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94話 弱きを挫き我を通す

続・キリル無双

  「さーて、言い残すことはあるか?あっても聞かないけど」

  蔓でドルトゥークを縛り上げ短刀を突き付ける。

  ドルトゥークは首を絞められているにも関わらず、汗一つかかずに鋭い目を私に向けてくる。

  「貴様に残す遺言など、無いわっ!」

  気丈な奴だ。ぶち殺してやりたいねぇ。


  結論から言うと、圧勝だった。

  というか負ける要素が見当たらないから、当然のことなんだが。


  まず普通の兵士の攻撃は私に通じない。自然回復で間に合う。

  どれだけ剣を突き立てられようが、強力な魔法を放とうが無駄なのだ。

  そもそも一部屋に固まってるから広範囲魔法を使ってこないんだよな。味方を巻き込むから。

  転生者?雑魚だったよ。所詮ガキだし。

  しかし……改めて、私の転生チートって大概な性能だよな。

  生態系トップの種族なことがこんなに強いとはね。

  設定だけ強いとか、普通かませポジションだよ?


  「ラトニアを人質にでも取れば良かったのに」

  「武人としてそれは出来ん、そこまで落ちぶれてはおらん!」

  それで負けてるから唯ださいだけなんだが。

  「死に際だってのに元気いっぱいだな。悪人らしく足掻いてみせろよ」

  「貴様に悪といわれたくはないが……確かに、私は愚かな理由で戦争をしていたな。後悔など無いが、無念が募るばかりだ」

  ドルトゥークは抵抗を止め、死人のような目で恨み言を呟いた。

  「死ぬ前にそういうこと言う奴いるけどさ、聞く側からしたらうざったいんだよね。折角殺してやろうってのにモチベーション下げんじゃないよ」

  途中で話止めんのも悪いし……。老人は大人しく消えるのが定めじゃないかね。


  虚ろな目で、ドルトゥークは尚も喋る。

  「一つ教えろ……人界は、魔界とどう違う?」

  「そんな変わんないかな。今は人界が優勢だから、魔界よか裕福よ」

  そんなこと聞いてどうすんだか、と思ったがドルトゥークはその答えに満足したように俯いた。

  「そうか……ならば、私のような者も人間にはいるのだろうな」

  それは、魔族に恨みを持ってる奴って意味か。

  「感情があるなら当然あり得ることでしょ、あんたらは悪人だけど間違ってないよ。私という正義がいたから死ぬだけ。それで納得しとけ」

  「てめぇが正義な訳あるかぁ!」

  後ろから転生者の男の怒声が聞こえる。首だけで。


  「あーあー聞こえない、負け犬の声なんて聞こえなーい」

  「ふざけんじゃねぇぞ、絶対殺してやる!」

  頭から植物を生やした状態で、よくそんな啖呵が言えるものだ。

  「てか何で生きてんのさ。転生特典?」

  「俺は頭が本体で、首から下は作り物なんだよ!こんなもんじゃ死なねぇ!」

  「そいつに寄生されてる以上お前はすぐに死ぬよ。花粉吸い込んだだけでアウトの特別性だから」

  もう養分を吸われ尽くされて衰弱状態だろう。

  「結局てめぇはどんな能力なんだよ!土操ったり植物生やしたり、ふらふらしてんじゃねぇ!」

  「やかましいわど阿呆。あの世で考えとけ」

  油断も慢心もしない私は、ぽろっと能力など明かさない。

  転生者だからって仲間意識がある訳でも無いし、こいつらみたいな悪人に同情の余地はない。


  「てめぇ、何であの娘の味方をするんだ?」

  濁った声で男が聞いてきた。理由?そうだなー。

  「私があの子を気に入ってるってのもあるけど……今は、平和が見たいからかな」

  「へ、平和だぁ?」

  呆れたような、よく分かってないようなイントネーションでリアクションをとる男。

  分からないのは仕方ない、私達にはイメージしづらいものな。

  「そう平和。それがどんなものなのか、本当に良いものなのかは分からないけど、その為に命をかける奴がいるってのがそそるよね。ぶっちゃけ人界も魔界もそう変わんないし、どうせならやっちゃおーかと」

