分かった事
森の中で見つけた木々のない広い空間で、俺は足を休めている。
ここは明るく一際空気が澄んでいる様に感じる。
フレッシュな気分になる筈、だが
「生臭い」
空気を吸うとさっき食べた鳥の血の味を強く感じ、フレッシュとは程遠い暗鬱とした気分になった。
「ねえ。もう食べないの?」
ビヴラが血に塗れながら、鳥の頭らしき物を持ってこちらを見ている。
キョトンとした小顔の女の子が、血塗れの鳥を食べている光景はかなりホラーだ。
「ねぇ食べないの?」
ビヴラが鳥の翼を引き千切ってこちらに差し出した。これは食べろと言っているのと変わらない。
何とか食べない言い訳を探していると腹が鳴った。退路が断たれてしまった。ええいこうなったらままよ。
俺は鳥の翼を口に放り込んだ。血の味が口いっぱいに広がる。分かっていたが不味い。思わずえづいてしまった。
そんな俺とは裏腹にビヴラは美味しそうに鳥の頭を口に入れる。ボリボリと音が聞こえる。なんて逞しい。少しカッコいいと思った。
食べ終わって、ビヴラが血のついた口を拭いこちらを見た。
「今日はもう遅い。ここで野宿する」
気付けば空はオレンジになっている。結構のんびりしすぎた様だ。
ビヴラが腰につけた袋から石を取り出した。
「それは?」
「見てて」
ビヴラが石を空中に放り投げる。石は落ちる事なく空中で静止し僅かな光を発しはじめた。
「これは音石の欠片」
「クラッ……何だ?」
ビヴラは俺の周りに浮かぶ鍵盤を指差した。
「音石はこの世界に存在する特別な石。魔除けの光を放ったり、色々便利。あなたのその古器も音石で出来ている」
古器、そう言えばピムもこの鍵盤の事をそう呼んでいた。
俺はこの鍵盤について何も知らない。もしかしたらビヴラは何か知っているかも。
「クラヴィ……なあビヴラ、古器って何なんだ。この鍵盤について何か知っているか」
俺がそう言うとビヴラは首を横に振った。
「それは大昔に作られた物。この世界で音を鳴らし奏でる物は古器しかない。古器は音石で出来ていると聞かされた。私はそれしか知らない。その鍵盤の詳しい事は分からない。ごめんなさい」
ビヴラが申し訳なさそうな顔をする。
いや、これは記憶の無い俺にとっては貴重な情報だ。
古器は楽器で、俺はそれが弾ける。
薄々感づいていたが、記憶がある時の俺は音楽関係の事をしていたに違いない、俺は今それを確信した。
俺は音楽関係の何かをしようとして、あの洞窟にいたのだろう、そして何かが起き記憶喪失になり、この鍵盤達に出会った。
幾つか疑問が生まれたが、自分という人間が少し分かった気がする。
「いやビヴラありがとう。おかげで色々と分かった気がする。本当にありがとう、感謝している」
「そう?ならいい」
そう言ってビヴラはほんの少し笑った。
ビヴラに会えて本当に良かった、俺は心の底からそう思う。だがそう思うと自分自身を情けなく思った。
俺は何もしていない。助けられてばかりで負んぶに抱っこ。これではいけない、何か出来ないだろうか。
「大丈夫。気にしてない」
「えっ」
「全部声に出てる。丸聞こえ」
顔に血が上っていくのを感じた。
あああ死にたい!恥ずかしい!声に出てた?うっ嘘だろ!
俺が恥ずかしさで悶絶していると、ビヴラが大きく笑った。
「冗談。貴方が考えてそうな事を読んで、適当に言ってみただけ」
「ファッ⁉︎」
「本当に当たるとは思わなかった。やっぱりあなたは面白い。よろしくね」
そう言ってビヴラはまた笑った。
頼もしく、謎の魅力を持つ女の子ビヴラ。
あぁ何か、俺は多分ビヴラには敵わないというか、何も出来ないんだろうな、と思った。
どうもっす。
次はブラームスのラプソディーについて書きたいな。