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変わりたくない


私の分だけ干されていない洗濯物。

私の分だけ違う料理。

何もつけない食パン一枚な朝ごはん。

私だけ見ることの出来ないテレビ。

漁ってはいけない冷蔵庫。

触ってはいけないタオル。

同じ家にいるのに顔の合わせない大人。

何かと文句を行ってくる歳下。

全部知ってて何もしない父親。

私に同情の声をかけてくれる近所の人達。


もう嫌だ!!!誰か私を助けてよ。












「お母さん!!!」


母親に抱きつく一人の女の子。

年齢は7~8歳ぐらいだろうか。その顔には少し前まで浮かんでいた憎しみ、絶望、悲しみは一切無く幸せそうに笑っている。

なにかおかしいことがあるとすれば、それは女の子が抱きついた母親が女の子よりは歳上だけれども、まだ子供なことだ。



「ふふふっ、また木登りしてきたの?膝がすりむけてる、どこかで転んだりした?」


母親は女の子が怪我をしたことを心配しながらも楽しそうに笑う。


「あのね!今日はたくさん走ったの!!!隣の家のケンくんと、その隣のユカちゃんと鬼ごっこしたんだよ!」


「よかったわね~。」


母親はそう言って女の子の頭を撫でた。

女の子は気持ちよさそうに目を細め、ふわりと笑った。




女の子がこの世界に来てから何度も繰り返したこの光景。女の子が母親に報告する遊びは違うけれど、決まった場所、決まった時間、決まってこの行動を二人は繰り返す。

しかし、それも今日で終わり。

何故なら女の子がルールを破ったからだ。



一人の少年が足音をたてずに寝静まった女の子の部屋を訪れた。ベットに近づくと幸せそうに寝ている女の子の姿が確認される。少年は「バイバイ」とつぶやいて懐からナイフを取り出す。その瞬間女の子の目が開いて、むくりと起き上がった。


「お待ちしておりましたピーターさん」


女の子は幸せそうにふわりと笑う。


「君はこれがわかっててとあの場所に立ち入ったのかい?」


少年の問に女の子はコクリと頷く。その反応を見た少年が首を傾げる。


「どうして?」



「私はーーーー」












私の名前は皆田 綾普通の女の子だった。

しかし、私は小学二年生の時の親の離婚により少し変わった。


私は父親についていくことになった。この時の私母親の方が好きだったけど同じくらい父親が大好きだった。小学三年生になって新しい母親が家に来るまでは。新しい母親は私よりも歳下な子供を釣れていた。その子の名前は愛奈目が大きくてとてもかわいい子だった。

愛奈は我儘だったけど、新しい母親は優しくしてくれたし、初めのうちはとても楽しく暮らせていたと思う。

でも、どんどん愛奈の我儘はエスカレートしていき私の物を盗むようになった。

初めは流行っていたゲームの着せ替えカード、それを父親に言って取り返したら次は、友達からもらったキーホルダー、最後には実の母親からもらった大切なネックレスだった。私は流石に泣き叫びそれを聞いた父親と母親が妹を叱った。その次の日、私は母親から一年に一回必ず会っていた実の母親と会うことをやめるように言われた。

私はそれを了承した。新しい家庭を築かなきゃいけないんだから仕方のないことだろうと。


それから私は母親が変わって変わった家のルールにやっと馴染みはじめていた。ご飯の前にお風呂に入って自分の食器は自分で洗う、お手伝い頑張ったら頑張った分だけお小遣いをもらえる。妹の面倒はおねえちゃんがみなきゃいけない。それだけだったけど私には大変だった。それでもなんとか慣れ始めた。けれど一つだけどうしても出来ないことがあった。妹の面倒をみることだ。妹は何かと私に反発してくる。外で遊んで夕方になったら家に帰ろうって手を引くと、お姉ちゃん面しないで先に帰ってって言われて、無理やり連れて帰ると泣かれて私が怒られる。連れて帰んなくても怒られる。妹に頼まれて遊ぶのを中断して家でお風呂を磨いていると、帰ってきたお母さんに何であんたが先帰ってきてるの?って怒られる。

最近は私抜きで外出することが増えてきた家族、私が先に食べることが多くなったご飯。私は知っている、私が先にまずいふりかけとご飯を食べさせられた日家族はみんなでカレーを食べていたこと。

朝ごはんの食パンにつけるジャムを探してると後ろから来たお母さんに冷蔵庫漁らないでくれる?って言われた。みんなでリビングでテレビを見てたから私も混ざろうとソファーに座ったら自分たちの部屋に戻っていってしまった。友達と遊びに行くのに妹を連れて行かなきゃいけなくて、連れて行きたくないのにつれていっても私の悪口を私の友達に言う妹。

中学生になった時には洗濯物を干してくれなくなったし、朝顔洗って近くのタオルで顔を拭くと、臭くなるんだけど?触らないでくれる?って言われた。


そんな日々を積み重ね、私は高校生になった。すっかり根暗になった私は周りとも馴染めるはずがなくボッチな日々も続いた。何度も死のうとした。包丁握って胸に刺そうとした。高いところから落ちようとした。恐くてどれも出来ずに終わった。この世界に居たくないって思った。ベットで何度も泣いてあの頃に戻りたいって願った。近所の人や相談した学校の先生などは私に同情してくれたし、辛いことがあったぶん人より大人になるのが早くなるって言われた。


でも本当は違うんだ。

私の心はあの時から止まったままだった。実のお母さんとお父さんと三人で暮らしたあの時から全く変わってない。周りが大人になっていくのが怖くて、私は何度も願った。


「大人になりたくない、子供のままでいたい」



そうしたら何故かこの世界に居た。

それからは幸せだった。血は繋がってないけどお母さんがいてお父さんがいて優しく私を甘やかしてくれる。何年も何十回も幸せを続けた。はじめは心が満たされて、幸せだって思った。しかし、ずっと続けてると変化のない幸せがとても悲しくなった。きっと私が満たされることはもうこの先一生無いのだろう。


そしてある時思い出したんだ、この世界に来た時頭に刻まれたルールを。


だから私は侵入した立入禁止の場所に。












「ピーターさんはこの世界に居て楽しい?」


「もちろん僕は楽しいよ!僕はこの世界大好きだからね!」


「そっか、それならいいんだ」



その言葉を言ってアヤはピーターに微笑んだ。

次の瞬間ピーターはアヤの胸にナイフを突き刺す。

血は出ないけれど確実にアヤの目からは光が消えていた。


ナイフを刺した時聞こえた言葉は「ありがとう、ごめんなさい」。それはきっと彼女に優しく接してくれたすべての人に対する言葉なのだろう。





「私は、大嫌いな私自身から変化したくなっちゃった。」

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