17話 海上の戦い
遅くなりました
長くなりました
地龍は龍種の中でも特に知能が高く、気性も穏やかな種族である。
機動力は低いが、そのぶん頑強で力も強い。
地味ではあるが安定しており、冒険者からはとにかく戦闘を避けるべき、と認識されている。つまり凄いモンスターなのだ。
だが‥.今私は、自分が地龍であることを激しく恨んでいる。まさか、泳げないなんて弱点があるとは今まで知らなかった。
昔から何となく水が苦手だったが、原因があったなんて‥.。両親も何も言わなかったのに。
(と、とにかく龍化を解いて浮上しないと)
手足を元に戻すと、体が楽になる。人の姿なら水中でも動けそうだ。
前世の知識に従って、泳いで水上を目指す。
(でもどうしよう。龍化が出来ないとなると、想定よりも苦しい戦いになるぞ)
いっそ二人にばれてもいいから最後はドラゴンパワーでなんとかなるっしょ、と甘い考えだったがそうもいかない。
魔法も制限されているし、これは本格的に不味い展開だ。逃げるのも難しいぞこれ。
「ぷっはぁ!」
何とか水面に辿り着き、顔を上げて酸素を取り入れる。呼吸に関しては余裕があったが、もう水中には行かない方がいいな。
「さて、二人は大丈夫かな」
私は失敗したが、持ちこたえてくれているだろうか。
海蛇が邪魔でよく見えないので、『龍魔眼』で見える魔力を頼りに二人を探す。これなら視界が少しはましになる。
ミーアは、未だに攻撃は受けていないのか消耗した様子は無く、海蛇の周りを走って注意を引き付けている。巨体なので小さいミーアは捉えにくいのだろう。
セレスは少し離れた場所で海に立っていた。たぶん水を固形に変化させる魔法を使っている。
たまに頭部が見えたときに魔法を放ち、少しずつダメージを与えているようだ。
魔法を受けた海蛇はセレスの方に向こうとするが、ミーアがスキルで自分に向き直させる。
今はいいが、二人が消耗すれば海蛇が自由に動き直ぐにやられてしまう。やはり私が早く倒さないといけないな。
しかし武器である短刀は持っていかれた。代わりは無く、身一つでやるしかない。水中では龍化は使えないから、頭部が海上に出たときを見計らって一撃を加えないと。
安易に龍の力に頼った私の責任だし、せめて二人は守らなきゃ。
「よっし、先ずは頭に辿り着こう」
なんにせよ、そこからだな。
海蛇に接近し、同じように体に取り付く。
攻撃はせず、このまま体を伝って頭まで行こう。海蛇の体は鱗があるので、少々掴みづらいが爪を出してしがみつく。一応刃物ならナイフがあるが、市販品なので強度に不安が‥.。
翼を出して飛ぶのもありだが、なるべく隠したい。また振り落とされたら使おう。
「取り敢えず、『グラヴィティ』っと‥.」
海蛇に重力を与え、姿勢を安定させる。これで多少は楽になるな。後は慎重に頭まで進むだけ。
「ミーアもいつまで持つか分かんないし、急がないと」
「よっ‥.と、やっとか‥.」
度々海中に引きずり込まれつつ、何とか首のあたりまでやってこれた。
額に拳をぶちこめば十分破壊できるだろう、もうちょっとだ。
「‥.ん?」
下を見ると、ミーアが水上を走っていた。しかし動きが悪くなっている、そろそろ限界か。
セレスの魔法も少なくなってきたし、もう時間は無い。さっさと決めて‥.!
「あっ!」
再び登ろうとした時、ミーアが波に飲まれてバランスを崩した。
さらに海蛇が動き、波を出してミーアを海へと沈める。
とうとう焦れったくなったか、こいつ!
こうなってはミーアの無事が優先だ。私は飛び出し、さらに重力を大きくして少しでも早く海中へと潜る。
海のなかは波のせいで荒れていた。
(ミーアは‥.いた!)
ミーアは波の衝撃を受けたのか、まともに動けないようだ。
勢いよく水を蹴り、ミーアの元へ泳ぐ。
すると、急に周りが暗くなった。
(‥.!?まさか!)
上には、口を開け今まさにこちらを喰わんとする海蛇がいた。
まずい、とにかくミーアだけでも‥.!
(手荒にいくよ、『ロックバレット』!)
岩の砲弾でミーアを海面へと吹き飛ばす。直撃だが、水中で威力は下がっている。打撲で済むだろう。
(‥.まあ、私は無理か。)
ミーアを見届けた後、視界全体が暗くなった。海蛇に喰われたと理解した途端、足に痛みが走り体が上へと持ち上げられていく。頭を水上に上げたのだろう。
海蛇の口の中は、海と変わらず水で満たされている。海水ごと食べるとは豪快な奴だ。
(って、痛み?)
