道草講座
「それ」
「『それ』って、この道端に生えてるとげとげの紅い花?」
「ヒレアザミ。山野に生えているノアザミと違ってこの部分、花序を包む鱗片状の葉が反り返っている」
「待って待って!カジョって、何?」
「…。複数の花がまとまっている時、その配列様式のこと」
「…。ん?」
「はぁ…。植物好きならここまでかみ砕いた説明くらい分かるようにしておいてください」
「大神くんがおかしいんだって!」
「はははっ。紺、今日は摘もうとしないんだ。昨日のノアザミで懲りたか。ヒレアザミも刺がいっぱいあるもんな」
「ナズナ。アブラナ科の越年草、春の七草の一つ、果実は偏平で三角形」
「知ってる、ペンペングサだよね。懐かしいな」
「遊んだことがあるんですか?」
「失礼なっ。草花遊びくらい人並みに、いや、それ以上にしてます。ま、私はこの三角形のを丁度いいところまで下げるのが苦手で、大抵の場合鳴らなかったけどねぇ」
「そうですか」
「なにー?そのどうでもいいような返事」
「気のせいじゃないですか?」
「いや、気のせいじゃないね。…そうだ、やってみない?鳴るか鳴らないか」
「…。嫌です」
「そんなこと言わずに」
「あ、鳴ってる!」
「お。器用だね、玻瑠ちゃん。紺は?ははっ、またちぎっちゃったかぁ」
「紺、不器用ー」
「あ、相撲のやつだ」
「オオバコ。日当たりのいい道端や荒れ地などに普通に見られる多年草で、人や車に踏み付けられる所に生える」
「踏み付けられる所って…。強いねぇ」
「皆強いさ。道草は」
「道草って…。道草を食う、とかいう?」
「その意味もありますが、道端に生えてる草のことです。父が…、雑草という言葉が嫌いだったみたいで…」
「だから、道草。でも生えてるのが道端じゃないものは?空地とか」
「原野や山林に自然に生えてる野草以外は、全て拡大解釈して道草って言ってました。空地でも田畑でも庭でも」
「…植物学者さんがそんな事で良かったのかな…?」
「家でだけです」
「雑草って雑多な草って書くんだよ?ここに生えてる全部の草にちゃんとした名前がある。それなら道草って言う方がなんかいいじゃないか。父さんのちょっとしたこだわりだよ」
「これ、綺麗な花だよね。黄色の花びらに光沢があって」
「ウマノアシガタ。またの名をキンポウゲ」
「キンポウゲは何となく聞いたことあるけど…、ウマノアシガタ?」
「葉の形が馬の蹄に似てるから」
「似てるかなぁ?」
「また、キンポウゲとは本来、八重咲きの栽培種のことを指します」
「そうなんだ…。よっ!歩く植物図鑑!」
「…。茶化すな」
「はい。すみません」
「あぁ、因みにそれ…」
「ウマノアシガタ、綺麗だけど有毒植物だよ。紺」