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異世界ピアニスタ  作者: ふらふら
8/10

 ビブラと一緒にクレッシェン塔を目指して1時間は経っただろうか。

 俺とビブラは鬱蒼と茂る森の中を歩いている。

 柔らかな土と蒸せるような熱気のせいで、俺はさっきから打つかったり転けている。

 周りに浮かぶ鍵盤は相変わらず何もしてくれない。打つかっている理由はこの鍵盤達が邪魔というのもあるのだが。


 そんな俺とは対照的にビブラはヒョイヒョイと前を進んでいる。

 今ビブラは枝の上に乗っている。

 曲芸師と言っていたのは本当なのだろう。ビブラの動作は身軽で、なんと言うか華がある。

 先程ビブラが木に纏わり付いた蔓を掴み、木々の間を移動していたが、サーカスの空中ブランコを見ている様だった。


「俺もあんな風に出来ればな」


 ふと横を見ると長い蔓が垂れている。

 自然と手が伸びた。

 そうだ、物は試しだ、やってみよう。


 蔓は以外と丈夫な感じがした。


「せーの!」


 地面を蹴って蔓に全体重を乗せる。

 太ってはいない筈だ。だが蔓はプチッと音をたて切れてしまった。

 尻を思い切り地面に打つけた。

 嘲笑うかの様に何処かの鳥が鳴いた。

 慣れない事はするもんじゃないってハッキリ分かんだね。


「大丈夫?」


 前にいるビブラが枝から飛び降り、こちらにやって来た。


「大丈夫だよビブラ。ごっごめんね」


 恥ずかしさで少し言葉が詰まる。

 ビブラは首を傾げた。


「そう、ならいい」


 そう言ってビブラはその場でジャンプする。

 そして当たり前の様に数メートル上にある枝に乗った。


「こりゃ無理だわ……」


 さっきまでの自分が本当に馬鹿だと思った。



 数分後、木の無い広い場所に出た。

 ビブラは枝から降りて「休憩」と小さく言った。フラフラの俺を見て気を遣ってくれたのだ。


「疲れた……」


 その場にへたり込んで座る。足に溜まった疲れが地面に流れ出る感じがした。

 ため息を吐き辺りを見回す。

 木が無いからかここら辺りは明るい。この場所だけ長い草が生えているのもそれだろう。


「腹減ったな」


 歩いていた時は感じなかったが、俺は今猛烈に腹が減っている。

 よくよく考えたら、今日マトモに食べた物はゲロ不味の草ぐらいだ。

 そう考えたら一気に腹が鳴り始めた。


「どうしたの?」


 俺の腹の虫を聞いたのか、ビブラがこちらに来た。

 俺とビブラの距離は10メートルは離れている。そこまで俺の腹の虫が響いたのかと思うと恥ずかしい。

 腹は未だ鳴っている。もう止めてくれ。


「お腹すいてるの?」


「あっあぁ」


 恥ずかしいが俺は頷いた。するとビブラはナイフを取り出した。

 空気を薙ぐような音と共にビヴラはナイフを投げる。

 ナイフは意思を持ったかの様に周りの木を躱しながら、枝に止まっていた鳥につき刺さった。

 鳥は地面に落ちた。

 ビブラは落ちた鳥の首ねっこを掴み、俺の前に突き出した。


「はい」


 ビブラは眉一つ動かさず、血が滴り落ちる鳥をこちらに向ける。


「えっあの……まさかこれを」


「うん。食べて」


 騒がしかった腹の虫が鳴きやんだ。

読んでいただきありがとうございます。

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