〜柊と双子の対面~
「はぁ」
俺は大きく深いため息をついた。だって、あんな綺麗で美人な子とあんな形で出会うなんて…
助けるために体が動いたのにそのまま支えられずに落ちるなんて…情けない。ダサいぞ!自分!
「変な子だったけど可愛いかったなぁ」
柊の姿を思い返しながら俺は千尋と千里香の元へ戻った。
教室内は昼休みということもあって生徒達の声で賑わっている。廊下を歩いているだけでも分かるくらいに大きな声で笑っていたり、友達同士で写真を撮ったりしている。
そんな光景を横目にしながら俺は教室のドアを開けると
「おっそーーーい!」ドフッ!「ぐはぁ!」
横から強烈なタックルが横腹にヒットし、俺は又もや転んでしまった。今日だけで何回転ぶんだろう…と思いながらも
「千里香!?何するんだよ!」
ズキズキと鈍く痛む横腹をおさえながら千里香を見上げた。千里香は参ったか!とでも言わんばかりに堂々と仁王立ちしている。
「何するんだよじゃないよ!どれだけ待ったと思ってるの!私お腹ペコペコで死にそうだよ!」
そう言うと千里香のお腹がゴギュルルルルルルルと鳴る。
・・・ごめん。
「悪かった千里香!ちょっとトラブルがあってな…ほら!早く食べようぜ」
ブーブー文句を言いながらも俺の買ってきた飲み物を持ってくれた。
「よう。一遅かったな」
数学の教科書を読んでいた千尋が千里香からコーヒーを受け取ってサンドウィッチにかぶりつきながら話してきた。
「悪い。遅くなって…少しトラブルがあってな」
俺もサンドウィッチを貰い一口かじる。うん。うまい。いつものように自分で作ってはいるものの簡単なモノしか作れない。だが、まあうまいから今はこれでいいや。
「ももろへ、はにはあっふぁの?」
口にサンドウィッチを詰め込んでモグモグしながら聞いてきた千里香。何を言っているかはすぐに理解できた。長年一緒に居るからこのぐらいはできるようになる。
「食べながら喋るなって…。まあ、階段から落ちてきた一年生を助けようとしたけど支えきれなくてそのまま落ちちまった。」
2人はポカーンと口を開けながら聞いている。
そんな2人を見て俺は
「いやぁ、筋トレしないとダメだな。アハハ!」
「そんな事よりいちくん。助けようとした子って可愛い?」
「まあ、可愛いかったなぁ」
「んで、その子は黒髪か?一」
「ん?おぉ綺麗な黒髪だったよ」
「本当ですか!すっごい嬉しいです先輩!」
ん?隣から聞き慣れない声が…嫌な予感しかしない。千尋も千里香も俺の横を見ながら喋ってるし!そもそも質問してきた内容がおかしかった。何故だいつから…つか何処から入ってきたんだ
「えっと…君は一年生だよね?お名前は?」
千里香が質問してみると、おにぎりを食べていた柊はお茶で流し込んで一呼吸置くと
「はい!一年五組の柊真琴です!」
「元気だね。君が一に助けられた子だね?何でここに居るの?」
やや食い気味に質問し始める双子たち。俺はこの状況で口を出せばややこしい事になると思い黙ってサンドウィッチを食べる。
「はい!先輩に助けてもらった時運命感じたんですよ〜。でも〜先輩私の美貌に目もくれないでどっか行っちゃうから着いてきちゃいました!」
これでもかと言わんばかりのテヘペロを繰り出した柊に千尋は眼鏡を光らせ、千里香は控えめに引いている。ここまで双子を動じさせる奴はなかなか居ない。
「んで、何しに来たんだよ柊。」
ぶっきらぼうに声をかければ気分悪くなって帰るだろうと思ったのだが
「え?先輩と話したくて来たんですよ?ダメですか?」
ウルッとした瞳で上目遣い。妙にキラキラと光る彼女の周り。洗練された頼み方なのがハッキリとわかる。
「ダメじゃないけど…千里香千尋と昼は食べてるからさ」
「それじゃ、私もここで食べます!いいですか?いいですよね!ありがとうございます!」
有無を言わさぬ勢いで俺は押し切られてしまった。
キーンコーンカーンコーン
昼の終了を告げるチャイムがなった。
「でわでわ、また明日です~」
さよなら~と手を振りながら帰っていく柊。呆気に取られていた俺や双子は何も言い返せなかった事よりも、明日からもこんな日が続くのかと思い深いため息をつくのであった…
「いちくん…」「一…」
2人は俺を見て物言いたげだった。何を言いたいかは分かるがとりあえず
「ごめん…」としか言えなかった。
これからの不安が募る中、何かワクワクしている自分が居たことは2人には言えないのだ。