表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ピアニスタ  作者: ふらふら
10/10

分かった事

 森の中で見つけた木々のない広い空間で、俺は足を休めている。

 ここは明るく一際(ひときわ)空気が澄んでいる様に感じる。

 フレッシュな気分になる筈、だが


「生臭い」


 空気を吸うとさっき食べた鳥の血の味を強く感じ、フレッシュとは程遠い暗鬱とした気分になった。


「ねえ。もう食べないの?」


 ビヴラが血に塗れながら、鳥の頭らしき物を持ってこちらを見ている。

 キョトンとした小顔の女の子が、血塗れの鳥を食べている光景はかなりホラーだ。


「ねぇ食べないの?」


 ビヴラが鳥の翼を引き千切ってこちらに差し出した。これは食べろと言っているのと変わらない。

 何とか食べない言い訳を探していると腹が鳴った。退路が断たれてしまった。ええいこうなったらままよ。

 俺は鳥の翼を口に放り込んだ。血の味が口いっぱいに広がる。分かっていたが不味い。思わずえづいてしまった。

 そんな俺とは裏腹にビヴラは美味しそうに鳥の頭を口に入れる。ボリボリと音が聞こえる。なんて逞しい。少しカッコいいと思った。



 食べ終わって、ビヴラが血のついた口を拭いこちらを見た。


「今日はもう遅い。ここで野宿する」


 気付けば空はオレンジになっている。結構のんびりしすぎた様だ。

 ビヴラが腰につけた袋から石を取り出した。


「それは?」


「見てて」


 ビヴラが石を空中に放り投げる。石は落ちる事なく空中で静止し僅かな光を発しはじめた。


「これは音石(クラック)の欠片」


「クラッ……何だ?」


 ビヴラは俺の周りに浮かぶ鍵盤を指差した。


「音石はこの世界に存在する特別な石。魔除けの光を放ったり、色々便利。あなたのその古器(クラヴィ)も音石で出来ている」


 古器、そう言えばピムもこの鍵盤の事をそう呼んでいた。

 俺はこの鍵盤について何も知らない。もしかしたらビヴラは何か知っているかも。


「クラヴィ……なあビヴラ、古器(クラヴィ)って何なんだ。この鍵盤について何か知っているか」


 俺がそう言うとビヴラは首を横に振った。


「それは大昔に作られた物。この世界で音を鳴らし奏でる物は古器しかない。古器は音石で出来ていると聞かされた。私はそれしか知らない。その鍵盤の詳しい事は分からない。ごめんなさい」


 ビヴラが申し訳なさそうな顔をする。

 いや、これは記憶の無い俺にとっては貴重な情報だ。

 古器は楽器で、俺はそれが弾ける。

 薄々感づいていたが、記憶がある時の俺は音楽関係の事をしていたに違いない、俺は今それを確信した。

 俺は音楽関係の何かをしようとして、あの洞窟にいたのだろう、そして何かが起き記憶喪失になり、この鍵盤達に出会った。

 幾つか疑問が生まれたが、自分という人間が少し分かった気がする。


「いやビヴラありがとう。おかげで色々と分かった気がする。本当にありがとう、感謝している」


「そう?ならいい」


 そう言ってビヴラはほんの少し笑った。

 ビヴラに会えて本当に良かった、俺は心の底からそう思う。だがそう思うと自分自身を情けなく思った。

 俺は何もしていない。助けられてばかりで負んぶに抱っこ。これではいけない、何か出来ないだろうか。


「大丈夫。気にしてない」


「えっ」


「全部声に出てる。丸聞こえ」


 顔に血が上っていくのを感じた。

 あああ死にたい!恥ずかしい!声に出てた?うっ嘘だろ!

 俺が恥ずかしさで悶絶していると、ビヴラが大きく笑った。


「冗談。貴方が考えてそうな事を読んで、適当に言ってみただけ」


「ファッ⁉︎」


「本当に当たるとは思わなかった。やっぱりあなたは面白い。よろしくね」


 そう言ってビヴラはまた笑った。


 頼もしく、謎の魅力を持つ女の子ビヴラ。

 あぁ何か、俺は多分ビヴラには敵わないというか、何も出来ないんだろうな、と思った。

どうもっす。

次はブラームスのラプソディーについて書きたいな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