鳥
ビブラと一緒にクレッシェン塔を目指して1時間は経っただろうか。
俺とビブラは鬱蒼と茂る森の中を歩いている。
柔らかな土と蒸せるような熱気のせいで、俺はさっきから打つかったり転けている。
周りに浮かぶ鍵盤は相変わらず何もしてくれない。打つかっている理由はこの鍵盤達が邪魔というのもあるのだが。
そんな俺とは対照的にビブラはヒョイヒョイと前を進んでいる。
今ビブラは枝の上に乗っている。
曲芸師と言っていたのは本当なのだろう。ビブラの動作は身軽で、なんと言うか華がある。
先程ビブラが木に纏わり付いた蔓を掴み、木々の間を移動していたが、サーカスの空中ブランコを見ている様だった。
「俺もあんな風に出来ればな」
ふと横を見ると長い蔓が垂れている。
自然と手が伸びた。
そうだ、物は試しだ、やってみよう。
蔓は以外と丈夫な感じがした。
「せーの!」
地面を蹴って蔓に全体重を乗せる。
太ってはいない筈だ。だが蔓はプチッと音をたて切れてしまった。
尻を思い切り地面に打つけた。
嘲笑うかの様に何処かの鳥が鳴いた。
慣れない事はするもんじゃないってハッキリ分かんだね。
「大丈夫?」
前にいるビブラが枝から飛び降り、こちらにやって来た。
「大丈夫だよビブラ。ごっごめんね」
恥ずかしさで少し言葉が詰まる。
ビブラは首を傾げた。
「そう、ならいい」
そう言ってビブラはその場でジャンプする。
そして当たり前の様に数メートル上にある枝に乗った。
「こりゃ無理だわ……」
さっきまでの自分が本当に馬鹿だと思った。
数分後、木の無い広い場所に出た。
ビブラは枝から降りて「休憩」と小さく言った。フラフラの俺を見て気を遣ってくれたのだ。
「疲れた……」
その場にへたり込んで座る。足に溜まった疲れが地面に流れ出る感じがした。
ため息を吐き辺りを見回す。
木が無いからかここら辺りは明るい。この場所だけ長い草が生えているのもそれだろう。
「腹減ったな」
歩いていた時は感じなかったが、俺は今猛烈に腹が減っている。
よくよく考えたら、今日マトモに食べた物はゲロ不味の草ぐらいだ。
そう考えたら一気に腹が鳴り始めた。
「どうしたの?」
俺の腹の虫を聞いたのか、ビブラがこちらに来た。
俺とビブラの距離は10メートルは離れている。そこまで俺の腹の虫が響いたのかと思うと恥ずかしい。
腹は未だ鳴っている。もう止めてくれ。
「お腹すいてるの?」
「あっあぁ」
恥ずかしいが俺は頷いた。するとビブラはナイフを取り出した。
空気を薙ぐような音と共にビヴラはナイフを投げる。
ナイフは意思を持ったかの様に周りの木を躱しながら、枝に止まっていた鳥につき刺さった。
鳥は地面に落ちた。
ビブラは落ちた鳥の首ねっこを掴み、俺の前に突き出した。
「はい」
ビブラは眉一つ動かさず、血が滴り落ちる鳥をこちらに向ける。
「えっあの……まさかこれを」
「うん。食べて」
騒がしかった腹の虫が鳴きやんだ。
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