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ホワイトニング戦記

作者: 原太
掲載日:2026/02/15

 回廊を駆け抜ける一組の影が黄昏時に映える。

 11歳くらいの見た目の少女が、プラチナブロンドで刈り上げ頭の幼い男児をおんぶしながら全速力で走る。

(どうしてこんなことに……じゃが、せめてこの子だけでも……!)

 しかし、少女が息を切らすことはなかった。

 城を出て、外の壁に立てかけていた箒にそのまま跨ると、彗星の如く暮れなずむ空を一直線に飛んでいった。


 あれから数年。少女に救われた少年は今、剣術の練習に励んでいた。

 海辺にぽつんと佇む一軒家の側で、2本の木の棒を、両手に1本ずつ持ち、虚空を相手に戦っている。

「えい!やあ!とおっ!」

 掛け声と共に繰り出す突きや払い、振り下ろしは無駄な動きが無く、まるで本当に敵がいるようだった。

 それを屋根の上に腰掛けながら、興味深そうに見守る、ゆったりとした黒いローブを着たとんがり帽子に尖った耳の少女。

「ロビン、そろそろ飯の支度をするぞ」

「はい、ただいま行きます!」

 ロビンと呼ばれた少年は、爽やかに返事をして、家に戻った。

 家では、ロビンが作るクラムチャウダーのいい匂いが家の中を埋め尽くしていた。

 そこへ、水色の布で両目を隠した、ボブカットの青い髪で右耳だけ尖った少女が、香りに釣られて部屋から出てきた。

「いい匂い。これってもしかしてクラムチャウダー?」

「ああ、マリアが好きな貝がいっぱいのね!」

 ロビンが笑顔で答える。しかし、マリアにその微笑みは見えない。

 いや、正確には『何も』見えない。

 マリアは盲目で、常に右手に紫檀で出来た杖を持っている。その先で床を軽く叩きながらテーブルに向かう。

 そして椅子を引き、テーブルの前に座る。

 ロビンも3つの器にクラムチャウダーを注ぎ、テーブルの上に置く。

 そこへもう1人、先程の黒いローブに尖った耳の少女が扉から入ってきた。しかし、とんがり帽子を脱いでいるため、両サイドに2本作った三つ編みの緑髪とアースアイが目立っている。

 その少女も席につき、夕食が始まった。


 次の日の朝、朝食を終えたロビンが海を背に立っていると、例の両耳が尖った少女がロビンの前に現れた。格好はいつもの黒いローブにとんがり帽子だ。

「ロビン、今日はいつもの修行とはちと違う。おぬしにはある『動物』を捕まえてほしい。それも『生かして』じゃ。無論、生きて帰ることを前提にな」

「分かりました。で、その『動物』はどこにいるのですか?」

「おぬしの正面の森の中におるぞ」

「あの森ですか……いつもより範囲が狭いですね」

「じゃがそいつは一筋縄ではいかんからな、気を引き締めてかかれよ」

「はい!」

 かくして、ロビンは森に入っていった。

 森の中をしばらく歩いていると、1本の大木の前に立ったがその瞬間、ドッドッドっと音を起てながら何かが近づいてきた。

 後ろを振り向くと、真っ白な何かが土煙を撒き上げながらこちらに向かってきた。

 見た目だけならただの白馬だろうが、頭から1本の真っ直ぐ尖った角が生えている。ユニコーンだ。

 しかしロビンはちっとも慌てない。それどころか声を上げて挑発する。

「こっちだ!」

 ユニコーンは先程にも増して速く突進する。だがロビンは落ち着き払っている。

 そして、ユニコーンが自らの角を前方に突き出し勢いよく飛び込んできたタイミングで、ロビンは横に跳んだ。

 当然、ユニコーンの前方には大木しかないので、ユニコーンの角は根元まで大木に突き刺さった。

 そのためユニコーンは、幹に頭を打ちつけ、膝から崩れ落ちながら気絶した。

 この隙に、ロビンはユニコーンの背に跨り、その首元に手を当てると、自らの魔力を流し込んだ。その時の魔力は、白く光り輝いていた。それは例えるなら、優しく、包み込まれるような『愛』だった。

 やがて、ユニコーンが目覚め、ロビンを乗せたまま立ち上がり、自ら後ろに下がり、幹から角を引き抜いた。

 ロビンはユニコーンの腹の横をさすって海岸の方を指差し、「あっちの海岸の家に一緒に帰ろう」と促した。

 その言葉に応えるように、ユニコーンは走り出した。

「師匠、ただいま戻りました」

「おお、思ったより早かったのう」

 外で待っていた少女もとい師匠は、ソファーに座っているかのように宙に浮かぶ箒に乗っていた。その右肩には、彼女の使い魔の3本足のカラスが停まっていた。

 3人が昼食を済ませると、魔法の修行が始まった。

「2人とも、わしがこの石を宙に放るから、これをそれぞれ得意な魔法で撃ち落とすのじゃ」

 言うが早いか、師匠は拳大の石をひょいと杖で打ち上げた。まずはマリアが杖を使い、魔法で海の水呼び寄せ、『目』を作った。そしてその『目』で空中の石を捉えると、その海水の一部を水鉄砲のように飛ばし、石に当てた。水を食らった石は音を立てて落下し、このまま地面に打ち付けられると思われたが、その直前に、ロビンが向けた剣の柄から放たれた光弾を受け、爆散した。

