97話 ヘヴィだぜ
ブクマ400件→(゜д゜)
本当にありがとうございます、感無量です。
活動報告も上げてます。
「これが魔界の街かぁ。あんま変わんないな」
一夜明け、汚れたスラムから出て人通りの多い所までやって来た。
「街は私も来たことありませんね。人ってこんなにいたんですねぇ」
エルがそんなことを言うが、こいつ魔界でどんな扱いだったんだろう。
魔族っつっても、人と殆ど変わらない。
ちらほらと角が生えていたり肌の色が独特な奴もいるが、人界でいう亜人みたいなもんだろう。
あそこだって、獣人とかエルフとか混じってるもんな。種族間の軋轢はあまり無いようだ。
「因みにラトニアはなんか種族の特徴あんの?」
「私ですか?うーん、そういった話は聞かされていませんね」
そうか。見た目は完全に人間だが、何かあったら知っておきたかったんだがな。
「となると、土壇場で『ラトニアの秘めたる力が目覚めた!』とかは期待出来ないか。ちょっとがっかり」
はあー、自分の力に頼るしかないってことね。
「……これ、私が謝る必要はありませんよね?」
「ないない。キリルさんのいつものノリだって思って流した方がいいよ」
なんか最近、ラトニアに距離をおかれているような。そしてラトニアとエルは近付いているような。
駐屯兵を気にしつつ、ぶらりぶらりと街を巡る。
美味しそうな匂いを発する店も多いが、生憎文無しだ。生殺しだこれ。
「物欲しそうな顔してんな嬢ちゃん。食ってくかい?」
人当たりの良さそうなおっちゃんが、串に刺さった肉を向けてくる。
おいやめろ、それは飯テロって奴だ。
「す、すいませんおじさん。買う余裕は無くて……ほら、行きますよ」
エルがおっちゃんとの間に入り、やんわりと断って私の向きを変え背中を押し進める。
「キリルさん、涎拭いて下さい。それじゃあ食欲丸出しですよ」
「えっ……、あっ、ああ」
口を拭うと確かに涎が付いていた。どうやら私の食欲は理性を簡単に凌駕するらしい。
いかんいかん、こういう時こそ自制せねばな。二人に示しがつかない。
ま、取り敢えず飯を買おう。話はそれからだ。
「金は……スラムの奴らからカツアゲでもしようか。はした金にしかならなそうだけど」
「カツアゲって何ですか?お金になることなら私も助力したいのですが」
純粋な気持ちで聞いてくるラトニアに、今のは失言だったと気付かされる。
「いや、何でもない。金は他の手段でどうにかしようか」
強盗とか、教育に悪いことはあまりしたくない。
私にその義務は無いが、子どもは真っ直ぐ育ってなんぼだからな、うん。
「それで、街で何をするんです?お金が無いなら来た意味があまり無いような」
私同様出店に視線を配りながらエルが聞いてくる。
「魔王軍についての評判とか知っときたいんだよね。結局私達、この戦争についてあんまり知らないからさ」
人界側が押しているとか、そんな程度のことしか知らない。
戦争を理解しようだなんて狂気の沙汰としか思えないが、関わってしまったならしょうがない。理解した上で壊してやろう。
「評判なら、私も調査しましたね……疑問を持っている方が多く見られました」
ふむぅ?
ラトニアが調査したのなら、恐らく魔界の中心部のデータだろう。そんなところでもその様子とは……。
魔王は本当、何がしたいんだ。ただ勝ちたい、とは違う気がする?
(でもそれを考えるのは、まだ早いか)
どうせ魔王は殺すだろうしなー、やりたくないけど。
最終的に暴力以外の解決方法は見当たらないし、その時がくれば魔王に直接聞いてみよう。
「よっし、じゃあまずは街頭インタビューだ。いざって時に役立つかもしんないしな!」
根掘り葉掘り聞き出そう。なるべく穏便に、強引にな!
「あっ、じゃああの人はどうです?見るからに怪しいですし」
怪しい?
