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一人百物語

回るんですぅ!

作者: 犬猫夜行
掲載日:2026/07/18


私の弟は某電鉄会社の車庫で、車体整備士をしていた。


車庫に入って来るのは、大概は通常の整備作業を行う車両だが、たまに事故/自殺で修理・清掃を行う車両も入庫してくる。

事故であれば車体が損傷しているだけだが、自殺・人身事故を起こした車両は新人整備員や気の弱い者は腰を抜かしてしまう様な状態のものが多いという。

弟いわく


運転席の強化ガラスに蜘蛛の巣の様なヒビが大きく派手に走り、ベッコリと凹んで血がついていたり


車体一面に血をなすり付けた様になっているところどころに

何かの破片がくっついていてその破片に髪の毛らしきものが生えていたり


乗客を乗せる箱(車体)の部分を吊り上げて車輪部分を整備していたら部品の間から

人間の“部分"が丸々原形のまま出て来たり…


それで整備中に見つかった“部分"はどうするのかというと、本当は警察に届ないといけないらしいのだが、どこの部分かわからない様な破片くらいのものは車庫敷地内に“そういうもの”を埋める場所があって、そこに埋めて線香をあげて手を合わせるのだという。


「まあそういう“部分"っていうのも何だけど、一番気分が悪くなるのは“におい"でさ」

と弟は言う。

「血まみれで入庫してきてすぐに清掃できればいいんだけど、まだ検証が済んでないとかで手がつけられない時もあってさ」


そういう時は、許可が出るまでそのままの状態で車庫に保管される事になる。


「夏なんかたちまちにおってくるんだよ。それがなんとも言えない、とにかく生理的に受け付けられないにおいでさ」

そういう車両が入庫している時はにおいもだが、さすがに夜になると誰も近付かないという。

そういう時にはやはり何かあったりするの?と聞くと

「まぁ今まで取り立てて凄い話は聞いた事は無いけど。でも車庫や“部分"を埋めた場所からうめき声が聞こえたとか、人影を見たとか、火の玉が飛んだ、とかいうのは時々聞くよ」

で、そういった事と関係あるのかはわからないけどね、とこれはその弟から聞いた話。


何年か前の夏の昼休み。

弟と同僚たち数人は昼食の後、車庫の日陰で雑談をしていた。

そこへ


『ふ、ふぅわゎわゎわゎわぁ~っ!』


弟の後輩整備員の、安本さんがうわずったわけのわからない声をあげ、血相を変えて飛んで来た。

『え?』

と皆でその安本さんを見ると、安本さんは

『くくく、首がっ』

と何やら凄い形相で泣きそうな顔をして言った。

『首?』

『は、はいぃ!く、首、首が……回るんですぅっ!』

『え?…うん、回るよ?』

弟は安本さんが何を言おうとしているのかわからず、安本さんの顔に両手を当てて彼の首をクリクリと回した。

『ちち、違いますっ!僕のじゃなくてっ!あっち、あっちで!首が、首が回ってるんですぅっ!』

安本さんは車庫近くの人家のあたりを指さした。

安本さんが言うには……


安本さんは昼食の後、近所の自販機にタバコを買いに行った。

出て来たタバコを胸ポケットに入れて車庫に帰ろうとして、ふと車庫と細い私道を挟んで向かい合っている人家のブロック塀のあたりを見ると……

塀の上で、何かが動いている?

(何だ?)

と安本さんが見ると、それは


首……人の頭、だったという。


男の首か女の首かは分からなかったが、首が、塀のあたりをくるくると踊る様に舞っていたという。

安本さんは、はじめ塀の向こうに誰かがいるのだろうと思った。

それで数歩近付いて更によく見てみた。

塀の上で舞っているのは首だけ、だったという。

それで安本さんは恐ろしくなり、必死に皆のいる車庫に駆けて来たのだという。

安本さんはその日定時で早々と帰ってしまい、翌日には熱を出して数日寝込んでしまった。


「まあ整備場の敷地で起った事じゃないけど。でも昔はそのあたりも整備場だったらしいし。何かあるのかも」

と、弟は言った。

ちなみに、首が舞っていたところで以後同じ様なものを見た人はいないらしい。



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