20話 療養中の町巡り 3
町の端にある、サリア教の教会。
感知しても反応が無く、中には誰もいない。
私はドアの前に立ち、
「へーい女神様ー!遊びに来ましたよー!」
勢いよくドアを開け放って、中に向かって呼び掛ける。
すると誰もいなかったはずの教会に、一人の少女がこちらに呆れ顔を向けて立っていた。
「キリルさん‥.場所を選んでください‥.」
細かいこと気にするなよ女神様。
「と言うわけで観光してるんですよ、最近暇が無かったもんで。‥.あ、お茶とかないんですか?」
「い、今出しますね‥.‥.本当、遠慮のない人ですね‥.」
そうぶつくさ言いながら、女神様は紅茶を淹れてくれた。
女神の淹れた紅茶かあ‥.ご利益ありそう。
「しっかし、町は平和ですね。ここは魔界からも遠いとはいえ、呑気にしすぎな気ぃしません?
あ、お菓子あります?」
「ありますけど‥.‥.」
女神様は棚からお菓子を取り出す。それ教会の物っぽいけど、いいんだろうか。
持ってきてくれたお菓子を食べつつ、女神様を観察する。
清楚な印象を与える、白い修道服。
長い金髪と、髪に合わせた色の目はこの世のものとは思えない美しさだ。
「‥.‥.‥.‥.」
美しいのだが‥.
「あの、どうしました?先ほどからずっと固まっていますが‥.‥.」
見た目が幼いから、どうも愛らしさの方が勝るんだよなあ‥.‥.。
取り敢えず、頭でも撫でておくか。
「何でもないですよ。女神様今日も可愛いですね」
「誤魔化されませんからね?あと、何自然に膝に乗せて撫でてるんですか。私はマスコットでは無いんですよ?」
その反応は益々ロリッぽいぞ女神様。
「前から聞きたかったんですけど、その姿って擬態とか何ですか?死んだ時はひたすら白かったですよね」
「あれは精神世界だったので‥.あと、擬態というわけではないですよ。受肉したらこの姿になってしまうのです‥.‥.もっと威厳のある見た目が良かったんですけど」
そう言って女神様はしゅんと項垂れる。その仕草に保護欲を掻き立てられるが、理性を保つのがつらい。
「大丈夫ですよ、むしろこっちの方が信仰心が深まりそうです。というか私も入信したいくらいです」
「邪な感情しか無いじゃないですか‥.そろそろ放してください、何だか身に危険が及びそうなので」
ちっ、仕方無い。
このままだと天罰が下りそうだし、名残惜しいが放すか。
解放すると、女神様は自分の席に戻る。ああ‥.‥.。
「ふう‥.あなたはいつも自由ですね。他の転生者は、もう少し行動的なんですが」
そんなこと言われてもなあ。
「力を手に入れたら、人間自由になりますよ。私もやりたいことをやってるだけですし」
変に野望なんか持ったところで、他にも力を持った奴等がいるんだから、どうせ上手くいかないだろう。
「もう少し落ち着いた世界だったら、転生者に力を与える必要も無かったのですけど‥.‥.」
女神様が申し訳なさそうに言うが、最初から不干渉だったなら女神様の責任では無いじゃないか。
「騒がしくていい世界じゃないですか。現代日本にいた身としては、そこら中がロマンと非現実に溢れていて楽しいですよ」
折角の異世界なんだから、多少は危険でも丁度いいのだ。
「あはは‥.呑気な方ですね、あなたは」
「よく言われますね」
笑う程だろうか。
「それでも、不安などがあったら言ってくださいね?力になりますから」
「じゃあもうちょっと触ってもいいですか」
「だ、駄目です!少しは節操を持ってください!」
教会を出て、真っ直ぐ宿へと帰る。
結局あんまり回れなかったけど、町の大体の雰囲気は掴めたな。
この町を守っていると考えたら、以前よりやる気が出てくる。ここは、私の第二の故郷だからね。
宿に帰ったら、既に戻っていた二人に問いただされた。別に変なとこは行ってないって。過保護だなあ。
町巡りはこれで終わりです。
ほのぼのは大事ですね。




