26話 やっぱりね
思ったより長くなりました
次の日。
ここカイトの町は、勇者が訪れたことで盛り上がっていた。
もうね、お祭り騒ぎですよ。
勇者を一目見ようと冒険者達が出ていってしまって、ギルド内もすかすかだし。
勇者一行は今朝町に到着し、観光をしているらしい。修行の旅じゃなかったのかよ‥.‥.。
まぁあの勇者の性格上、町の空気に流されて仕方なくやっていそうだが。
ほんとはあんまり騒いで欲しくないんじゃないか?
「キリルちゃーん。勇者さん見に行かないの?」
こういうことが好きそうなミーアに誘われるが、生憎私は会話もしたのだ。わざわざ行く気もない。
「どうだった?勇者。何人パーティーだった?」
「三人だったかな。勇者さんは町長に案内されてて、手を振ってる人に笑顔で振り返してたよ」
愛想いいなあ。
「今どの辺にいると思う?」
「んー、商業区の方かな?今日は一日視察らしいし‥.‥.あ、やっぱり興味ある?」
「興味はあるよ。好意はないけど」
嫌いなわけじゃないんだけどね。
「おー、いたいた。凄い囲まれてるなあ」
ミーアの言った通り、勇者は商業区にいた。
周りに人が沢山いるから、見つけるのは簡単だったな。
顔を見られては不味いので、少し離れた建物の上から観察する。
町長から色々と説明を受けているが、貴族でも相手にするような雰囲気だな。
いや、貴族ならあんなに人が集まらないか。
勇者のシーザーと、クレリックのティアラ。そしてランサーのアーシアと、パーティーは一昨日と同じだ。
魔王討伐には心もとない人数だなあ。
というか何で勇者は少人数で挑もうとするんだ。魔王側は数に物を言わせてるってのに、人間は勇者に頼りすぎだろ。
とにかく確認はできた。見つからないよう、適当な場所にでも行っとくかな。
「と言うわけで、匿ってください」
「別に狙われているわけではないのでは‥.‥.」
安全そうな教会に避難してきた。
女神様の近くに居れば、多少の不運は防げるかもしれない。
「ここもすっからかんですねぇ。皆ミーハーなんでしょうか」
「教会は普段から人が少ないのですが。まあ勇者ですからね。人々にとっては英雄ですよ?」
「まだ何もしてないのに?」
絶対勝てるって決まってないのに、楽観的過ぎるだろ。
「しかし、避難なら裏路地に行けばよいのでは?あそこは町長も案内しないでしょう」
「いやー、勇者なら首突っ込んできそうなんですよ。慈善事業好きそうですし」
あそこには子どももいるし、仮にも勇者がホームレスを差別しないだろう。
しかも町長も気にしてないからね。見た目に違わぬ紳士だし、下手すりゃ裏路地まで行くだろう。
「何か暇ですし、勇者のこと教えてくださいよ。ついでに仲間の二人のことも」
「いいですけど、秘密ですよ?」
おっ、言ってみるもんだな。
「まず勇者ですが、彼は平民です。ある日勇者の力に目覚めたことにより、国の兵によって王都に連行。ある程度の戦闘訓練を受け、旅に出されたのです」
「へー、無理矢理ですか。家族も一緒に?」
「いえ、彼に家族はいません。村の人達により育てられ、その人達皆が家族と言ったところです」
ちょっと重たいな。
「国はどうやって見つけたんです?女神様が教えたわけじゃないですよね?」
「はい。国に熟練の占い師が居まして、その方が勇者の誕生を予言し、国王は予言通りに兵を向かわせたんです」
なんて占い師だ。生まれる前から勇者を見つけたのかよ。
てか、肝心の勇者の意思はどうなんだ。拉致じゃないのかこれ?
そう聞くと、
「一応、自分の意思で行きましたよ。村にも、訓練中に何度か帰省してます」
結構ホワイトだった。
いや、こういうパターンだと、国王が悪人とかだったりするからね。まだ確定じゃないけど。
「んじゃ、仲間の方は?ハーフエルフとか、好んで仲間にする人はいないでしょう」
「彼女は迫害されていたところを、勇者に助けられたんです。その後行き場所も無いから、折角にと」
さっすが勇者、良いことするじゃないか。
これはあのアーシアとやら、勇者に惚れてるな。
「じゃあもう一人は何なんですか?あれ絶対人間じゃないですよね」
「ティアラさんは、精霊です。しかも格の高い。旅を始められてすぐに出会いました」
精霊?んなもん本当にいたのか。
なんかラスボスを倒すために死にそうなポジションだな。
「濃いですね。まだ増えるんですか?」
「運命に関することは教えられませんが、少なくとものこの人数では厳しいですね」
増えんのか。それ私じゃないよな?
「‥.‥.ちなみに魔王はどうなってます?」
「それは絶対教えませんよ。人界の人には。」
くっそ、駄目か。
「しかし怯えすぎでしょう。確かに勇者の運命は強く、他人の人生をも変えてしまうほどですけど」
「え、やっぱりそんなレベルなんですか。じゃあこの町やばいんじゃ?」
一級フラグ建築士が来てるなんて、ろくなことにならなそうな。
女神様が言うんじゃ、洒落にならないぞ。
「‥.‥.まあ、今に分かりますよ」
「何ですかその含みのある言い方!お布施しますからもっと教えて‥.‥.」
女神様に詰め寄ったその時、町の警報がなった。
『敵襲!敵襲です!森に魔王軍がいるのが確認されました!冒険者の皆様は至急戦闘準備を!』
‥.‥.‥.‥.。
「ね?」
「くそったれええええ!!」
女神様は便利ですね




