番外編 猫娘の変わった友達
ミーア視点です。
キリルちゃんは変わり者だ。
いつも気怠げで、かといって人をおちょくる時は生き生きしている。何故か森に住んでるし、ランクを上げるのにも拘っていない。
でも優しい所もあり、クエストの時はこっちの無事をいつも気にしている。
色々秘密を抱えているようだけど、キリルちゃんは私の大切な友達だ。
最初に彼女を見たのは、ギルドでクエストを見ているときだった。
急にギルド内がざわついたので、何かと思って振り向いたらそこにはどこのお嬢様かと思える美少女がいた。
格好は冒険者のようだったが、気品溢れる佇まいで堂々としていて、少し威圧を感じた。
彼女は一通りギルドを見渡すと、受付に登録をしにいった。見た感じ人間だったけど、あの若さで、しかも一人で冒険者をやるなんて何か事情でもあるんだろうか。
この辺りは治安も良いし、わざわざ冒険者をやらなくても食い扶持は稼げるのに。
登録を終えた彼女は、クエストは見ずに直ぐギルドを出ていった。今日は様子見だったのだろうか。
彼女が去った後、ギルド内は騒然となった。特に男の人。受付の人に詳細を聞きに行っている人もいた。
女の人達も話題にしている。まあ私も、あんな美少女見たこと無いしなあ。気が強そうな子だったけど、同じギルドでやっていくなら仲良くしたい。
次の日、彼女がギルドに現れるとまた周りが騒がしくなった。皆気になっていたらしい。
彼女はそんな周りを気にせず、クエストを受けるつもりなのか掲示板を見に行った。パーティーメンバー募集の張り紙は無視したけど、一人でやるのだろうか。
すると、あるパーティーが彼女に声を掛けた。同じランクじゃないからクエストに誘っているわけではなく、単に好奇心かそれともナンパか。
そのパーティーは少し会話をしたら離れていった。嫌な顔はしてないし、挨拶程度だったのかな。
その後も彼女は色んな冒険者に話しかけられていたが、どれも長くは会話しなかった。
彼女がクエストに出掛けていった後に受付に名前を聞いたが、どうやらキリルと言うらしい。
他の冒険者に聞いても、名前以外のことは話さなかったとか。
もしかして、人と関わるのを避けるタイプなのか。
年も近そうだし、出来れば仲良くなりたいんだけど。
夕方、服を血に染めたキリルちゃんが帰ってきた。
Dランクは討伐クエストは受けれないはずだけど、クエスト外でモンスターでも狩ったのだろうか。見たところ武器は腰の短刀だけなのに、戦い慣れしているのかな?
キリルちゃんは報酬を受け取り、適当な座席に座って金勘定をし始める。
話し掛けるなら今だけど‥.昼の様子から、会話が続くか自信ないなあ。血まみれだからちょっと怖いし‥.。
ま、まあそんなに無愛想には見えないし、案外親しみやすいかもしれない。
「ね、ねえ。ちょっといいかな?」
「うん?‥.‥.!」
キリルちゃんはこっちを見ると、目を見開いて固まった。
え、何?何か気に障ったのかな‥.。
少し怯えながら次のリアクションを待っていると、キリルちゃんは震えながら立ち上がり口を開いた。
「ね‥.猫耳だ‥.!猫耳がこんな近くに‥.!」
「えっ?」
その後暫く耳を触らせてあげていると、いつの間にか私達は友達になっていた。
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「んっ‥.朝かあ‥.」
宿のベッドで、いつものように目覚める。昨日は激戦だったので、結構遅くまで寝てしまったようだ。
「うへへ‥.‥.むにゃ‥.‥.」
隣では、だらしなく涎を垂らしながらキリルちゃんが寝ている。
昨日、私とセレスちゃんから宿代をもらったキリルちゃんは、私の部屋で一緒に寝ることになった。曰く、相部屋だと多少は安くなるから、と。
セレスちゃんはこいつと同じ部屋なんて安心できない、って拒否していた。あそこまで言わなくても良かったのに。
「それにしても‥.キリルちゃん、朝は弱いのかな」
もういい時間なのに起きる気配は無い。寝顔も初めて見るけど、こんなに緩い顔なんて普段は見れないよ。
「よく寝るなあ‥.でもそろそろ起きなきゃ駄目だよ?」
何だか得した気分になりながら、起こそうと布団を剥がすと‥.
キリルちゃんから尻尾が生えていた。
「っ!?」
思わず叫びそうになるが、口を抑えて堪える。 え、何これ本物?
腰から生えているそれは、間違いなく本物だ。
普通の人間じゃないとは思ってたけど、なんだろうこれ。蜥蜴っぽいような、違うような。
「‥.まあ、考えても仕方無いかあ」
そっと布団をかけ直し、見なかったことにする。これはそっとしておいた方が良さそうだ。
「‥.ん?足が‥.ほんとに直ってる‥.」
食べられたはずの左足が、色は薄いけれど元に戻っている。
本人は大丈夫と言っていたけど、まさかこんな綺麗に直るとは。
昨日の戦いは私が原因だったし、そのせいでキリルちゃんが怪我をした時にはどうしようかと思った。
怪我については全く気にした様子を見せず、気遣ってくれているんだと感じたが、今思えばキリルちゃんのことだから本気だったんだろう。
友達のはずなのに、そんなことも忘れていたなあ‥.。勿論埋め合わせはするけども。
「うおお‥.眩しい‥.」
そうこうしている内に、キリルちゃんが起きてきた。まだ半目だから寝ぼけているみたい。
「あ、ミーアおはよう‥.」
寝ぼけ眼を擦りながら、顔を上げてくる。ほんとに朝に弱いんだ。
「うん、おはよう。私は顔洗ってくるね」
意識がはっきりしていない様子のキリルちゃんを残し、廊下に出る。
今のうちに尻尾を何とかしてくれてると嬉いんだけど。
「‥.ふふっ。キリルちゃんもああいうとこあるんだ」
友達の珍しい一面を見て、何だか可笑しくなる。
これから仲が深まれば、もっと色々な部分を見れるかな。
他人から見たキリルはこんな感じです。
嫌われてはいませんが、若干恐れられています。




