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100話 セーブ地点は存在しない

転生者の力は女神から授かったものなので、いかなる力を貰おうと転生者自身も微かに神性を持っています。つまり天の鎖で詰む。

「うーん、どうすっかなこいつ」

「よく真顔でそんなこと出来ますね……ミンチより酷いですよこれ」

 再生しようとするフェイダルを潰しているとエルにドン引きされた。

 だって時間を置けば再生するだもん、いくら潰してもキリがないったらありゃしない。


 フェイダルを無力化したあと、ドラゴンサインもとい共鳴でエルとラトニアを呼んだ。

 あんなに細切れにしたのにまだ生きてやがるもんだから、定期的にばらさないといけないのがめんどくさい。

 でも龍人族だもんなぁ。勝手に殺したらカロロにぶっ殺されそうだし、不幸中の幸いかもな。

 万が一殺したら不可抗力ってことで。


「……あの、ちょっとすいません……」

 私の作業を見ていたラトニアが、不調を訴えて草むらの陰に行ってしまった。

 砦の時に肉片ぐらい見たと思うんだが、これはちょっと毛色が違うからね。仕方ないか。

 さて、このままじゃいつ死ぬか分かんないし何か終わらせる方法を考えるか。

 確実に封印できて……あと持ち運べればいいな。荷物にならなきゃ最高だ。

 んー、私の手札は土、重力、植物……が主か。駄目だ思い付かん。


「……」

「おっと、部位が出来てる」

 脳らしき物が骨に覆われ始めたので砕く。

 どこまで再生されたら不味いのか不明なので、徹底的に潰すに限る。

 あの光は厄介だからなぁ。

「光に対抗できるなら闇龍のエルだよね。もし闘ったら勝てたと思う?」

「違いますよキリルさん。勝てるかどうかではなく、闘いたくない、です」

 肉片を弄りながら無駄に真剣な顔で答えるエル。

 こいつやる気はあるのにへたれなんだよな。ちょっといじったら何とかなりそうなんだがなー。


「エルー、なんかないの?封印とかさぁ」

「ありますけど。でも肉片ごととかは無理なんで一旦再生させる必要がありますよ?」

 あるんかい。早く聞けば良かった。

「じゃあ復活させるか……警戒しとけよ」

 大分削ったとは思うが、まだ力は十分残っているだろう。

 再生力、生命力は私より下だが根っ子の力は同等だ。こんなもんじゃくたばらねぇ。


 ラトニアを庇える位置につき、再生を待つ。

 こいつの狙いは私だが、無差別光線でもされたらたまったもんじゃないから念のためだ。

 四肢が部位ごとに出来てきたあたりで、土で覆う。

 合体されなきゃろくな魔法は使えないだろうが、あいつなら腕だけでも襲ってきそうだしな。


 数十秒後、龍魔眼で再生したのを確認できた。

 ……なんか敵意は相変わらずだが、様子がおかしいな。殺意がぶれぶれっつーか……。

 二人にハンドサインを送り、ゆっくり土中から出す。

 そして出てきたフェイダルは──


「っく、えぐ、ひうっ……!」


 ──泣いてた。それはもうしらけるぐらい泣いてた。


「……。……?」

 目の前の状況が呑み込めず、思わずフリーズしてしまう。

 あれ、まさか別人にすり替えられた?本物はどっかでチャンスを伺ってるとか?


「……あの、こんな人だったんですか?街で会った時と印象が全然違うのですが……」

「何も言うな。私だって混乱してる」

 ちょっと会っただけのラトニアとエルですらこんなこと言ってんのに、私が平静を保てる訳ない。

 てか何だこの絵面。全裸で座り込んで泣く女を威圧する様とか、どう考えてもアウトだよ。

 私は残ってた布である程度肌を隠しているが、フェイダルは完全に裸だ。

 見た目は私より若干幼いくらいだし、何かいたたまれない。


 とりあえず埒があかないので、フェイダル?に話し掛けてみる。


「あー、どうした?悩みくらいなら聞いてやるけど……」

 するとフェイダルはキッ、と濡れた目で私を睨み

「あんなにやることないじゃん、馬鹿ぁっ!」

 罵声と共に光のナイフを投げてきた。

 ひょいとかわし、詰め寄って右手首を掴む。

「なんのことだ。あとキャラ変わってね?」

「私を、ぐちゃぐちゃにひっく、したことぉ!」

 そう泣き喚いてさっきの光ナイフで私の胸を何度も刺してくるフェイダル。

 んーとあれだ。まさか素がこれか、こいつ?


