生プランを崩すわけにはいかない。
「まぁ本気出さなきゃ大丈夫か」
クエストを受けるのはほどほどにしよう。
「とりあえず、寝床を探すか」
できればそのまま拠点にできるところがいいな。
お金がかからず、人に迷惑をかけず、食料もあるところとなると………。
「森かな」
こうなるかな。
だって今まで山育ちだったし、自分でモンスター狩れるし何も問題ないね。
というわけでカイトの町の隣にある森に住むことにした。
「あー、落ち着く」
手頃な木の上に寝転がりながら、あくびをする。
前途多難だが、何とかなるだろう。
冒険者となった自分の未来を色々と想像しながら、私は眠りについた。
明日から何をしようかな。
まだまだ続くよ説明回。