もう、死んでもいい。
短編「もう、死ねばいい。」の続きになります。弟視点。
前作を読んでいる方が分かりやすいです。
姉が変だ。
まあ、僕の姉はもともと少し変わっていた。
所謂『オタク』っていうの?
ゲーマーで声フェチだった。
本人は隠してるつもりだったみたいだけど、一緒に暮らしている家族に隠し通せる訳が無い。
なんでも姉の好むゲームは乙女ゲームというらしい。
つまりは、少女漫画のゲーム版だろう。
漫画も少年漫画と少女漫画とで違うように、ゲームにも男向けと女向けがあるって事だ。
僕もあまり詳しくはないんだけど、これくらいの解釈で合っていると思う。多分。
僕だって、モン●ンとかパ●ドラとかならやったことあるんだけどね。
とにかく、そんな姉が最近、輪を掛けて変になっていた。
僕とまともに話してくれなくなったのだ。
最初に思ったのは、あれ、嫌われたのか?だった。
といっても、長年付き合ってきた姉弟だ。何か気に入らないことを僕がしてしまってしばらく口を聞いてもらえない、あるいはその逆の場合とか、今までだって普通にあった。何日かしたらお互いにしょうがないからもう水に流すか、という感じでなし崩しに元の状態に戻るのが当たり前だった。
だって家族だからね。
両親が共働きだったせいで、僕と姉は子供の頃から二人で過ごす事が多かった。
シスコン、ブラコンという程ではないけれど、まあ比較的仲の良い姉弟といっても良かったと思う。
それが、僕の声を聴いただけで逃げ出すようになった。
顔を真っ赤にして、目を潤ませて、走り去っていくのだ。実の姉弟じゃなかったら、この子は僕に気があるんじゃないかと思うところだろう。だが、うちに限ってそんな事有り得ない。ドラマや漫画じゃあるまいし。
かと思うと、僕が電話で友人と話している声を、物陰からじっと聴いてたりする。
そこ。何気ないふり装ってても、聞き耳立ててるの、バレバレだから。
「姉ちゃん、ちょっと、話し合おうか」
さすがに僕も痺れを切らして、姉の首根っこ捕まえてみた。この期に及んでまだジタバタ逃げようとするから、声に怒りを込めて「姉ちゃん?」と言うと、ピタリと動きが止まった。
なんだこの面白い生き物。
「なんなの、最近の姉ちゃんは。僕なんかした?怒ってるなら、言ってくれないと分かんないんだけど」
「……いや、何も、してないです……」
何故に敬語。
「じゃなんなの。明らかに態度おかしいよね?」
「スミマセン。変です。私が変なんです」
「だからなんで敬語使ってんの。姉弟でしょ?どうしちゃったの姉ちゃんは」
僕の心配する気持ちが伝わったのか、姉は、何かを説明しようとして、しばらく迷ってやめた。それから、斜め上なお願い事をしてきた。
「………ちょっと、名前、呼んでみて」
「え?何?……姉ちゃん?」
「違う、名前。呼び捨てで」
「……千早?」
「うわ………………………………………………………………………もう私、死んでもいい」
その瞬間の姉が可愛く見えた事は、秘密だ。
「なにこれ、キンシンソーカン?」
「違う!絶対に違う!!」
顔を真っ赤にして否定する姉が面白い。僕は悪ノリしてしまった。
「まさか僕の事、好きなの?」
「違うって!これは絶対、絶対に、恋愛感情なんかじゃ、ないんだからね!!」
何かのフラグが立ったり……し、しないんだからね!!