11話 一人の終わり
朝、やけにギルド内が騒がしかった。
というか町全体が賑やかだったが、何か催しでもあるのか?
気になってセレスに尋ねると、
「あら、知らないの?何でも勇者が王都を出て、人界を旅するそうよ。」
勇者。ついに出てきたか、人界の主役。
「旅って、魔界に直接行かないの?」
「まだ魔王は復活してないしね。勇者もまだ未熟らしいし、修行としてだそうよ。」
あれ、魔王まだなのか。
「勇者ねぇ。それって何で決まるの?血筋とか、それとも強い奴を勇者としてるとか?」
「それは分からないのよね。王族とサリア教の上層部は、女神サリアの啓示だって言ってるけど」
嘘だな。女神様がこちらに加担してくるとは思えない。それに勇者とかは勝手に出てきたって言ってたし‥.うん?最初の勇者はどんな感じで誕生したんだろう。今度歴史でも調べるか。
「それでお祭りムードなのか。まだどうなるか分かんないのに呑気じゃない?」
「魔王による被害は出てないからね。おめでた気分でいられるのよ」
現実を見てないから気楽なのか。私も魔王については何も知らないけど。
「人界側にも希望が出てきたのよ。騒ぐなって方が無理ね。」
‥.ま、私にゃ関係無いか。
「あら?キリルさん、Bランクに上がれますね。」
「はい?」
クエストを受けるために登録証を渡した時、受付からそんなことを言われた。
聞き間違えじゃなければ、Bランクになれると言ったか?このお姉さん。
「あの、こないだC上位になったばかりなんですけど、手違いでは?」
「いえ、確かに十分なギルドポイントが貯まっていますよ。ええと、反骨竜の討伐‥.‥.反骨竜!?あのモンスターなら納得ですね‥.まさかCランクで倒せるなんて」
勝手に盛り上がらないでほしい‥.。
ギルドポイントって、職員しか確認できないから全く意識してなかったな。
というか、反骨竜?確かに倒したけど、クエストなんて受けてないぞ?
「覚えはありますけど、クエストじゃないですよ。ポイントなんて無いと思いますけど」
「反骨竜は性質上、不定期に発生する現象のような扱いのモンスターなんです。そのためクエストは発注されず、逆に討伐すればクエスト関係無く報酬が貰えるんです」
野良狩りが基本のモンスターって‥.面倒くさがるなよお偉いさん。
「個体差はありますがどれも強力な力を持っていて、最低でもAランク中位の難易度で報酬も高いです。パーティーでないと到底倒せないのですが‥.キリルさん、パーティー組まれたことないですよね?」
まずい、
「そんなことどうでもいいじゃないですか!Bランクでしたっけ?なりますなります、なので早くしてください!ほら、早く!」
「は、はぁ‥.‥.では登録証をお預かりしますね」
よし、誤魔化せた。実力がばれたら、芋づる式に種族までばれる恐れがあるからね。
おのれ反骨竜。こんなところで私を困らせるとは油断できない奴め。
ていうか、ランク上がったのか。
今日はミーアもセレスもギルドにいないしなぁ。ランクアップ祝いで奢って貰うこともできないな。
報告は明日にして、今日のところは適当なクエストでもこなすか。
結局ゴブリンを少し多めに狩り、早めに町へと帰った。
「目出てえことじゃねぇか。もっと素直に喜べよ
」
「んー、なんか棚ぼたな感じがして。ランク上がりたかった訳でもないですし」
夜、裏路地でジグさんと酒を酌み交わしながら今日のことを話す。
誰かに話したかった気分なので、こうして聞いてくれるのは有難い。
「目立ちたくねえのは分かるけどな、Bランクなんざ普通じゃねえか。むしろ待遇良くなっていいことづくめだぞ」
「そりゃ利点はありますよ。でもこのままずるずるとランクが上がりそうで‥.Sランクなんかになったら目も当てられませんよ。その時には色々ばれてそうで」
「あー‥.‥.おめぇはなぁ‥.‥.。正直何でまだばれてないのか不思議なんだが」
それは私の高い知性が成せる技だ。
このジグさんは私が龍人族であることを知っている。
というか一目でばれた。目を見れば分かるって、それで種族まで分かるもんなのか。
昔は冒険者をやっていたそうだが、何があってこんなところで浮浪者なんてやってるんだろう。
そんなに興味無いし、いい人のは知ってるから問いただす気は起きないけど。
「とにかく、今は喜んどけ。別にばれたところでどんな問題が起きるか考えてもいねぇんだろ?」
「そう言えば考えてなかったな‥.珍獣呼ばわりされて見せ物になるとは思いますけど」
「んな訳ねえだろ。精々国の決戦兵器として、外交と戦争に利用される程度だな」
冗談じゃないんだが。長い余生を国の為に使う気は更々ないぞ。
「ま、お前なら大丈夫だろ。ちゃっかりしてやがるしな」
あれ、そんなイメージなの?
「やだなぁ、私は素直で可愛くて、全然腹黒くない清純派美少女ですよ。いざとなったら、助けてくださいよ?きゃーって叫びますから」
「よく素面でそんなこと言えるな。」
ジグさんが苦笑する。うん、今のは自分でも無いわ。
「若いうちは楽しいことだけ考えろ。どうせ先は長いんだから、暗くなったって時間の無駄だ」
「えぇーっ、投げやり過ぎでしょう。そんなの年寄りの考えですよ」
「年寄りだから言えんだよ。若者が口答えすんじゃねえ」
大人ってよく分からないな。
その後、森に帰ってきた私は改めて考えを纏める。
ランクが上がったのはしょうがない。ちょっとペースが早いだけだ。最悪Sランクにならなきゃいい。
「楽しいことかぁ。確かに今は、まだ将来について考えるのは早すぎか」
楽しいことって、なんだろう。
待遇が良くなる?嘗められなくなる?
いや、そんなことより‥.
「そっか。同じランクだからミーア達と一緒にクエスト受けれるじゃん」
ランクが同じでなければ、パーティーは組めない。
つまり、これからは二人と共に戦える。
一緒にいたら、正体もばれそうだけど‥.
「‥.結構嬉しいな」
今は、これだけで十分か。
遅くなり、申し訳ございません。
せめて三日に一度は更新します。