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カニバリズム・カーニバル

 村に蔓延るゾンビ達を、ロナク教信者が迎え撃つ。

 自意識を持ったエリートゾンビや合成され奇怪な肉体を持つゾンビは難なく信者を食らっていくが、それ以外のゾンビは大した脅威にはなっていない。

 肉体も魔法も貧弱、相手をゾンビ化させることも出来ず鈍い動きで生者を貪る。所詮動く肉塊に過ぎないそれはどんどん数を減らしていく。


 だがそれでも、戦闘能力を持たない一般人には恐ろしい存在だ。


「ううっ……怖い、怖いよぉ……!」

 民家の隅で男の子が体を縮ませ怯えている。

 外のゾンビの様子を見ていた父親は怯える息子を抱き、安心させようと頭を撫でる。


「大丈夫だ、私達には神のご加護が付いている。お前に信仰心がある限り、ゾンビは家に入ってこれないさ」

「でも、出掛けてたお母さんはどうなるの? 外にいたら、あのモンスターに食べられちゃうよ!」

「母さんなら他の家に行っているだろうから、心配いらないさ。分かったら大人しくしていなさい」

 父親の言葉に従い、男の子は震えながらも外から見えないように身を隠す。


(……とは、言ったものの……)

 息子にかけた言葉とは裏腹に、父親は外を見て希望を捨てる。

 他の民家は殆ど崩れており、ゾンビが村人の死体に群がっている。

 この部屋は聖水で匂いを消しているので、鼻で感知されることは無い。

 格の低いゾンビは少しの障害物で生命力の探知も困難になるので家にいる限りある程度の身の安全は保証されている。

(だが、もっと強いゾンビが来たらどうする……。私の力ではどうしようもないぞ……! ああ、神よ!)

