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狼の夢見草  作者: 遠野 紗
prologue
1/16

ハルの中で

「どしたの?そんな浮かない顔してさ」


 その声に驚いて振り返る。

 そっと抜けたつもりだったが、気づかれていたらしい。

「…そんな顔、してます?」

「してないつもり?」

 呆れたように聞き返されて、玻瑠はるは苦笑した。


 自覚はある。だから、抜けてきた。折角の花見の席を台無しにしてはいけないから。


「気づかれてないとでも思ってたの?」


 全く気付かれないとは思っていなかったけれど、誰かが追って来るとも思っていなかった。


「そもそも私を誰だと思ってる訳?」

 悪戯いたずらっぽくそう問う彼女に、そうだったと大学時代の事を思い出す。玻瑠は笑いながら、

「相手の表情から想像して感情を読み取る。その正確さから、妖怪、さとりと呼ばれた能登のと先輩です」

と答えた。

「ご明答。事情までは分かんないけどさ、あんたが何か思い悩んでるのくらい手に取る様に分かるよ?」

 あんたは感情が顔に出やすいから尚更分かり易い、と能登が大学時代に言った台詞せりふを思い出す。玻瑠は苦笑しながら上を向いた。


 散りかけの桜が春の淡い青空に浮かんでいる。花見をするには少し遅かったかもしれない。でもまあ、看護師という職業柄仕方があるまい。


「少し…いや、結構長くなりますけど」

「問題ない。時間がなくなればまた話せばいい」

 豪快に言う能登に、先輩は先輩だと小さく笑う。


「…それじゃぁ」


 側にあったベンチに近寄り、桜の花弁を払い落として二人は座った。


 また一枚また一枚と薄紅が舞い落ちる。少し向こうで、抜け出して来た花見の席で友人達が楽しそうに談笑している。目の前をひらひらと舞う花びらを目で追って、玻瑠はそのまま視線を地面に落とした。


 改めて考えてみると、私に花見は向いていないのかもしれない。


 玻瑠にとって、桜の季節というのは出会いよりも別れの方が色濃かった。ずっと。ここ何年も。桜を見る度に探していたのだ。

 足元で蒲公英たんぽぽが揺れている。

 その光景を見ながら、一連の日々を思い出しながら、玻瑠はそっと言の葉を紡ぎ始めた。まるで独り言のように。



 彼が、「神様を探してる」って言ってたんです−−


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