「これだから転生者は嫌いなんだぁ!ずるいずるいぃ!私もシャリア様に会いたいぃー!」

 涙と鼻水で顔を濡らしながら、子どもみたいに癇癪を起こしている。

 何なんだこいつは……。ギャップがあるにも程があるだろ。

 素のメンタルがこれだとして、何であんなに強気で振る舞えたんだ。


「ああああああん!信仰が、信仰が足りないっ!私の心が癒されない!」

 狂信は変わらずか……これが支えになってるんだろうか。何て発想だ。

「どーどー、まずは落ち着け。もうばらばらにはしないって。な?」

「あほぉっ!人でなしぃ!」

 もう何だこいつ。とっとと封印しちまいたい。

 ……の前に、言いたいこと言っておくか。


 フェイダルの胸ぐらを掴み、一発殴ってからずいと顔を近付ける。

「ひうっ!?」

「ビビんな。泣く女を殴らせるとか、私にそんな不快な思いをさせた罪は重いぞ。お前を殺すことはしないが、容赦はしてやらないからな」

 さっきまでの威勢はどこへやら、フェイダルはすっかり萎縮していた。

 相手が弱気ならちょうどいい、弱い者イジメは慣れている。

「あ、と!転生者差別やめろ!贔屓とか関係無く私らだって大変なんだよ!隣の芝生青く見てんじゃねぇぞこらぁ!」

「だって、だってぇ!そっちだけずるいもん!何で死んだだけでサリア様に会えるのさぁ!」

「ああもう、うっとおしい!」

 黙らせる意味も込めて首筋へと噛みつく。

 歯は直ぐに頸動脈に達し、血が私の顔に降りかかる。

「ごちゃごちゃうるせぇんだよ。このままてめえとの闘いで使った力、頂くからな」

「やめっ、痛い!痛いんだって!」

 そんなもん知ったことかと、首から肩にかけて肉を食い進める。

 生臭いが、魔力の回復は出来ている。やっぱ食事は大事だな。


「エル、周囲の警戒しといて。今回は流石に疲れたから」

「はーい。封印できるくらいには原形残しといて下さいね」

 じゃあ頭と……いいや。前の方の肉だけ食っとこ。

「……あの」

「ん?」

 気を取り直してさあ食おう、としたところでラトニアに呼び止められた。

「なんと言うか……もう何も言いません、言いませんからね」

「お、おぅ……」

 食人シーンはあまり見ない方がいいよ、特にお子様は。




「ふー……こんだけ食えば大丈夫か」

「痛い、痛い!血もこんなに出てるっ!」

 胴体の肉を殆ど食ってやったのに、フェイダルは相変わらず元気だった。

 しかし不味かったな……。内臓とか苦すぎだし。人が人を食わない理由がよく分かるわ。

 いざって時の食料として人を考えていたが、できればそんな機会が無いことを祈るばかりだな。


「うっしエル、封印よろ。強力なやつね」

 見張りを終えて戻ってきたエルに封印を頼む。

 闇属性魔法ってほんと便利だな。生活に役立つもの多いし。

「派手に食べましたねぇ。じゃあいきますよー『ダークシール・アクセサリ』っと」

 闇がフェイダルを包み込み、小さく折り畳むように変形していく。

「な、何々!?黒いんだけど、ねぇ!?」

 泣き言も闇に顔を覆われたことで聞こえなくなり、フェイダルはあっという間に小さな黒い十字架になった。


「やっぱエルは凄いね。あんた一人でも十分強いよね?」

「や、やめて下さいよ!強いとか言ったら闘いに巻き込まれるじゃないですか」

「いつも通りで安心したよ」

 封印したフェイダルを拾い上げ、ラトニアに放る。

「え、わっ」

 ラトニアは一度キャッチし損ねるも手をわたわたさせてそれを掴んだ。

「戦闘中失くしたら大変だから、ラトニアが持っといて」

「えーと、私でいいんですか?」

 不安に思うのは当然だ。いつ封印が解けるか分からないものな。

 それを問う意図を込め、エルにアイコンタクトで解説を求める。

「大丈夫大丈夫。あんなに消耗した状態じゃあこの封印は破れないから。キリルさんも警戒したくてもいいですよ」

 なら安心だな。エルは本当に確証がある時しか断定しない。

 腐ってもエルも龍人族だし、そう易々と破られはしないだろう。


「さて、どうする?街は燃えてるから戻れないけど」

 今頃死人の世話で大変だろう。もしかしたら犯人のフェイダルを探しているかもな。

「少し離れた場所で野宿すると致しましょう……。まだ日は出ていますし、移動する時間はあります」

 そうだな、それが賢明か。

 私も回復できたし、休憩する必要も無い……


「!」

 気が緩んだところで急に強い魔力を感じ、身構える。

 エルも感知できたようで早速足が震えている。おいへたれ。

 龍魔眼で探ると、街とは反対方向から高速でこっちに接近してくる何かがあった。

 大きさからして人であろうそれは、飛行しながら魔力を練り始めた。

 あれは……魔法の前兆!


「まずい!エル!」

 即座にエルが闇で私達を覆い、その上に私が土のドームを造る。

 その一瞬後に轟音が鳴り響き、地面を揺らした。

「っく、うぐううっ!」

 この衝撃!結構距離あったのになんて威力だ!


 音が収まり、私は顔を上げる。

 土は崩れ、闇も薄くなってしまったが何とか耐えれた。

 闇にぽっかり空いた穴から空を見ると、一人の男が浮遊していた。

 青年くらいに見えるそいつはゆっくりと降下し、私達の前に降り立った。


「ん……挨拶代わりとしては妥当だったか」

 内に秘める殺意と敵意を全く感じさせない様子で、男は声を発した。

 二人を下がらせ、私だけ前に出る。

「新手か、今何をした?」

 私の問いにそいつは悩む素振りを見せず、

「厄介な敵がいるというのでな。小手調べ、兼先制攻撃といったところだ」

 この口振りからして、魔王軍か。最初から敵認定だもんな。

 しかしこいつ、雰囲気が違い過ぎる。

 この肌がざわめくような感覚、今までの魔王軍とは全然違う。龍人族のような強者に対するものでもない。


 私が疑問を持ったまま硬直していると、そいつは口に手をあて首を捻った。


「ああそうか、ヴィクトリオの娘を連れている奴だものな。名乗っておくべきか」

 余裕のある声で、しかし決してこちらに敬意を見せずにそいつは名乗った。


「我は魔王マリシス。随分と暴れてくれたな、転生者」


 最後に戦わなければならぬ、敵の名を。

魔王「最近軍が謎の被害を受けてる……。ヴィクトリオの娘も捕まらないし、転生者殺して回ってる奴もいて大変なのに……」

部下「申し上げます!とある街に転生者殺しが現れましたぁ!」

魔王「だにぃ!?」


出陣の理由(多分)

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