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93話 理性無き戦争

年明け一発目

参謀の案内の通りに進んでいくと、装飾の施された大きめの扉まで辿り着いた。

「ここぉっ!ここにおられますぅっ!」

やかましい口を握り潰し、いよいよボス戦かと身構える。

「この先に、ドルトゥーク様が……!」

ああ違う、身構えるのはラトニアか。まずは口勝負だもんな。

でもその前に大事なことを聞いておかないと。


「先に確認しておくけど、どっから手を出せばいいわけ?」

「話で解決出来ない前提ですか!?」

「こんなに兵を殺しておいて和解なんて出来るわけないじゃん」

良くて脅迫、からの傀儡化。まあ多分殺すだろうね。殺さない理由無いし。


「ま、まずは事情を聞きます。何故魔王に組するのか、戦争を続ける意味は何なのか。可能であれば原因を取り除き、和平推進派になってもらえれば……と……」

じっと話を聞いていると、ラトニアのトーンが段々と落ちていく。

そしてカタカタという音を鳴らしこっちを見て、

「……キリルさん。私かなり無謀なことを言っているのでは」

「うん。夢物語だね」

叶うわけないな。主に私のやり方のせいだけど。

「ごめんごめん、私武力と威圧以外の解決方法知らないんだよ」

「ああああこの人に助けられたばっかりにぃぃぃ!」

すまんて。でも私だからここまで来れたようなもんだよ、世の中力が全てだよ。


「じゃあ行くか!お邪魔しまーす!」

「私の心構えは無視ですか!?」

勢いよくバーンと扉を開ける。


部屋は広く、長いテーブルにきちんと椅子が並べられていた。

いたるところにある装飾品から、とにかく見た目を良くしようという思いが感じられる。

ようするに高級感たっぷりってことだ。会談とかに使いそう。

今は兵士が沢山いるから、作戦会議って感じだけどな。


兵士達は私が来るのが分かっていたのか、驚いている様子は無い。

テーブルの一番奥には、偉そうに髭を蓄えた初老のおっさんが座っていた。

「あれ?」

「はい、あの方がドルトゥーク様です」

思ったよりジジイだな。頑固っぽいのはイメージ通り。


「へいへい、あんたらの砦を荒らしたのはこの私だぜ?なに呑気に座ってんのさ」

「…………」

ドルトゥークは薄目でこちらを見るだけで、言葉を返さない。

「無視ってんじゃねーぜジジイ。お連れの兵士さん達はピリピリしてるってのによぉ、ドライ過ぎやしねーか?」

言ってる自分でも小物臭漂う煽りで様子を見る。

だが実際、周りの兵士は私に殺気をぶつけまくっている。スキルなんて無くてもわかるくらいだ。

しかし攻撃しようといないのは、ドルトゥークがそう指示したからか?あいつからは特に攻撃的な意思は感じないし。


「……生きておられたのですね、ラトニア様」

出方を伺っていると、あっちから話し掛けてくれた。

「お蔭さまで、元気にやらせてもらっています」

若干嫌みのこもった挨拶に、ラトニアはいつもの調子で返す。

あっちからしたら、さっさと死んで欲しい存在なんだろう。表沙汰に出来なそうな事案だし。

「始末を命じたのは私ではありませんが、部隊からの連絡が無いのは気にしていましたよ。魔王様の気掛かりになってしまいますからね」

魔王!その単語を聞くことになるとは。

勇者と同じくらい関わりたくない奴が遂に出てきたか。

しかし……ここまで来ると無視出来ないよな。恐らく最大の敵になるだろう。

てか何で魔王は戦争をしたがるんだ?魔界も疲弊してんのに得があるのか?

