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狼の夢見草  作者: 遠野 紗
この数日
7/16

桜並木で

「それは…」

 単純そうに見えて複雑だね、と能登のとは苦笑した。

「悩みはその彼の事か」

 玻瑠はるはこくりと頷く。

「どうしたら、救えるだろうって…」

 ポツリと呟く玻瑠に「吉野よしのは真っ直ぐ吉野だね」とからかうように能登が言った。


「もういっそのこと聞いてみたら?何があったのか」

「え?」

 能登はすらりとした足を組み変えた。

「人に語ることで綺麗に終わることもある」

「でも…」

「彼を傷付けるかもしれないから怖い?あたしは吉野が慎重になりすぎてるんじゃないかと思うけどな」

 ひらひら舞う桜の花びらを目で追いながら、能登は言った。

「確かに、あたしたち看護師は患者に寄り添う必要があるからね。心の傷に触れるような事を躊躇するのは分かる。でも、あんたたちは違うんでしょ?」


 患者と看護師っていう立場とは…。


 その一言にハッとした。


 違う?本当に違うって言えるだろうか。


 あの空白の時を経て、こんと玻瑠の関係は変わってしまった。以前のように気が置けない相手ではなくなった。

「幼なじみなんでしょ?」


 それでも、この関係は幼なじみといえるだろうか。


 玻瑠は眉を下げた。

「またそんな顔をする」

 隣で能登が苦笑している。

「大丈夫だって。それにもしかしたら、もう時効かもしれないよ?」

「時効…?」

「そう。時効」

 紺が両親を亡くした日から十六年、高校で再会した日から九年が経った。

「…聞いて、みようかな?」

 ぽそりと呟いた玻瑠に「そうしな」と能登が後押しした。

 その言葉に小さく笑いながら、ふと視線をずらすと足元に黄色い蒲公英たんぽぽが咲いているのが見えた。そっと手を伸ばしてその道草に触れる。ちょい、と花を裏返して見ると彼が教えてくれた知識が蘇る。

 これは、日本の。

 玻瑠はふわりと笑った。


「能登先輩、整形外科勤務でしたよね?」

「そうだよ。…部屋番号?」

 さすが能登先輩だ。察しがいい。

「はい。分かります?」

「分かるかどうかは人によるけど…。名前は?」

 整形外科に知り合いがいて良かった。

大神おおがみ紺って、知ってますか?」

 玻瑠は彼の名前を口にした。

「え?吉野の幼なじみって大神さん?」

 鳩が豆鉄砲をくらったような顔をして聞き返す能登に、玻瑠は首を傾げる。

「言ってませんでした?」

「言ってないよ。話の中では『彼』としか言ってなかった」

 玻瑠は苦笑した。言ったつもりだと思っていた。

「もしかして、能登先輩の担当でした?」

「いいや。違うけど、分かる」

 その返答に首を傾げる。

「結構有名だよ。入院当初は若い看護師の注目の的だったしね。憂いを帯びた綺麗な人ってことで」

 ニカリと笑って言う能登に、溜息をついた。


 なんて注目のされ方をしてるんだか…あいつは。


 モテるのは相変わらずだ、と思い出して玻瑠はフッと笑った。隣で「彼の幼なじみは大変だねぇ」と能登が茶化している。

「確かに吉野が気にするのが分かるな。いろんな意味で。…で、大神さんの部屋番号だっけ?」

「そうですよ。前置きが長かったですね、先輩」

「304。ひとり部屋だよ」


 存分に話しておいで。


 桜が舞い散る中で、能登は優しく微笑んだ。


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