左足に違和感を覚え、そちらを見てみると──
膝から先が無くなっていた。
(うーわ、やってくれたな)
こんな怪我久しぶりだ。これじゃあバランスが悪くなる。
口内とはいえ水中だし、殴ることも‥.
(いや、むしろ好都合か)
外で隙を伺うよりも、こうして直接体内にいってしまった方が有効かもしれない。
(足は‥.塞ぐか。『クレイクラフト』)
足の形を模して土で固める。応急措置はこれでよし。
水は体内へと流れていき、口内の水かさはどんどん減っていく。私は流されないよう、舌(?)に爪を食い込ませる。
水が膝下ぐらいになった位で、手足を龍化させ力を籠める。
外がどうなってるか分からないが、二人が無事なのを祈るしかない。今はこいつをぶん殴ることだけを考えて‥.!
「おっらあああ!」
真下に向かって拳を降り下ろす!
ドッパァァン!
拳が当たった箇所が弾けとび、私は海へと落ちる。どうやら下顎を壊したようだ。
海上に足場を生成し、着地する‥.が、左足が無いので転んでしまった。頭から落ちるよりはましだったが‥.
「痛てて‥.お?」
見上げると、海蛇に雷が落とされた。セレスがやってくれたのか。魔力が尽きたかと思ったが、止めように温存はしていたらしい。
海蛇は体を伸ばしたまま固まっていたが、やがてゆっくりと倒れていった。
倒れた衝撃で大波が発生し、思い切り水を被る。もう十分濡れてるからいいんだけども。
「おーい!キリルちゃーん!」
「お?」
足に回復魔法をかけていると、二人がやって来た。浮いているが、ミーアはセレスの魔法で運ばれているようだ。
「わああああ!大丈夫キリルちゃん!?ごめんね私の為に!」
「あんた何であいつの口からでてきたのよ!ちょっと遅かったらあんたまで巻き込んでたわよ!」
口々に言ってくるが、どうやら結構大変だったみたいだな。
「まあまあ、私は大丈夫だから。それより早く陸に帰ろうよ。セレス、私も頼める?」
「多分いけるけど‥.その足、大丈夫なの?」
「え!?あ、ほんとだ!キリルちゃん足が!私を助けた時!?ど、どうしよう!私のせいで‥.!」
そんなに慌てなくても。
「ほんとに大丈夫だって。これくらいなら治るし」
「‥.まあ、話は後ね。ほら、ミーアも落ち着きなさい。私の魔力も余裕無いんだから、悠長にはしてられないわよ」
「うう‥.わかった‥.‥.」
こうしてセレスの魔法で浮かせてもらい、私達三人は無事港に帰ることが出来た。
途中で魔力が切れて、数十メートルほど泳ぐはめになったが。
「すげえなあんたたち!あいつと戦って帰ってくるとはよお!」
港で漁師の人から激励される。この人も無事で良かった。
「金はギルドの方で受け取ってくれ。魚の方は、ほれこいつだ」
そう言って船から魚を持ってきてくれるが、正直クエストのことなんてすっかり忘れていた。
ミーアは笑顔で受け取っているが、少し辛そうだ。私の怪我のことなら、気にするなと何度も言ったんだけど。
「あー、疲れたわ。もうあんなの懲り懲りよ。次はどんな無茶も聞かないからね」
そんなことを言うが、セレスは何だかんだ付き合ってくれる。流石に今回は反省するが。
「魚は山分けするとして‥.報酬、どうする?キリルちゃんはあんまり動かない方が‥.‥.」
ミーアが気遣ってくれるが、今は甘えておこうか。
「んじゃ、私は先に帰らせてもらうよ。休みたくはあるしね」
別れを告げ、森に帰ろうとするが‥.‥.
「ちょっと待ちなさい。今日は町に泊まっていきなさいよ」
はあ?なにいってんの?
「重症なのは確かなんだから。宿代払ってあげるから、森で寝るとか危険なこと言わないで」
重症かあ。動きにくいのは本当だし、お金出してくれるんならそれでもいいかな。
「ん、分かった。二人と同じ宿だよね」
「聞き分けがいいのは助かるけど、あんただと不気味ね。」
何を言うか。
「キリルちゃん、困ったことがあったら私が力になるからね!」
ミーアもミーアで張り切ってるし、調子狂うなあ。
「はあ!?あんたお風呂入ったこと無いの!?」
「うん、いつも水浴び」
「今日は海水も浴びたし、お風呂じゃないと駄目だよ?折角綺麗な髪なのにかぴかぴになっちゃう」
「手入れしてないのにそれって‥.理不尽よ」
宿での二人は、いつも以上に騒がしかった。
「キリルちゃんの足、大丈夫かな」
「心配いらないでしょ。あの子自分じゃ隠せてると思ってるけど、明らかに普通の種族じゃないし」
「何なんだろうね。あの様子じゃちょっと聞きにくいし」
「ま、必要になったら自分から言ってくるわよ」
「そうかなあ」