 絶望しながらも、神に祈らざるをえない。

 父親は、今さらながら無力な自分を呪った。


「あれ、何か動いたよ?」

「何っ?」

 息子が指差した先、壁に空いた小さな穴から丸い物……目玉が顔を出す。

「……目玉?」

 思わず見たままの感想を漏らす父親。

 人間の目にしては大きめな目玉は体全体を動かし、男の子と父親を見る。

 黒い触手を生やしもそもそと移動する目玉は、やがて男の子を無視して父親の方をじっと見る。


「よ、よく分からないが……この家に居て良いものではないっ!」

 父親は側に置いてあった鍬に手を伸ばす。

 その動きに反応したのか、目玉はノミのように跳ね父親に襲いかかる。

「おわっ!?」

 跳んだ目玉は体全体が横に割れ、一瞬で目から口へと変形する。

 そして驚く父親の喉元に鋭い牙を立て噛みついた。


「ぎゃあっ!」

「お父さんっ!」

 首から勢いよく血を吹き出した父親に男の子が駆け寄ろうとするが、父親は手で制す。

「こ、こいつに近付く、なっ!」

 首の咀嚼を続ける目玉だった物を父親は引き剥がし床に叩き付ける。

 そして今度こそ手にした鍬を何度も振り下ろした。

 鍬を振る度に肉が部屋中に弾け飛び、手応えが無くなったところで父親は振るのを止める。

 床や壁は肉片で汚れ、目玉の化け物は原形を残していなかった。

 飛び散った肉がピクピクと痙攣するが、再生する気配は無い。


「はあっ、はあっ……! うぐっ!」

 血を吐き、その場に崩れる父親に男の子が泣きながら声を掛ける。

「だ、大丈夫!? きゅ、救急箱は……!」

「それは、いい……! 傷は深くない……これくらいならすぐ止血でき……!?」

 息子を制する父親の言葉は、バリン! という音で遮られる。

 はっと音がした窓を見ると、一体のゾンビが窓を割り部屋に侵入してきている。

 そのゾンビは血色の良い肌をしており、整えられた装備を身に付けているなどとても死体には見えない。

 ゾンビの肩には黒い鳥が乗っているが、顔の大部分が目になっているなどこちらは気味の悪い外見をしている。


「マスター、生存者を発見しました。処分します」

「ああ、やれやれ。お前に任せる」

 ゾンビの問いに、黒い鳥が答える。

 鳥は嘴の中に人の口を持っており、声は中性的だが女性のものだ。


「あ……あ……」

 驚きと恐怖で動けない男の子を庇い、父親が前に出る。

「お前らっ、息子には手を出させ、がっ!」

「威勢がいいな、人間」

 両手を広げて立ち塞がる父親に、ゾンビが手にした槍を突き刺す。

「だが気合いだけでは物足りないな」


 そのまま槍を薙ぎ、父親は首を飛ばされ力なく床に倒れる。

 苦痛の表情のまま跳んだ首は、鳥が舌を伸ばして捕らえ捕食した。

 咀嚼を終えた鳥はゾンビの肩から降り、部屋に飛び散った目玉の肉片をつつく。

「目玉だけとはいえ私を潰すとは、根性のある奴だったなぁ。最後までこんな父親に守ってもらえるなんて、君は幸せ者だな」

 鳥が話し掛けるが、男の子は父親の死体を見たまま硬直して動かない。


「どうしたガキ。喋れない年じゃあないだろ」

「恐れながらマスター、急に色々なことが起こって混乱しているようです。まずはその姿をお止めになられては?」

「ん、言われてみればそうだな」

 ゾンビに言われるまま鳥は自らの肉体を変質させる。

 全身の肉が膨れ上がり、羽毛は肉片となって禿げ落ち体は人の皮へと変化していく。

 数秒もすれば、まるでマネキンのように顔の無い人型が出来上がった。


「さあ人になったぞ。これなら話しやすいだろ」

 喋る為に口が出来、他の顔のパーツもすぐに形成される。

 体には生物としてあるべき部位がついておらず、見た目からは性別が判別できない。

 顔は美少女といえる造形だが、不安定な体のせいで全体的にアンバランスに見えてしまっている。

 鳥から人になったキリルは空間魔法で収納していた黒の外套を取り出し、全裸の上にそれを羽織った。


「どうだ、完璧だろ?」

「いくつか部位が足りませんが……まぁいいでしょう。さあ、少年が待っていますよ」

「そうだったな。おいガキ、怪我とかあるか?」