エルが指差した方を見ると、白いローブで全身を包んだ謎の人物がいた。
ていうか私とあと一歩ってくらいの距離にいた。
「えーっと、何?誰?」
流石の私も急なコンタクトには焦る。
その男か女かも分からない奴は更に接近してきて、私の匂いを嗅ぎ始めた。
「えと、お知り合いですか?」
知らん知らん、こんな変態。
寄りかかられたから分かったが、こいつ女だ。線が細い。
女は何か確認するように私の体を観察した後、フードで隠れたままの顔を上げた。
「お前……転生者か……」
「……」
おおっと、変態かと思ったらそっち関係か。
嫌な予感がするので、答える前に距離を取る。
「魔王軍か、それとも同類か?」
転生者ならさっきの奇行も納得出来るんだが。
女は返答せず、何やら小刻みに体を震わせている。
そして右手を広げ、こちらに向けた。
その手は光を放っており、一線となってこっちに……
「ぷあっ、ぶなぁっ!」
私の顔目掛けて一直線に放たれた光を間一髪で避ける。
光線は奥の家に当たり、ぼっかりと穴を空けた。
「敵か、エル!」
「はっはい!ラトニア、逃げよう!」
短刀を抜き、二人に離れるよう呼び掛ける。
「女ぁ!何とか言えよ、殺されてぇか!」
恫喝するが、女は震えたままだ。
やがて殺気を放ちながら、不安定な声を出した。
「お前は転生者……だと認めると。私の中では納得出来たよ。そうか転生者なんだな」
「うるせぇよ変態。人の匂い嗅いだと思ったらいきなり殺気放って攻撃たぁ、随分なご挨拶じゃねぇか。あ?」
いきってみせるが、これは困ったな。
街中であろうと構わず攻撃してきたあたり、魔王軍ではないのかもしれない。
だったらまずいな、いざって時に住民を人質にとっても効果無いぞ。
しかし女の殺気はどんとん膨れあがっていく。
私構えてるだけだぞ?まさか転生者に恨みでもあるのか?
女は私の質問に答えず、何か空を見上げ喋り出した。
「ああ、こうもまた会えるとは!神よ!この出会いに感謝いたします!」
「……ん?んん?」
「そしてご覧下さい、今に我が眼前に蔓延る悪しき者を消し去ってみせましょう!」
「ちょっ、待て!まず話をしろ!」
何だこいつやべぇぞ!
「とぼけるな、お前が転生者であることは分かっている。神の使いである私の手によって、大人しく滅びろ」
「一言も理解出来ん。まずお前はなんだ、頭のおかしい奴か」
「はっ!やはり転生者はまともな思考が出来ないらしい。いいだろう、寛大な心を持って教えてやる。私はフェイダル・ドラライナ。偉大なる我が神、サリア様の使いである!」
「わかんねぇよ!あとサリア様って言ったな今!ふざけんな、あの人が現世に使いをよこす訳ねぇだろうが!」
「転生者風情がサリア様の名を語るなぁ!!!」
女、フェイダルは突然大声を上げ、さっきの光線を周りに撒き散らした!
「無差別!?くそっ、ラトニアが危ない!」
フェイダルは街を破壊しながら、尚もおかしなことを叫んでいる。
こいつはクレイジーだ、放っておいたらどうなるか分からん!
「キリルさーん、私達はどうすれば!?」
「エルはラトニア連れて街の外出ろ!こいつは私が何とかする!」
このままじゃ街が崩壊して多数の犠牲者が出る。
騒ぎが大きくなったら魔王軍に動きを察知されるかもしれない。
「私は光龍だぞ!御使いだぞ!神の威光を目にして何故逃げ惑う、消えろぉっ!」
今や奴の目に私は映っていないらしく、騒ぐ民衆を光線で焼きまくっている。
てか光龍って、龍人族かよくそっ!化けもん相手とか聞いてねぇっ!
土の砲弾を作り、何発もフェイダルに撃ち込む。
弾は光線で消されたが、奴は私を捉えたようだ。
「おいイカれ野郎、お目当ての転生者はこっちだぞ。ついてこいっ!」
「転生者……?ああそうだった、冒涜者はお前か。消さねばならぬのは、お前かぁっ!」
光線をこちらに集中させてきたので、壁をつくりつつ必死で逃げる。
注意は引けた、取り敢えず今は逃げるのみっ!
無茶苦茶な光線の軌道のせいでどんどん住民が死んでいくが、私はとにかく外へと走った。勿論エル達が逃げたのとは別方向に。
「消えろ、異物がぁ!」
「まずは落ち着けキ○ガイドラゴンっ!」
ここまで話が通じないのは初めてだ!
地龍……自己中
炎龍……馬鹿
風龍……BBA
水龍……巨乳
闇龍……へたれ
光龍……狂信者 ←new!
もうやだこのドラゴン達