「うむ、2人ともだいぶ上達したのう。この調子で励めよ」

「「はい!」」


 修行の最中、マリアは家に戻る。もちろんそれには理由がある。

「クレア、ただいま!」

「くうくう!」

 大きめの籠の中には、まだ幼い、灰色のドラゴンが鎮座している。

 マリアは棚からカレイの燻製を取り出し、クレアに食べさせた。

「どう?美味しい?」

「くうー!」

 クレアは美味しそうに全部食べた。

 マリアはクレアを本当に可愛がっていたが、それもそのはず。生まれつき盲目で、おまけにハーフエルフという被差別的境遇のマリアにとって、共に暮らすロビンと、育ての親で祖母でもある師匠を除き、心から通じ合える友達のような存在がクレアなのだから。

 マリアとクレアの出会いはマリアの幼少期にまで遡る。

 師匠が、遠出した先で、親とはぐれ、怪我をしていたクレアの傷を魔法で治癒し、家に連れ帰り、「塞ぎ込んでいたマリアの友達になるように」と、家族に迎え入れた。

 それが功を奏し、マリアとクレアは大の仲良しになった。


 それから年月は経ち、2人は成人した。

「2人とも、今までよく頑張った。わしから教えることはもうない。後は分かるな?」

「はい、父の仇を討ち、国民を救うことですね」

 真剣な顔で答えるロビン。

 そして、仇という言葉を聞き、表情が変わるマリア。

 しかし、考えてみれば、最初からそのために過酷な修行に励んできた。

「じゃが、あれはただ正面から立ち向かっても勝てん。まず、あれには手下の小鬼どもがおる。おぬしらには足止め程度にしかならんじゃろうが、油断は禁物じゃ。じゃから、こちらも集団で挑むことにした。来い!」