 男の子を見下ろし、ぶっきらぼうに話し掛けるキリル。

 敵意は発していないが、男の子はただ震えるだけで答えない。

「どうした、お前は手を出されていないはずだろ。父親が死んだのがそんなにショックか?」

 横で倒れている首無し死体を見たキリルは、腕から管状の触手を出し死体に突き刺した。

「こいつが死んだのは愚かだったからだが……その子どもであるお前もそうだとは限らない」

 管を通して赤黒い液体が死体に注がれる。

 液体は血のように死体を巡り、青白い体に色を付けていく。

「殺されると思ってるなら安心しろ。私は可能性を秘めた子どもを殺しはしない。殺したくもないしな」

 死体から管を抜き、腕に戻すと同時に死体が痙攣し始めた。

「お前が父親のことで泣いてるってんなら、もう諦めろ。お前のこれからの人生は私達の手で一新するんだからな」

 そう言った後、「まあ割りきれないのはしょうがないよな」と薄く笑ったキリルは親指で死体を指差す。


「父親を思い通りに動かしてやるから、望むことをしろ。吹っ切った方が楽だぞ? 色々と」

 首無し死体は起き上がり、赤黒い体で立っていた。

 痛ましい傷を首に負っていながら、全身からは生きていた頃よりも力強いオーラを放っている。

「……あ……あ……」

 変わり果てた自身の父親に、男の子は掠れるような声しか出せない。

 そしてその姿から思い知る。今自分が置かれた状況を、目の前の脅威を。

 それが分かってから、男の子の行動は早かった。


「うっ、うわああああっ!!!」

 父親に背を向けて走り出し、もたつきながらもドアを開け外へと飛び出した。


「はっ、はっ、はっ……!」

 瓦礫に躓きそうになりながら、ひたすら家から離れる。

 だが荒れ果てた村の惨状が男の子の脆い精神を刺激し、次第にその足を遅らせる。

「生きてる人っ……誰か……!」

 必死で村の人を探していた時、男の子の耳に人の声が届いた。

 その声は言葉ではなく悲鳴だったが、恐怖で押し潰されそうな男の子は声の方へと走った。


「だ、誰かいるっ! だれ、か……」

 しかしその声の主がいる方向には、四本足の黒い異形の生物が佇んでいた。

「なに……あれ……」

 異形の生物に近付くにつれ、悲鳴が鮮明に聞こえてくる。

 悲鳴は、異形の生物の手から発せられていた。


「村の人達……あの黒いのに、捕まってる……!」

 人のような形の手で数人の村人を捕まえている異形は、赤い目で手元の人間を見つめる。

 そして獣じみた口から滴る唾液を人間に落とした。

「うわぁっ! 熱っ……!? ぎゃあああっ!」

 唾液に触れた肌はみるみる内に溶かされ、すぐに全身が液状へと変化した。

 その人だった液を、異形は大口を開けて飲み込んでいく。

 地面に落ちた液も舐め取った異形は、満足そうに目を細めた後歩を進めた。


「人を食べてる……! あ、あんなおっきいのが村を……!」

 いつの間にかその場にへたりこんでしまった男の子は、異形の恐怖に竦み上がる。

 もう村の人達は食べられてしまったのか。どこに行けば助かるのか。

 男の子の脳内を駆け巡る考えは、後ろから聞こえた声で掻き消えた。


「何で逃げるかなぁ。危害は加えないってのに」

「普通逃げますよマスター。もっと常人の感性を理解する努力をしてください」

 部下からのもっともな意見に眉を潜めたキリルは、男の子を掴み持ち上げる。

「ひっ……!」

「あー駄目だこりゃ、もう恐怖で一杯だ。やっちまえ」

「了解しました」

 もがく男の子に構いもせずエリートゾンビは手を男の子の口に当てる。

 そして手からガスが噴出され、男の子の意識を深く落とした。


「じゃあ他のガキ共々、そのガキよろしく。私は教会行って来るわー」

 男の子をエリートゾンビに渡したキリルは、マントを空間に仕舞い背から羽を生やす。

「こちらの人間は粗方狩り尽くしたそうです。次の指示はございますか?」

「他の村に行っといて。トルネとバッディの手助けでもして、やることなくなったら帰っていいよ」

「御意。全部下に伝えておきます」

 黒い翼を羽ばたかせ、キリルは改めて教会へと向かった。




