1話 転生と贈り物
本編です。説明回です。
異世界、フロリア。
私が転生したこの異世界には2つの世界がある。
1つは人界。
人族が暮らす、地球に似た環境の世界。
もう1つが魔界。
魔族が住み、人族にとっては未知の世界。
両者の世界は繋がっているが、普段は相容れない。
何故なら、2つの世界は争っているからだ。
どうしてそうなったのかは知らないが、何百年前には既にそうなっていたらしい。
そして、それぞれの世界には代表と言える存在がいる。
人族からは勇者、魔族からは魔王。
彼らは代替わりを繰り返し、長い間戦っている。
それは今も続き、近々魔王が復活するとか。
母からそんな話を聞かされたとき、私はげんなりした。せっかく転生したのに、そんな危ないヤツがいるのか、と。でも不安になっていたら、母が頭を撫でてくれた。
「大丈夫よ。貴女は強いから」
そう言った母は、優しく笑った。まだ子どもだった私には、その笑顔だけで安心できた。
物騒な世界だと思うが、少なくともここが、これから私が生きる世界なんだ。
[キリル・ドラガリア]
これが新しい私を表す名前だ。
前世の記憶がもどったのは、生後半年ぐらいのとき。気づいたら赤ん坊になっているのだから、最初はパニックになってしまった。
だっていきなりすぎだろう。女神様も、心の準備ぐらいさせてくれてもよかったのに。
唯、たとえ前世の記憶があろうと、目の前にいた人達を親だと認識出来た。思考も幼児退行していたのか、私はすぐに泣き止み、親である二人の顔を見た。何はともあれ、転生は成功したのだ。
後はこの人生を大往生するだけだ。天寿の条件が未だにわからないが、寿命間近までいきれば良いだろう。
しかしそんな私の楽観的な考えは、3歳で覆されることになる。
ある日目が覚めると、やけにお尻が重いと感じた。
何だろうと顔を向けると、そこには尻尾があった。
太く、トカゲのような尻尾だ。
驚愕しながら視線を下げていくと、それは間違いなく私の体から生えていた。
「お、お母さーーーん!」
たまらず母に助けを求めた。
「どうしたの?大声出して‥.ってあらまぁ」
娘から尻尾が生えているのに、なんだその呑気なリアクションは。
「もう生えたのね。キリルは成長が早いわねぇ」
せ、成長‥.‥.?なに、これが生えるのは必然なの!?
未だ自分に起こったことが理解出来ないが、とにかくこの人なら答えをしっている!
「お母さん、これなに!?急に生えたんだけど!」
怒気を孕んだ口調で問いかける。
しかし我が母は気にもせず、
「ちょっとあなた!キリルに尻尾が生えたわよ!」
「何!もうそんな時期か!?」
父が慌てた様子で向かってくる。取り敢えず当事者を放置しないでもらえるかなぁ‥.‥.。
「そうか3歳でか‥.流石は俺の娘だ。」
「ええ、なんたって貴方の子ですもの。」
私をだしにいちゃつく夫婦。ここで私が怒っても、誰も文句なんか言わないよね!
「とにかく説明してよ!二人の仲がいいのはわかったから!」
「あぁ、すまんすまん。まぁ混乱するのも無理はない。俺たちのも見たことがなかったんだったな」
「貴方がもし怖がられたらってうじうじしてるから」
「しょうがないだろ!一人娘だぞ!」
また夫婦漫才を始めた。これ以上は訴訟も辞さないぞこら。
「そ、そんな目で見るなキリル。お父さんだって考えがあったんだぞ」
ならばさっさと聞かせてほしい。父ではだめだな、母に聞こう。
「お母さん、説明お願い」
「そうねぇ何から話そうかしら‥.キリルはモンスターについては知ってるわよね?」
「うん」
何度か母さんに教えられたしね。どいつもこいつもふざけた生態だった。
「そこに、ドラゴンっていうのがいたでしょう?」
「ドラゴン‥.」
確か生態系の頂点で、腕利きの戦士でも容易には狩れないというやばいモンスターだったかな。
戦えば死、逃げるのも困難だとか。
RPG等でも最後の方で戦うやつだ。
「そんなとっても強いドラゴンだけど、唯一ドラゴンに優位に立てる種族があるのよ」
何それすごい。真の生態系の頂点じゃないか。
「つまり、私達がその種族ってこと?」
「キリルは理解が早いわね。そう、それこそが私達の種族、龍人族よ。」
「龍人族?」
語感だけで強そうだ。と、ここで黙っていた父さんが口を開いた。
「龍人族というのは、遥か昔、龍の加護を受けた者の子孫のことだ。」
龍の加護ねぇ。先祖はどんなことをしたんだか。
「加護を受けたものは、人の身でありながら龍の力を使えるようになった。先人達はその力で様々な偉業を残して、人々へと貢献してきた。」
へー、私の先祖ってすごい人なのか。
「ここまでは歴史の話だ。そしてここからが、俺たちにも関係のあるところだ」
随分勿体振るなぁ、やっぱり父さんは回りくどい。
「加護を受けていようと、人間であることに変わりはないから、当然子孫を残す必要がある。それで先人達が子どもをつくったんだがな‥.なんとその子どもは、最初から龍の力を持っていたんだ」
ほう?
「どうやらその加護っていうのは、一族にずっとかけられるものだったってわけ」
父さんの言葉に、母さんが続けた。なるほど、それはすごい。
しかし龍の加護とやらも太っ腹だなぁ。すごい昔の話だろうに、それが私の代まで続いてるのか。
「その力を持った種族が、俺たち龍人族だ。」
「じゃあこの尻尾は‥.」
「キリルの中の力も出てきたというわけね。安心しなさい、最初は安定しないのが普通だから」
「そうだ!むしろ3歳で目覚めるとは、滅多なことじゃないぞ!母さん、今日はお祝いだ!」
「はいはい」
テ、テンションたけぇ‥.‥.。
まぁ病気とかじゃなくてよかったか、しかし私は随分恵まれた種族なんだなぁ‥.‥.お?
そこまで考えてふと思った。もしかしてこれって‥.
「贈り‥.物‥.?」
女神様が言っていた、安全に異世界で過ごすための贈り物とは、この事じゃないか?
そう考えたら納得がいく。ドラゴンすらも凌ぐ、龍人族の力。異世界で生きるには、充分すぎる。数は少なそうだし、偶然そこに生まれるというのは出来すぎだろう。
となると、これが私の力かぁ。強そうだけどまさか種族そのものとは、というか今まで贈り物のこと忘れてた。
とにかくこれで、転生の際の決めごとは終わったかな。後はこの力で身を守って寿命まで生きるだけ‥.‥.
ん?何か引っ掛かるな。
少し不吉なことを、両親に聞いてみる。
「ねぇ、龍人族ってどのくらい生きるの?」
「お?そこに気づいたか。そりゃあ体の半分が龍みたいたものだから、軽く見積もって500年は生きるぞ。どうだ、すごいだろ!」
500?今500って言った?
え、じゃあ何、私そこまで生きなきゃいけないの?
前の人生の何倍?えーと、前が16歳だったから、大体300倍程度か。はっはっは、しかも軽く見積もってだからもっと生きるかもしんないのか。
はっはっは、笑うしかねぇ。もうこっちがメインじゃないか、死ぬ頃には当初の目的忘れてるよ絶対。
「なんてこった‥.‥.」
龍人族として覚醒したその日、私は転生することがどれだけ辛いのか、その身をもって思い知った。
ドラゴン娘っていいよね。
本作は大体こんなノリです。