96話 権力で顔パス
今回から段落が実装。
何で今まで機能しなかったのか謎。
私達が旅に出て、何回日が沈むのを見ただろうか。
正確に数えていないが、半年は経っている気がする。
少し肌寒い程度だったのに、もう雪でも降るんじゃないかって気温だ。
エルも私も、寒さのせいか常に眠い。最近はいつもラトニアに起こされている。
「ドラゴンが寒さに弱いのは分かるよ……でもなんで人の姿の時も眠いのさ……ぐぅ」
「寝ないで下さい!二人を背負うなんて出来ませんからね!」
枯れ木ばかりの森を白い息を吐きながら進む。
エルは既に落ちてしまい、ラトニアに背負われている。荷物は私だ。
「んみゅう……そこは……だめですぅ……あっ」
こいつどんな夢見てんだ。
起きてる時は臆病な癖に、何で要所要所で図太いんだ?
「こんな時に襲撃にでも会ったら、ひとたまりもありませんよ……」
「ラトニア、それフラグって言うんだよ……おっ?」
不穏な発言に苦笑いしながら前を向くと、人工物と思われる壁が見えた。
「何だあれ。もしかして街?」
「どうしたんですか?」
ラトニアにはまだ見えない距離だし、近付いてみるか。
「おー、街っつーか都市って感じだな」
近付いて分かったが、それなりに高い石の壁が長く続いていた。
「壁にかかっている紋を見る限り、魔界中心部の都市ですよここ」
遂にここまで来ましたか、とラトニアは感嘆の声を漏らす。
ずっと山や森を進んでたから分からなかったが、目的地まで大分近いところに来れたらしい。
「で、どうする寄る?人に見つかったらまずいから避けた方がいいか?」
「いえ、私のことを知っている方は極一部です。指名手配等はされていないはずですし、入っても問題無いかと」
公に出来ないのは確定か。
家が魔王軍にとっても重要だし、その娘を大っぴらに追うことはできないか。
「街!?街に入るんですか!?やったー!久しぶりに文明的な空気を感じられるー!」
「寝起きなのにテンション高いな、おい」
さっき叩き起こしたエルは大はしゃぎだ。
「そんなに野宿嫌だった?慣れてるだろ」
「人はより幸福を求める生き物なんです!いっそ街に永住したい気分ですよ!」
お前ドラゴンだろ……。カイトにいた頃贅沢させ過ぎたか?
「でもさぁ、私達身分証とか無いよ。都市ってんだから勝手に入れるもんじゃないでしょ?」
三人中二人が魔界出身とはいえ、今は怪しい集団でしかない。
しかも私が人界側ってばれたら、偉い人に捕まる可能性もある。
「あうぅ……じゃあ駄目ですか……?」
私の言葉を聞いてエルが情けない声を出す。
人が多くいる所に行くってだけでもリスクがあるのに、不審者扱いの危険性まで孕むのはなぁ。
そんな風に二人でうんうん唸っていると、
「あの、私の家紋を使えば大丈夫なのでは」
ラトニアが鶴の一声を放った。
「!……それはまさか、権力というやつか」
権力。全てを跪かせる圧倒的な力。
そうだそうだ、忘れてたけどラトニアっていいとこのぼんぼんじゃん。
「権力があれば横暴に振る舞えますね、良いと思います」
私もエルも下民である故、一度は権力を使ってみたいものだ。
この紋所が目に入らぬかー、って感じの。
「でも大丈夫ですかね?手配されてないとはいえ、名乗ってるようなものですよ?」
「そこを権力で脅すんだよ。最悪殺っちまえばいいし」
「結局そこに行き着くんですね……」
暴力は全世界共通言語である。
というわけで街に入ることになったので、正面入り口まで回り込んだ。
門は馬鹿みたいにでかく、数名の衛兵が入る人達に対応していた。
一端人が途切れるのを待って、私達も衛兵に話し掛ける。
「あのー、入りたいんだけど」
「三人か。通行証かそれに代わる物を見せろ」
やや高圧的だが、衛兵としてはこれぐらいの気概があっているのだろう。
当然通行証なんざ持っていないので、ラトニアを前に出す。
ラトニアは懐から小さいペンダントを取りだし、目線の高さで衛兵に見せた。
「……?それは、ヴィクトリオの……まさかっ!?」
「騒がないで下さい。お忍びですので」
黙るようにジェスチャーし、ペンダントを懐に仕舞った。
「それで、通してくれますね?」
「わっ、分かりました!お二人は、お付きの方で?」
「ええ。感謝します、では」
流れるように権力を使うラトニアに感心しながら、私達も後に続き街に入った。
後ろでは、挙動不審になった彼を他の衛兵が気にかけていた。
「今まで気にしてなかったけど、ヴィクトリオ家ってそんなに凄いの?」
率直な疑問をぶつけてみる。
「魔王軍の後方としては、かなり上の立場です。お金の巡りを管理している訳ですしね」
金は命より重い……正にその通り。
そんな家が言うこと聞いてくれなくなったら魔王軍は大打撃だから、不興を買わないようラトニアを殺さないんだろう。
まあこれは当てには出来ないな。明らかに殺りに来てる奴とかいたし。
「金は天下の回りものって奴ですね」
「そうだな。今の私達は持ってないけど」
「……街に入ったのはいいんですけど、どこで寝るんですか?宿代なんて持ってませんよ」
「考えてあるさ。付いてこい」
自信まんまんな私にラトニアは不安そうな顔になり、エルは嫌そうにする。
私が真っ直ぐ向かったのは、人の少ない荒れた路地だった。
うーん、懐かしい雰囲気。
「あの、ホームレスだからってここに来なくても……」
「ずっと家無しだったでしょ。お金が無いなら、スラムに行けばいいじゃない!」
げんなりするエルを引っ張って裏路地に踏みいる。
ここは力こそが全て。寝床も自力で確保だ。
「んじゃあラトニア、いいとこ奪ってやるからな」
「衛星面に心配が……」
その後スラムの奴らをひたすらいじめ倒し、私達はいい布団で眠ることが出来た。
特に理由の無い暴力がスラムを襲う!