 ■□■□■




 教会の中では、命からがらゾンビから逃げてきた村人達が身を寄せあっていた。

 上の者達は首の無い人の像、ロナク神像の前でこの事態への対処に頭を悩ませていた。


「さて……どうする? 他の村と連絡はとれんのか?」

「できたらやってるよ。というか、ここに立て籠っていたらいいんじゃないのか? ゾンビはまだ外にいるんだ。助けを待った方がいいだろ」

「この教会の守りがいつまでもつのか分からないんだぞ!? 結界の維持にだって魔力が必要なんだ、敵の詳細も分かってないのに悠長に待てる訳ないだろ!」


 大声で揉める彼らに、非戦闘員である村人は不安を募らせる。

 この教会には強力な結界が張られており、ロナク教信者以外の侵入を阻む。

 ゾンビも近くまで迫っているが、この結界を越えられず足踏みしている。

 教会の窓からは、何百というゾンビがこちらに押し寄せているのが見えていた。


「な、なぁ……俺達、どうなるんだろ? あのゾンビは何とかなるんだよな?」

「馬鹿なこと言ってんじゃねぇ! この教会はロナク神の加護を受けているんだ、あんな腐った奴らにどうにかできるわけねぇだろ!」

 弱音を吐いた男が、隣にいた男に胸ぐらを掴まれる。

 その怒声に怯えた子ども達が泣き出し、母親もその対応に追われる。

 そんな些細なことで全体に不穏な空気が広がり、誰もが不安を隠せなくなっていった。

 そんな混沌の中、一人の男が苦しみ始めた。


「うっ……!? ぐ、がはっ……!」

 男は血を吐き、喉を抑えてのたうち回る。

「なんだ、どうした!?」

 知人らしき人が駆け寄ろうとするが、危険だと思った周りの人が止める。

 そうしている内に、男は大量の血を吐いて倒れた。誰の目にも、死んでいるのは明らかだった。


 その様子を見ていた上の者達は、死体から離れるよう指示を出す。

「何なんだ一体……勝手に死にやがって、これじゃあ……」

 周りからは、ざわざわとどよめきが起こっている。


「何でこんなことに……」「結界は機能してるのか?」「こんなのどうすりゃいいんだよ……」「敵はゾンビだけじゃないの?」「皆殺されちまう……」


(くそ、どんどん空気が悪く……)

 不可思議な出来事に、混乱は更に加速する。

 この極限状態の中で、村人達が消耗していく中。


 ドン!ドン!ドン! と教会の扉が激しく叩かれた。


「…………!」

 突然のことに、村人達は声も無く驚く。

 扉を叩く音は次第に大きくなり、今にも扉を壊しそうな程激しくなっていく。

 そのことに、硬直していた村人達の中から遂に声が出る。


「に、逃げろーーー!!!」

 その言葉を皮切りに、一斉に全員が扉と反対側、ロナク神の像まで雪崩れ込む。

 押されて倒れる者や踏まれて怪我をする者もいたが、気にする者はおらず皆が神の像にすがり付く。


 鳴り響く扉に恐怖しながら、誰もが神に祈りを捧げる。

 結界を信じている者はもういない。無力な人々はただ神にすがり、自分の運命を神に託していた。

 これまでの信仰を信じて祈る人々を前に、ロナク神像は悠然と佇む。

 しかし扉の振動が伝わったのか、はたまた祈りの効果か。


「ん……? あっ! か、神が……」

「震えている……!?」

 ロナク神像はカタカタと土台ごと揺れ始めた。

 揺れはどんどん大きくなり、激しく鳴る扉の音にも負けない程になり。


「「「あ、ああっ!」」」

 遂には像にひびが入り───


「うっははははははーーー!!!」

 ロナク神像を粉々に砕き、中から拳を振り上げたキリルが飛び出してきた。


 マントを翻して華麗に着地したキリルは、呆然とする村人達を前に2本指を立て目の横でピースを作った。


「神に祈れば助かると思った? 残念!キリルちゃんでした! 楽しんでくれたようで何よりだよ、屑共!」

 挨拶がてらに名乗ったキリルは、空間から骨の大剣を取り出した。

「親切心から教えてやるが、貴様らテロリストは世界に必要無いので死んでもらう! あ、これお前らが殺される理由ね。これだけ分かれば死ぬ覚悟はできるだろ? じゃあ死ね!」