まあ今大事なのは目の前のことか。分かりもしないことなんざ考えるだけ無駄だな。


「なあおっさん、何で攻撃してこねーの?」

ひとまず疑問をぶつける。

ドルトゥークは私を見て顔をしかめたが、口を開いた。

「兵を無駄死にさせたくはないからな」

「ほぉん?戦力差は分かってるみたいだな」

「狭い砦では人数差はあまり意味をなさず、構造そのものを変えられてしまえば地の利も無い。そして能力でも負けているとなれば、うかつに攻撃などできんよ……転生者」

「あぁ?」

ばれてーら。

「一応聞いておこう。何で分かった?」

「お前も転生者なら、聞く必要はないんじゃないのか」

ドルトゥークの横に、量産兵とは違う装備を着けた男が並ぶ。

恐らく、こいつも転生者なのだろう。


「転生者同士ならわかる、独特の空気ってものがあるんだ。同郷なら尚更だ」

へぇ、言われてみれば。一目で常人じゃないって気付ける。

「なら日本出身か、お前?じゃあまともじゃないの確定だな」

「それはお前のことだろうが。俺だってあそこ出の奴には会いたくねぇよ」

だろうな、あんなとこで生きてた奴が常識的な会話を出来るはずないもんな。理由なく殺しにこないだけましだ。

「とにかく、まずは話させてよ。うちのラトニアがあんたらに聞きたいことがあってさぁ、もしかしたら戦わずに済むかもよ?」

暗に話をしないなら戦うことになると示し、ラトニアをずいっと前にやる。

「さ、お前のやりたいことをやりな。邪魔する奴は私が殺るからさ」

「わっ、分かりました。こんな形ですが、ドルトゥーク様!人と魔族の戦争について、私と話し合うことを認めてくださいませんか!?」

ラトニアの言葉に、ドルトゥークは目を細め息を吐いた。


「ラトニア様、あなたが関わる必要はございません。大人しくご両親の下に帰ると言うならば、そこの娘の首だけで済ませましょう。ですので手を引いて下さい」

さらっと私を殺したな、このジジイ。

でも結構寛大だな。ラトニアを殺すつもりは余り無いのか。

「出来ません!戦争の惨状を知っておきながら放置するなど、民を見捨てるおつもりですか!あなたは選民思考ではないはずでしょう!」

ラトニアが声を大きくしてしまっているのは、本当に理解出来ないからだろう。

汚いところも見たとはいえ、あくまでラトニアの目は綺麗なままだ。どうしても偏見になってしまう。

逆の意味で偏見な私みたいなのよりはいいが、革命家としては短慮だな。

理想だけ語るなら、客寄せマスコットで充分。やっぱりラトニアはまだ幼い。


 そんな子どもに対してドルトゥークは特に苛立った様子もなく、冷たいの目のままで言葉を返す。

 「この戦争が何時から続いていると思っているのですか。もはや理由を探る必要などございません、私達が生まれた頃から敵がいるのですから戦うのみですよ」

 「それは思考の放棄です。意思の無い戦いを続けることの無意味さに、何故気付かないのですか!」

 ラトニアの言葉に、ドルトゥークだけでなく周りの兵もピクリと反応した。

 何だ、小娘の戯言がそんなに腹立つのか?確かにラトニアじゃなかったら私もむかつくが、子ども相手にむきになるなよ。


 「……ラトニア様。戦場に行く兵全てが、大義を持っているとお思いですか?今自分が関わっている戦争が何故起こったかを考えるより、自分の為に戦う者が殆どです。家族を守る為、出世して権力を得る為。そのようなことの為に人は戦争するのですよ」