 師匠が持っていた犬笛を鳴らすと、土煙を上げながら緑色の何かがこちらに向かってきた。

 最初は草の塊かと2人は思ったが、よく見るとそれはくりくりした目玉がついていて、桃色の舌も覗いていた。

 ここまで来れば皆が口を揃えてこう言うだろう。犬だ。長い緑色の体毛の犬の群れだ。

「こいつらはカーシーという妖精じゃ。これだけ居ればおぬしらは安心して親玉を討ち取れるじゃろう」

「ワン!」

 カーシーの1匹が元気に吠えた。

「じゃがまずは、夕食を食べて寝よう。決戦は明日じゃ」


 翌朝、誰よりも早く起きた師匠は、使い魔のカラスを空に放ち、城へ偵察に向かわせた。

 カラスは城下町をくまなく見て回り、城の窓べりに来ると、そこから中の様子を伺う。

 そこには、玉座に座って食事を楽しむ1体のオーガとゴブリンの集団がいた。

 しかし、その食事というのは、ぶつ切りにされた人間の肉だった。

 それを皆、笑いながらばりばりと食べていた。

 部位を楽しむ訳でもなく、かと言って飢えを満たすようでもない、普通の食事。

 そんな、食べられているものが異質なだけで、彼らにとっては当たり前の食事の風景だった。

 食事が済むと、オーガとゴブリン達は広間を抜けた。

 それを見届けた後、カラスは飛び立った。


 カラスは師匠の元へ戻り、カラス語で人や町の様子を伝えた。

「ふむ……やはりそうか」

「師匠、支度が整いました」

 質素な服装に身を包んだ2人が出てきた。

「ロビン、マリア。準備はいいな?」

「「はい!」」

「それとじゃ、絶対に死ぬなよ?」

 そう言って師匠がロビンに犬笛を渡す。

「分かりました」

「言われずともよ」

 こうして2人は、ユニコーンの背に乗り、城へ向かっていった。

 それに続く形で、カーシーの群れもついて行った。

 門の前に着くと、門番に止められた。

「お前達は誰だ?名を名乗れ」

「自分はロビンと言うものです。こちらは共のものです」

「ロビン?どこかで聞いたような……」

「苗字はホワイトニングと申します」

「⁉︎ホワイトニング……と言うことは、貴方は!」

「今はまだ騒がず。それと、門は開けたままで」

 ロビンは放心状態の門番2人にそう言い残すと、ユニコーンとともに城下へ入っていった。

 そして城門に差し掛かると同じ手段で開けさせ、王の前に跪いた。

「お前たちは誰だ?表を上げよ」

「お久しぶりです、父上」

「……父上?」

「はい、私はあなたの息子です」

「息子……?そんなやついたか?」

 考え込む王を見るや否や、ロビンは高らかに笑い出した。

「これはこれは!一国一城の主ともあろうお方が、自分の子の名を忘れるとは!」

「何がおかしい!」

「王もついに耄碌したか!」

「貴様!王に向かってその口はなんだ!」

「そうでなければ、お前は偽物だ!王の名を騙る不届きものとはお前のことだ!」

「おのれらは何者だ!」

「ならば名乗ろう、俺はロビン・ホワイトニング。このホワイトニング王国の王子で、王室魔法使いソフィアの弟子だ!」

「同じくマリア。ソフィアの孫よ!」

「おのれえええええ!無礼者どもめ!ものども、やってしまえ!」

 逆上した王が叫ぶと、広間の扉からゴブリンどもが飛び出した。皆、その手に棍棒を持っている。

 すかさずロビンが師匠から貰った犬笛を鳴らすと、広間に通じる大きな扉が豪快に開けられ、カーシー達が飛び込んできた。

 敵の急な援軍にゴブリンどももオーガの大将も驚いている。

 その隙をカーシー達が逃すわけもなく、その牙でゴブリンの骨をを噛み砕いたり、喉笛を掻き切ったり。

 そして、雑兵はカーシーに任せて、2人は王に歩み寄る。

「父上の仇、覚悟!」

 ロビンは剣の柄を2本取り出し、魔力を込める、すると、両手の柄から1本づつ、光の刃が顕現した。

「うううううおおおおお!」

 王が雄叫びを上げると、その体がむくむくと膨れ上がり、巨大なオーガに変わった。

「があああああ!」

 オーガは壁にかけられている斧を手に取り、叫びながら振り回し、こちらに向かってきた。

「来るぞ、マリア!」

「ええ!」

 マリアが例の如く水で『目』を作り、ロビンがオーガに飛び込む。

 オーガの懐に潜り込んだロビンは斬撃を連続で放つが、オーガの分厚い皮膚は致命傷を拒んでいる。

 それでも攻撃を止めないロビンを水魔法で助けるマリア。

 オーガに水鉄砲を浴びせ、注意を引き付け、その隙にロビンが光刃を浴びせる。


 その頃、マリアの部屋から、金属を切断するような音が聞こえ、不審に思った師匠もといソフィアが部屋に入ると、クレアが自らを閉じ込めていた籠を壊し、外に出ていた。

「お前は……マリアの……」

 その言葉を遮るように、クレアは部屋を飛び出し、城へ向かって羽ばたいて行った。


 どのくらい時間が経っただろうか。2人とも疲弊しきっていた。

 しかし敵の大将は悠然と立っていた。

(流石に……このままでは……!)

 ロビンの頬を汗が一筋流れる。その時だった。

 パリイイイイイン!

 城の広間のガラスが1枚割れ、そこから灰色の影が飛び込んだ。

「クレア⁉︎」

 驚くマリア。だが、今はそれどころではない。

「マリア!」

 慌ててオーガに向き直るマリア。だが、ロビンが左から来た斧の一撃を2本の剣で受け止めた隙に、オーガはもう片方の手でロビンを捕まえた。


 その間、クレアはゴブリンの死体を食べまくっていた。

 その体は死骸を平らげる毎に、どんどん大きくなっている。


「ロビン!」

 マリアがオーガに鷲掴みにされたロビンを見て叫ぶ。

 オーガがロビンを掴んでいる手を高らかに挙げ、もう一方の手の斧を振りかぶったその時。

 人1人が乗れる大きさに成長したクレアが、翼を羽ばたかせながら、咆哮し、それと同時に口から熱線を吐いた。

 それは、オーガの胸の中心を的確に貫き、大きな風穴を開けた。

 熱線を直に受けたオーガは、ゆっくりと、仰向けに倒れた。

 こうして、戦いは幕を閉じた。


 2人は、町中の家々を1軒1軒回り、オーガが死んだ事を伝えた。

 それを聞いた人々は、喜びを爆発させた。

 歓声を上げる者、歌い出す者、飛び跳ねる者。

 その日は朝まで続くお祭りだった。


 その後、ロビンはマリアにプロポーズし、2人は新たな王と女王になった。そして王の権限で、ソフィアを王室魔法使いとして呼び戻した。あのユニコーンもロビンの愛馬として尽くし、クレアもホワイトニング家の一員に快く迎えられた。

 2人は子宝にも恵まれ、生涯善政を尽くしたと言われている。

次回から遂に長編に挑戦します。よろしければ読んでいただけると嬉しいです。これからもよろしくお願いします。

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