 大剣が振るわれ、範囲内にいた人間が弾け飛ぶ。同時に触手が飛び散った肉片を喰らう。

「味は……そこそこ? お前らもっと希望を持って生きろよ。肉の旨さは生きる意志に左右されるんだからさぁ」

 ぼやきながら、手近にいた人間を腕に開けた大口で飲み込むキリル。

 その所業を見て、村人達はまたもパニックになる。


「「「うわああああっ!!!」」」

「うっせーぞ雑魚共! 静かにしねぇと殺してやらねぇぞ!」

 逃げる村人達をときには大剣で砕き、かと思えば触手で絡めとり。

 方法は違えど、どちらも肉を食べていることに変わりはなかった。


「ぬううううううっ!」

「ん、おっと」

 派手な食事を続けていたキリルに、筋骨粒々の男が飛び掛かる。

 拳はかわされたが、衝撃で床は砕け周りの長椅子も原型なく破壊された。

「なんだ、活きのいいのがいるな。筋肉は嫌いじゃないぞ?」

「ぬかせ化け物!」

 筋肉男が正拳突きを放つと、凄まじい衝撃がキリルの左半身を襲った。

 左肩は抉り取られ、接続部を失った触手が床に落ち跳ね回る。


「ほーん、鍛えてるんだな」

「余裕ぶってんじゃねぇ! てめぇの触手なんざ全部吹き飛ばしてやる!」

「全部? 今全部と言ったか?」

 左腕を再生させたキリルは、筋肉男の言葉を反芻する。

「自信過剰も大概にしとけ。いつか身を滅ぼすぞ」

「るせぇっ!」

 筋肉男は触手を恐れもせず真正面から突っ込んでいく。

 その勢いに任せたまま、右の拳を思い切り振り抜いた。

「おぅるああっ!」

「忠告ぐらい聞け」

 その渾身の拳を、キリルはあっさりと片腕で止めた。


「っ!? こ、こんな」

「馬鹿なこと? ありえるんだなぁ、これが」

 止めた腕とは逆の腕で筋肉男にボディーを打ち込んだキリルは、よろめく彼を放り投げる。

「とっとと加工してやろう……『殺人奇術』!」

 刃物状にした触手で、筋肉男の四肢を切断したキリル。

 切断面からは血の一滴も漏れておらず、瑞々しく新鮮な状態を保っている。


「……! お、俺の手足がぁっ!?」

「元気なのはいいが、黙ってろ」

 続けざまに首をはね、筋肉男は首だけで地面に転がる。

 それでも死んでおらず、目は動くし言葉を発せられる。

「何だこれ、何だよぉ!」

「すぐに死ねるから安心しろ。痛み無く死ぬなんて、これ以上の幸せはないだろ?」

 切断した胴体と手足を空間に収納したキリルは、扉を必死に叩く村人達の方へ歩く。


「扉も窓も、私が封じたから空かないよ。大人しくしてれば悪いようにはしないから、な?」

 穏やかな口調ながらも、決して殺意を緩めないキリルを前に村人達は死を覚悟する。

 逆らったところでどうすることもできないことを悟った村人達は、絶望した表情で凍り付く。


「静かなのはいいことだ。まぁ賑やかなのも好きだけど、今はこっちが好きって言っとく。ではゴミ共、私から選択肢をくれてやる。有り難く思え、でないと殺す」

 キリルの言葉に、場が緊張する。

「お前達が選ぶのは、お前達自身の運命だ。今から3つの選択肢を言うから、好きなのを選べ。選べない奴は困ったちゃんだ」

 キリルは右手を上げ、指を一本立てる。


「まずは、この場で私に食われること。生きてても価値の無いお前らが、死ぬ時になって私の糧になれるというすごい名誉を貰える選択肢だ。私的にもオススメ」

 続いて指を2本立てる。


  「次はゾンビになって、私の配下になること。魂を残してやるかは私のさじ加減だが、朽ちるまで世界に奉仕できる素晴らしい選択肢だ。私的にもオススメ」

 最後に指を三本立てる。


「最後が生きたまま私に捕まり、保存食になること。長く生きれるしいい味を出せれば待遇のいい家畜ライフが堪能できる。出会いもあるし素敵な選択肢だ。私的にもオススメ」

 そこで立てた指を降ろし、キリルはパンと手を叩く。


「で、どれがいい?」


 村人達は、何も答えられない。

 一部何を言っているのか分からない部分もあったが、少なくともどれもろくなことにはならない。


「……早く決めないと、勝手に決めちゃうぞー。よし決めちゃおう。私のその時の気分で」

 そう言ってキリルは触手を振るい、数人をまとめて飲み込む。

「私は争いごととか嫌いだから、あんまり抵抗するなよ! でも生きる意志を失わない感じで、それでいて私を苛つかせないくらいの抵抗で! 今から私に食われるお前らにはそれを行う義務がある!」