 「そ、それはそうですが……!」

 中々正論を言うな、あのおっさん。かっこつけない所は好感が持てる。

 ラトニアは少し戸惑うが、頭を振って自分の考えを戻す。

 「しかし、皆が同じ考えならきっと分かりあえます!民は戦争を求めません、自分だけの都合で戦争するなんて間違ってます!」

 「その都合が共有出来るから、戦争を続けるのですよ!」

 ドルトゥークが声を荒らげ椅子の肘かけを叩く。

 突然のことに、ラトニアは思わず私の腕を掴んで体を寄せてきた。やったぜ役得。


 「ド、ドルトゥーク様……?」

 「怯えるなよ、ジジイが吠えたくらいで。それより何で急に怒ったと思う?」

 問い掛けるが、ラトニアは手を口に当て止まってしまう。

 ドルトゥークはすぐに姿勢を正し、眉にしわをつくりながらも平静を保っていた。

 しかしまあ、琴線はそれか。難しく考えてたのがあほらしくなってくるな。

 「正解はな、感情で戦争をしているからなんだよ。心が剥き出しならあんな反応もおかしくないでしょ?」

 「…………っ」

 私の言葉にドルトゥークだけでなく兵士達も苦い顔をする。

 「感情……?私怨ということですか?」

 「多分ね。ほれ、しかめっ面してないで答え言ってよ。お前らが感情で動く訳を、弱味をよ」

 「てめっ……!」

 「よせ。軽い挑発だ」

 体を乗り出した転生者の男を制し、ドルトゥークが立ち上がる。

 「お望み通り教えてやろう。期待はずれでなければいいがな」

 「あざっす、噛まずに最後まで言ってくれよ?」

 忌々しそうな視線をぶつけながらドルトゥークは語り始めた。


 「前回の勇者と魔王が誕生した戦いの勝敗は知っているな?」

 「ああ、魔界側の負けでしょ?といっても魔王が死んだだけで、支配下には置かれなかったって聞いたけど」

 そっからまた冷戦になったとか。

 「その通りだ。だが負けたのだから、こちらは相応の被害を負っている」

 でしょうな。人間軍も甘くはないはずだ。

 「その戦いで都市の一つが落とされ、大勢の魔族が死んだ……私の妻子もな」

 「あー……」

 「数字として見れば些細なことだ。そして戦争である以上あり得ないことではない……だが、割りきれるかどうかは別だ」

 ドルトゥークに言葉に、兵士達は俯く。

 そうか、こいつらも戦争で何かを失った連中。共有者なんだ。


 「仇を討ったところで妻と娘が戻ってくる訳でもない。憂さが晴れるのは一瞬だけで、根底の悲しみは決して癒えない……。でも、それでもだ。私達がこの戦争に抱いてしまう思いは一つしかない」

 拳を握り締め、うざい程殺気を飛ばしてくる。

 「貴様らでも分かるだろう!?失うことの大きさを!消えない思いを!転生者である貴様ならば、絶対に経験しているはずだ!なにせ一度死んでいるのだからな!」

 先程までとは違う感情の籠った問いかけに、ラトニアは怯み私の腕を強く掴んでくる。

 私はその手をそっと握り返し、ドルトゥークを睨み付ける。


 「つまりお前らは、やり場の無い怒りを戦争にぶつけている訳か。意味なんて無いと分かっているのに、人間軍への恨み辛みで戦いを続けてしまっていると」

 「てめぇ、俺達を軽蔑するつもりか!?お前だって感情で動く癖によぉ!」

 うるせぇ転生者。こっちは他人のトラウマ聞いて喜ぶような変態じゃねぇんだよ。

 「否定とかする気はない!ただ交渉の余地が無いことを確認したいだけだ!」

 腰から短刀を抜きドルトゥークに突き付けると、兵達が一斉に前に出てきた。


 「キ、キリルさん……あの、私……」

 「ラトニア、お前が気に病むことじゃない。心を持つ以上仕方のないことなんだから」

 ラトニアを後ろに下がらせ、石のドームで囲っていく。

 「私に任せることも気にするな。あんたの命預かるって、最初に言ったろ?」

 「そろそろその約束が怖くなってきました……」

 「つべこべ言わずに守られろ」

 戦闘なんて野蛮なことに首突っ込むんじゃあないよ。


 「さて、待ってもらって悪いな」

 「構うな。ラトニア様を殺してはヴィクトリオ家からの印象が最悪になってしまうからな、巻き込まないのはこちらも同意だ」

 子どもに優しい世界、素晴らしいね。

 「随分余裕綽々のようだがよぉ、転生者っつー条件はイーブンなんだぜ?砦を攻略していい気になってるようだが、生きて帰れると」

 短刀を投げ、男の首をはねる。

 体から離れた首は少量の血を飛ばし、地面に転がった。

 あっけなく殺せたが、こいつ本当に日本出身か?危機管理が成ってないぞ。


 恐らく戦力の要であった転生者をいきなり殺られ、ドルトゥークの顔が険しくなる。

 兵士達も殺気を増し、武器を振るってくる。

 攻撃を捌いて殺し、ドルトゥークに発破をかける。


 「さあ、私はまたお前らを殺したぞ!精々怒りの感情を剥き出しにしてかかってこい!でなけりゃお前らは腰抜けだ!私が怖い短小野郎は下がってな!」

 私怨で戦争する悪党を倒すんだ、派手に殺らないとな!


ラトニアの成長はまだ先です。あくまで理想を語る子どもなので。

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