第九三話:神祇省(後編)
「……ということで、改めて。席はご用意しましたので、お2人とも、どうぞこちらに」
土御門は、まるで動じず、椅子を引く。玲哉は苦笑し、琴葉は少し戸惑いながらも、彼の言葉に従って席についた。
「……あの。佐藤さんと焼津さんは……」
椅子は3つしかない。既に用意されているお茶も3人分。そのことで、琴葉は寂しそうにする。佐藤は眉間のシワを深めて言った。
「……分かりました。我々も、ご一緒させていただきます」
彼はいったん部屋を出て、しばらくしてから、パイプ椅子を2つ抱えて戻ってきた。部下が座る場所を開けるために、自分の椅子を動かしながら。土御門が、目を細める。
「……私の部下を、随分と買ってくださっているのですね。琴葉さんは」
「ええ。……とても優しい方々ですから」
微笑んで、彼女が答える。即席で作った自分の席に腰かけた焼津は、真顔で口を開いた。
「ありがとうございます。我々としては、あくまでも仕事上のお付き合いのつもりですが……」
「それは当たり前のことですよ。神葬祭で、気を使っていただけただけでも、ありがたいと思っています」
笑顔で返して、琴葉は出されたお茶を飲む。机の上に座る暁明が、ため息をつきながら口を挟んだ。
「……まあ、彼らだけならいいよ。問題はそこにいる男だ」
「おや。問題とは、また酷い言い様ですね」
「自分でも理解しているだろう? 君は徹頭徹尾、自分のために動いている。今もそうだ。琴ちゃんに優しくするのは、彼女を介して、僕たちの力を借りたいから。違う?」
土御門の方を見ながら、冷ややかな声で狐が言う。男は神の言葉を否定せず、笑みを深めた。
「……でも。神様の力を借りるだけなら、別に私が関わらなくともいいのでは……? 神祇省の方であれば、言霊の扱いにも長けていらっしゃいますよね?」
ただ、琴葉だけが。状況を理解できず、首を傾げる。玲哉は柔らかな笑顔を、彼女に向けた。
「それはそうですが、神祇省の方々も、こんな事態は想定していなかったでしょうから。僕としても、初めてのことです。始祖の話は、僕たちにとっては昔話の一部ですが、神々にとってはそうではない。考えてみれば、当然ですが……」
ティーカップを持つ女には、特別な存在であるという自覚などない。そして、だからこそ。神々は彼女に、拘っている。土御門はそれを察して、話を変えた。
「……とりあえず、僕の用件は後にしましょう。今日は時間もありますし、琴葉さん。あなたは何か、聞きたいことはありますか?」