 村人達は阿鼻叫喚になりながら教会中を逃げ回るが、無数の触手が全てを飲み込んでいく。

「逃げるのは構わん、死にたくないってことだからな! だが自殺は許さん、殺さずに地獄の苦しみを与えてやる! 分かったら腹ぁ括れぇ!」


 その後も、触手は振るわれ続け。

 村人達を食べ終える頃には、教会の内装は血で真っ赤に染まっていた。


「今回は中々食えたな。やっぱ好き勝手に人間食えるのはいいもんだ……ん」

 崩れた長椅子の中から、何人かのすすり泣く声がキリルの耳に届く。

 瓦礫をどかすと、子ども達が固まって震え上がっていた。

 勿論偶然ではなく、キリルが意図的に生かしたのだ。


「もう命の心配はないぞ。全員無事だよな?」

 キリルの言うとおり、教会にいた子ども達は全員生きている。目立った傷も無い。

「じゃあ行くか……あ、素直に着いてきはしないか。仕方無いな」

 怯えきった子ども達を催眠で眠らせ教会の外へと運んでいく。

 ゾンビは既にキリルが回収しており、外には村の残骸が広がるのみだ。


 懐から煙草を取り出したキリルは、すっかり暗くなった空を見ながら一息つく。

「結局沢山食えた以外は収穫無しか。なんかお土産とか持って帰りたいんだけどなー。流石に贅沢言い過ぎか」

 そうして一仕事終えたキリルが教会前で煙草を吸っていると、エリートゾンビ達とバッディ、トルネ、イスルギがやって来た。


「キルっちー終わったよー。途中でくれた援軍ありがとねー」

「余計な世話かけやがって。俺にはあんなの必要ねぇ」

「両極端な感想だな。まぁいいやイスルギ、帰りの手筈は整ってるな?」

「勿論です。今すぐにでもミヤビを呼べますが、どうしますか?」

 イスルギの問いに、キリルは首を捻る。


「お土産になるような物無い? 出来れば食べ物で」

「それでしたら、この辺りによく生えている果実があります。屋敷の近くでは採れないものですよ」

「いいなそれ。じゃあ私はそれ採ってくるから、各々自由にしとけ」

 イスルギから果実の情報を得たキリルは森に繰り出すことにした。


「ねぇキルっち、確保した子ども達が嵩張るんだけど」

「荷台に十分乗せれるだろ。間違っても捨てるなよ」

 この場にはキリルが保護した子ども達とは別に、トルネ達が保護した子ども達もいた。

 子どもは殺さない主義のキリル達にはこういうことはよく起きる。

 保護された子ども達は記憶、時には人格も抹消され新しい人生を歩むのだ。


「果実って何個集めるの?」

「屋敷の皆に配るから……結構採らなきゃな」

「えー! もう帰ろうよ~!」

「お土産渡すとポーヴァ達が喜ぶんだよ! おらバッディ、お前も手伝え!」

「ふざけんじゃねぇぞ! 誰がそんな、むごっ、離せっ!」


 騒ぎながら森に入る三人を、イスルギは無表情で見送った。


 その後果実を採りすぎて荷台が一杯になりミヤビへの負担が大きくなった為、果実の殆どはイスルギによって捨てられた。

 それでも屋敷の住人に行き渡る分は残っていたとか。



キリルの現在の能力解説(一部)


●不変

肉体再生のスキル。どれだけ体が無くなっても定められた形に戻る。

概念レベルでの再生の為、世界ごと消さないと無力化できない。魔力も再生する。


●変異

肉体を自由に変形させる。材質も変えられるが気体にはなれない。

ただし「不変」で元に戻るので長時間の変形は不可。


●闇の眷属

闇属性魔法が使用できる。


●統率 (ゾンビ)

ゾンビを作り、従える。野良ゾンビも支配できる。


●冒涜

見た者の正気を奪う(任意)。


他にも色んな趣味の悪い能力があるよ!

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