  「だったら戦争でもいいだろうが!こっちの方が命かけてる奴多いぞ!」

  「やだよ飽きたもん。というか私は元より平和主義者だし。前世はいつ殺されるのかも分からない糞みたいな弱者だよ?」

  「糞みてぇなのは今もじゃねぇか!」

  失敬な。ヒエラルキーは前世よりも圧倒的に上だぞぞ。


  「……私達を殺すのは、平和の為か?」

  ドルトゥークは掠れた声で呟く。今にも死にそうだ。

  「それが私の正義だからな。言っとくが平和の礎になれたとか思い上がるんじゃねーぞ。お前らはただの邪魔者で、害しか与えてねーんだからな」

  どんな理由があろうが、私の敵になったなら殺すまでだ。

  悲しい過去も邪魔なだけ。こいつらに戦争をさせる為に死んだ奴らも、もっと上手く死ねばよかったのに。戦争なんか考えさせないようにさ。

  「ふ、ふざけっ……!」

  男はまだ何か言おうとしていたが、顔中の穴から花を咲かせ絶命した。

  人間植木鉢……気持ち悪さにも限度ってもんがあるぞ。


  「さあ次はお前だジジイ。あの世で娘に会って、親孝行してもらうんだな」

  「ふん、妻と娘ならとっくに転生しておるだろうよ。貴様のように不完全な形ではなくな」

  「言ってろ老害」

  蔓から棘を生やし、ドルトゥークの首に食い込ませる。

  そのまま横にスライドさせ喉を裂き殺す。大量の血が吹き出しスプラッタな絵面だ。


  「き、キリルさーん……!終わりましたー……!?」 土の中からラトニアの声が聞こえる。かなりくぐもっているが、中から分かるもんなのか。

  「ああ、今開け……」

  いや待て、こんな血だまりはお子様にはまだ早いな。ちょっと掃除するか。

  目の前で死体がつくられていくならともかく、いきなり視界に凄惨な現場はきついか。

  軽く部屋をシェイクし、死体を壁に埋めていく。勿論私とラトニアの土台は崩さずに。

  「よっし終わり。出ていいぞー」

  ラトニアを土から解放する。少しむせているが、怪我はしていないようだ。


  「あの、部屋が原型留めてないんですが」

  「激しい戦いだったからね、私も周りの被害を考える余裕は無かったよ」

  「嘘が下手過ぎますよ。そもそも敵の拠点なのに被害を気にする必要あるんですか?」

  ジト目で見てくるので顔を逸らす。いややましいことは無いんだけどね?

  「あの、生きている人は?」

  「砦全体を見ればいると思うよ。どのみち全員殺すから関係無いけど……おっと」

  話しているとエルから念話がきた。

  (キリルさん、そろそろそちらに着きます)

  (おうお疲れ。悪いけど残党狩り頼むわ)

  指示はこれで良し。私達は砦を出るか。


  「エルもこっち来たらしいし、出ようか。巻き込まれるかもしれないからね」

  「巻き込……?あの、エルさんは何を……わっ」

  ラトニアの腕を引っ張って窓から飛び出る。

  「ちょっ、いきなり過ぎ、ますっ!」

  すぐに翼を広げ、羽ばたいて滞空状態になる。

  慣れていないのでふらふらと安定しないが、どうにか持ちこたえてラトニアを抱える。

  「せめて何するか言って下さいよ……。いつもこんな調子じゃ身が持ちません」

  「ん、まあ早いに越したことはないよ。だってほら」

  指を指した方向から、黒いブレスが放たれ私達がさっきまでいた砦を中心から破壊した。

 

  「……」

  「エルもやるなぁ。やっぱあいつ私にひけをとらないよなー」

  絶句するラトニアを気にせず地面との距離を近付けていく。

  両足が地につく時には、二発目のブレスが砦を瓦礫に変えていた。


  暫くして、闇龍となったエルが私目掛けて飛んできた。

  「キリルさーん!やりましたよー!」

  「よくやっ、危な!」

  エルは空中で人に戻り、あろうことかその勢いのまま突っ込んできた。

  咄嗟に腕を龍化させ、両手を広げてこちらに来るエルの頭を鷲掴みにして止めた。

  「何で止めるんですか!こんなにも愛情たっぷりに迫っているというのに!」

  「目がマジなんだよ。後で誉めてやるから落ち着け」

  不満そうな顔で足を着くエル。

  あっちで何かあったのかいつもより情緒不安定な気がする。

  「あ、まだ生体反応がありますね。片付けてきまーす」

  そういってまた翼を広げ、エルは瓦礫の山へと向かっていった。


  「妙にエルさんに冷たいですね。もっと素直になればよろしいのでは?」

  「あいつ調子に乗りやすいしなぁ……どこまでならいいのかラインが微妙なんだよ」

  ちょっと誉めれば満足するっぽいし、軽い扱いでいいんじゃないかな。ドMだから問題無いでしょ。


  さて、残りはエルに任せて私はどうするかな。

  日も落ちてきたし、今日はここで休むとするか。瓦礫を使えば小屋は作れる。

  「飯食うから火付けるよー。ラトニア肉出して」

  「こんなところで休まなくても……山菜も出しますからね」

  ラトニアと一緒に食事の用意をし、私は小屋も立てておく。

  エルは数分程で戻ってきて、途中から食事の用意に加わった。


  「いやー大変でしたよ、人間の癖にしぶとくてしぶとくて」

  「だから油断すんなって言ったのに。毒は万能じゃないんだからね?」

  「毒とはなんて酷いものを……あ、キリルさん野菜も食べて下さい。エルさんは物を口に入れたまま喋らない」

  いつもの食事であるバーベキューを囲み、三人で肉と野菜を取り合う。

  こうやって肉を食っていると、さっきまでの殺し合いの血生臭さを忘れていく。


  今回の戦いで分かったが、大量殺戮は気分が悪いな。特に範囲攻撃は殺した相手が見えないからもやもやする。

  後、ラトニアの目的はあまり進歩しなかったな。

  大物を倒したのは間違いないんだが、結局現実を見せられただけというか……ラトニアは子どもだからしょうがないとはいえ、なぁ。

  まあ自立出来るまでは私が何とかするか。言うこと聞かない奴から殴っていこう。というか全部殴ろう。やっぱ暴力最強だな。


  「キリルさん、目、目。完全に危険人物ですよー」

  「弱気な目のまま厄災を撒き散らすお前よりましだ。これは警戒色みたいなもんだよ」

  「警戒した上で殺すから意味無いでしょう……」

  取り敢えず、今日は沢山殺して胸焼けしたから、明日は戦いが無いといいなぁ。

何度か作中でそれっぽいことを言っていましたが、彼方のいた地球は現代そのままではありません。少々ジェノサイドな世界になってます。キリルの死生観が変なのもそれが理由です。


地球出身転生者一同「この世界の方が圧倒的に平和!」

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