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狼の夢見草  作者: 遠野 紗
彼の記憶
11/16

写真部

 明かり取りの窓から光が差し込む。木材の香りとゆったりとした時の流れ。


「こちら、新しく入部してくれる一年生の大神紺おおがみ こんくん」

 由葵ゆきが紹介する声に軽く頭を下げる。

「で、あちらは君と同じ一年生の遠山雅臣とおやま まさおみくん」

「よろしく」

 写真の整理をしていたのか、椅子に座ったまま遠山はにこりと笑った。

「そんな冷たい目ぇしないでよ。大神」

「したくもなるさ。なんで言わなかったんだ」

「何となく。先輩も先輩で強引だったからこれ以上俺から言うこともないかなって。外から見とくの好きだし」

「お前も大概面倒臭い性格だな」

「そ?」

 紺は一つ溜息をついた。


「部員はこれで全部。活動についてはこうやって毎週月曜にミーティングがあるくらいね。後は適当に写真撮って印刷、もしくは現像してって感じ。質問はある?」

「特には」

 「説明終了」と由葵は呟いて遠山の向かいの椅子に座った。


「ところで、先輩はなんで大神にこだわったんです?」

 この数日、本当に何も知らず紺を呼びに来ていたらしい。

「なんでって…」

 由葵はそこで躊躇ちゅうちょして言葉を切ると、紺をそっと伺った。あれだけ騒いでおいて今更だ。


 面白い人…。


「オレが植物に詳しいからだ」

「植物?あぁ、なるほど。道理で、植物写真家になるのが夢の先輩が目をつける訳だ」

「目をつけるって…」

 不満げな由葵に遠山は、だってそうでしょう?、とにこりと笑った。その笑みに由葵は押し黙る。

「ってことは、大神は写真取らないの?」

「基本的に」

「そう」

 ただ一言そう返答して遠山は写真の整理を再開した。


「じゃ、オレはこれで」

 用は済んだとばかりにその場を去ろうとする紺に、由葵は慌てて後ろから声をかけた。

「明日、放課後に撮影するからついてきて!」

 その声に一瞬立ち止まることで返答をする。


 背中でパタンと扉を閉じた音がした。扉をふと見れば「写真部」 と書かれた貼紙。素っ気ない標識、と小さく笑い、紺は歩き始めた。人のいない廊下に紺の足音が響く。写真部の部室と資料室と化した空き教室くらいしかない最果てに放課後来る人は滅多にいない。吹奏楽部の奏でる何処か悲しい音色が微かに聞こえる。


 一体、何をしているんだろう…


 その音色のせいか、時刻、はたまた学校の持つ独特な雰囲気のせいか、紺はこの一ヶ月を回顧した。

 迷惑なくらい付きまとわれ、植物について教えてほしいと頼まれ、向かい合うしかないと言われ、あれ程避けていた事に正面から向き合ってみようと写真部に入部した。


 何だって写真部?


 下駄箱へ向かう階段を降りながら、フッと笑う。


 真山先輩も真山先輩だ。植物について教えて欲しかったなら園芸部にでも頼めば良かったのに。

 オレも向き合うなら園芸部でもよかったのに。


 「花は毎年咲くから」という由葵の静かな声が脳裏に響いた。


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