ルーマニア民族舞曲
記憶は無いはずなのに音楽に関しては色々と覚えている。
近現代の作曲家に、バルトークという作曲家がいた。バルトークは民族音楽の研究者で近現代を代表する作曲家だ。
今俺はバルトークが作曲したルーマニア民族舞曲という曲を弾いている。この曲は6つの作品からなる組曲だ。
「……」
ゆっくりと指を動かす。最初の曲は杖踊り、または棒踊りと言われる曲でとても哀愁のある曲だ。
右手の旋律を淡々と弾き、左手の和音でスパイスをつける。ちょっとナルシストっぽいかな。
個人的だがこの曲は間が大事だと思う。間というのは息継ぎ、即ち音が薄くなり次の音へ移る間の事だ。
短すぎてもダメ、かと言って長すぎると変に聞こえる。
その間に気をつけて弾いているが難しい、だけど楽しい、弾いててワクワクする。
「……ふぅ」
なんとか弾き終わった。ちらっと横目でマスクの女を見ると女と目があった。
早く弾け、そう言ってる目だ。
俺は呼吸を整え次の曲を弾き始めた。
「……」
次の曲は飾り帯の踊りという曲だ。6つの作品全てに言えるが、どれも曲が短い。特にこの飾り帯の踊りは短い。
この曲を弾いていると、草原を思い浮かべてしまう。草原の真ん中で女の人が踊っている、そんな情景を思い浮かべてしまうのだ。
素朴さが溢れているこの曲は大好きだ。
「……」
さて次の曲に入った。
今弾いてる曲は踏み踊りという曲だ。
少しエロい格好をした踊り子がこちらにやって来る、そんな感じの妖しい曲だと思っている。
「……」
そして次の曲を弾く。
この曲は角笛の踊りと呼ばれていた気がする。前の曲と感じは似ているがこの曲は少しロマンチックだ。会いたいけど会えない、そんな感じの曲。
個人的だがこの曲を4番目に持ってきたのは次の曲を盛り上げるためな気がする。
そう次の曲は
「……!」
非常に明るくなるのだ。
先ほどの少し暗い曲とは変わって一気に明るくなるこの曲はルーマニア風ポルカ。
まるで、会いたかった人と再開し喜びの舞を踊っているような曲だ。
二拍子、三拍子とリズムが変わる。そして
「……!!」
次の曲へそのまま移る。会いたかった人を抱き締めるようなこの曲は速い踊りと呼ばれている。前の曲より更に明るく、そして少し切なさを持つ旋律。
右手の強弱を特に意識する、左手は常に一定の音量で右手の邪魔をしないように。
「ふぅん……」
マスク女がそう言った。見れないが声を聞く限りは悪くは無いようだ。
もっと盛り上げてやる、一緒にいこうぜ!どこにいくかは分からないが。
さて阿保な事は考えない。曲はもうすぐ終わる。ここら辺は手拍子をしたくなる様なメロディーだ。
頭の中で踊り子が踊っている。舞え、踊れ、自然と口角が上がり音量が上がった。
「……!」
雑になってしまったが、なんとか弾き終えた。
息を切らして横を見るとマスク女がナイフを持って立っている。もしかして駄目だった⁉︎
「……ひっ殺さないで!」
「何言ってるの?はいこれ」
「……え」
マスク女はこちらにナイフを渡してきた。
「どどどういう事でしょうか?」
「意外と良かった。これはお礼。もしかして一本じゃ足りない?」
そう言って袋から沢山のナイフを取り出すマスク女。いえいえ一本で十分です。
俺はマスク女からナイフを一つ受け取った。
「それはピチカートっていうナイフ。切る、投げる、食べる、何でもありの万能ナイフ。」
「へぇ……ありがとうございます」
食べれるのか、そういえば腹が減っている。俺は思いっきりナイフに噛り付いた。唇が切れた。
「ごめん、冗談。」
「ファッ⁉︎」
マスク女はクスクスと笑う。ふざけるなよ死ぬとこだったぞ。
「ごめんなさい。あなたとても面白い。あなたの名前は?」
「俺は……」
記憶喪失で名前がない事、そしてジョコーゾに入るためにクレッシェン塔に向かっている事を説明した。
「ふーん。分かった」
説明を終えるとマスク女は目を細めそう言った。
「私もナポリの花をとるためにクレッシェン塔に向かっている。もし良かったら、一緒に行かない?」
「えっいいんですか?」
「いいよ。あなた面白い。それに曲が弾ける。楽しい。」
何たる幸運だ。マスク女はちょっと怖いけど良い人みたいだし、断る理由がない。
「おっお願いします。」
「よろしく。私はビヴラ、曲芸師。あと敬語は使わなくていい。多分歳は近いはず」
ビヴラはそう言うとマスクをとった。
その顔は可愛いというより美しいという表現があっていた。
「握手」
ビヴラが手を差し出す。
俺は手をズボンで拭きビヴラの手を握った。
「よろしくビヴラ」
ビヴラはニコッと笑った。
今回はルーマニア民族舞曲でした。
個人的に一番好きなのは最初の棒踊りですね。
ルーマニア民族舞曲は全体を通しても4分ぐらいの非常に短い曲です。
でもどれも個性があってとても面白い曲です。